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シリア:米軍が違法駐留を続ける「グリーン・ヴィレッジ」基地を「イランの民兵」が砲撃し、兵士4人負傷

青山弘之東京外国語大学 教授
Voanews、2021年6月28日

シリア南東部のダイル・ザウル県で4月6日深夜から7日未明にかけて、ユーフラテス川東岸のウマル油田に米国が違法に設置している基地(グリーン・ヴィレッジ)が「イランの民兵」のロケット弾攻撃を受けた。英国を拠点に活動する反体制NGOのシリア人権監視団が発表した。

ウマル油田

ユーフラテス川東岸は、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の傘下にあり、アラブ人部族らが運営にあたるダイル・ザウル民政評議会が自治を担い、各所に北・東シリア自治局の武装部隊で、PYDの民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍が部隊を展開し、軍政を敷いている。

ウマル油田はダイル・ザウル民政評議会とシリア民主軍の支配下にあり、PYDおよび関連組織を支援する米軍が主導する有志連合(正式名は「生来の決意」作戦合同任務部隊(CJTF-OIR(Combined Joint Task Force - Operation Inherent Resolve))が「グリーン・ヴィレッジ」と呼ばれる基地を違法に設置し、部隊を駐留させている。

「グリーン・ヴィレッジ」は2018年半ば頃に設置された。ヘリポートが併設され、ヘリコプター12機が配備されたシリア領内における最大の基地の一つ。駐留部隊の規模は不明。

筆者作成
筆者作成

「イランの民兵」とは?

「イランの民兵」は、シーア派宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。「イランの民兵」は「シーア派民兵」と称されることもあるが、いずれも反体制派、欧米諸国、アラブ湾岸諸国、トルコによる蔑称である。シリア政府側においては、「同盟部隊」、あるいは「同盟者部隊」と呼ばれている。

シリア人権監視団によると、「グリーン・ヴィレッジ」に発射されたロケット弾は5発で、うち2発が爆発、残り3発は不発弾だった。

砲撃を受け、米主導の有志連合は「イランの民兵」の拠点複数カ所に対してミサイル攻撃を行った。

同監視団によると、4月7日正午直前にもウマル油田一帯で複数回の爆発音が聞こえた。爆発音の原因は不明。

ロイター通信は米軍兵士2人が負傷したと伝える

これに関して、ロイター通信は、米複数高官の話として、ウマル油田の米軍基地がロケット弾複数発による攻撃を受け、米軍兵士2人が負傷したと速報で伝えた。

2人は軽傷だが、治療のために搬送され、うち1人は脳損傷の検査を受けているという。

有志連合が声明で攻撃を受けたと認める

その後、有志連合が声明を出し、ウマル油田に設置されている米軍基地が攻撃を受け、兵士4人が負傷したことを認めた。

声明の内容は以下の通り:

4月7日午前1時9分、シリア東部の「グリーン・ヴィレッジ」の有志連合部隊が2度にわたる間接照準射撃を受け、支援棟2棟が攻撃を受けた。

現時点で、米軍兵士4人が軽傷を負い、外傷性脳損傷の可能性があると見込まれている。

事件は調査中である。我々は可能な限り追加情報を提供する。

質問がある場合は、「生来の決意」作戦合同任務部隊の広報に連絡されたい。

centcom.global.cjtf-oir.mbx.cjtf-oir-media-ops@mail.mil

シリアに違法駐留を続ける米軍

米国が主導する有志連合は、2014年9月にイスラーム国に対する「テロとの戦い」を行うとしてシリアに対する爆撃を開始した。この爆撃は、国連安保理での決議も、シリアのいかなる政治主体の要請も受けておらず、国際法違反にあたる。米軍(および英仏軍)はその後2015年末頃からユーフラテス川東岸地域を中心に地上部隊を展開させ、各所に違法に基地を設置していった。イスラーム国が弱体化した2019年以降は、油田防衛という新たな口実を掲げ、駐留を続けている。

 米軍は現在シリア領内の27カ所(ハサカ県15カ所、ダイル・ザウル県9カ所、ラッカ県1カ所、ヒムス県2カ所)に基地を設置、600人とも1,500人とも言われる将兵を駐留させている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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