【令和元年 佐賀豪雨】被災者生活再建支援法が適用 「佐賀県弁護士会便り」活用を
■佐賀県武雄市と大町町に被災者生活再建支援法が適用
令和元年8月の前線に伴う大雨(令和元年8月豪雨)では、佐賀県を中心に大きな被害が発生した。8月28日には佐賀県全域に災害救助法が適用され、官民の様々な支援も始まっている(Yahoo!ニュース個人「【令和元年8月九州北部豪雨】佐賀県全域に災害救助法 生活再建に役立つ制度の情報を得よう」参照)。
9月6日には、床上浸水被害が多数に及んだ佐賀県武雄市と同県大町町に対し「被災者生活再建支援法」の適用が決定された(佐賀県ウェブサイト)。これにより家屋に甚大な被害が発生した世帯では、最大300万円の「被災者生活再建支援金」の給付を受けることができる。
■被災者生活再建支援制度とは
被災者生活再建支援制度とは、住宅に「全壊」、「大規模半壊」、「半壊住宅をやむを得ず解体した場合」、「長期避難世帯の指定があった場合」といった被害が発生した「世帯」に対してお金を給付する制度である。使途が自由な「基礎支援金」は最大100万円。「加算支援金」は、その後の再建手法に応じて最大200万円となっている。なお「全壊」かどうかの判定には「罹災証明書」に記載された被害認定によることが実務である(罹災証明制度の概要については、筆者コラム「生活再建への「正しい」知識の備え」の「罹災証明書は生活再建への第一歩」、「罹災証明書の被害認定、写真撮影も忘れずに」等を参照されたい)。
被災者生活再建支援制度の概要や、適用要件の詳細については、自治体のお知らせや内閣府のウェブサイト(被災者生活再建支援法)を確認してほしい。また、上記コラムのうち「住まいの全壊等には被災者生活再建支援金を」、「被災者生活再建支援金、最大200万円の加算支援金も」においても制度概要を簡単に解説しているので、ぜひ参考にしてほしい。
■被災者生活再建支援法の限界と今後の課題
被災者生活再建支援法は、現金支援という心強い制度であるが、近年の広域化する災害を前にしては、「半壊の涙、境界線の明暗」ともいうべき課題が浮かび上がっている(Yahoo!ニュース個人「半壊の涙、境界線の明暗~全国知事会が被災者生活再建支援法の改正を提言」参照)。
被災者生活再建支援法は、自治体の単位で適用される。本件豪雨では、県全域指定ではなく、武雄市と大町町のみの適用にとどまっている(9月6日時点)。これらの市町に次いで被害住宅数の多い、佐賀県多久市の被害状況は、全壊1、床上浸水78、床下浸水78と甚大である(9月6日時点、佐賀県被害集計資料より)。しかし、現在の政令の基準では、同市は法適用の要件を満たしていない。同一の災害であるにもかかわらず、隣接する武雄市と大町町と比べて法律上の支援に差が出ているのが実態である。
法律が適用されても、被災者生活再建支援金を得られるのは、実際に「全壊」や「大規模半壊」など重大被害に限られる。床上浸水被害を受けていても必ずしも「全壊」や「大規模半壊」になるわけではなく、支援対象にならない世帯も多くなる可能性がある。建物の被害認定についてはできるかぎり柔軟な評価がなされることを期待したい。
■油被害を考慮した被害認定を
佐賀県大町町では工場から油が流出し、家屋が汚損される被害が多く発生している。単に建物の構造上の被害だけを被害認定根拠にしてしまうと、油の汚損の実情が考慮されないおそれがある。被災者生活再建支援法は、自然災害によって自宅に住むことができなくなった被災者の再建を促すための法律である。筆者としては、実質的に居住空間として十分であるのかどうか、健康被害の発生の恐れはないのかなども総合的に考慮したうえで、住宅としての効用が損なわれていれば、「全壊」として評価するという解釈は十分に可能だと考える。
佐賀県の山口祥義知事は、油の混じった浸水被害という特殊性に配慮した柔軟な認定基準を示すよう政府に要望している(佐賀新聞Live・2019年9月7日「武雄、大町に再建支援法 県決定 被害応じ最大300万円」より)。
また、被災者への無料相談活動をはじめた佐賀県弁護士会でも「佐賀県豪雨の被害に関し、被災者生活再建支援法の柔軟な運用を求め、当会の取組みを宣明する会長談話」のなかで「住家の全壊判定にあたっては、実質的な経済的効用の観点を重視すべきであり、たとえば油流出・残存被害を受けた住家については油除去に多大な費用を要することが予想されることから全壊判定に積極的であるべきであり、また半壊判定だとしても解体の必要性がやむを得ないとの判断がなされるべき」と訴えている。
この点につき、災害法制を専門とし、先日「被災者総合支援法案・要綱」(関西学院大学災害復興制度研究所法制度研究会)をとりまとめた際の座長である関西大学の山崎栄一教授は、「単なる浸水として扱うのではなく、油の付着による価値や機能の低下の度合いならびに油除去の可能性や費用に照らし合わせて、損害の度合いを判定すべき。何らかの形で、単なる浸水とは違なる損傷度の判定がなされるべき。」と指摘する。法制度の柔軟な解釈運用が求められることは間違いないだろう。
■「弁護士会便り」や弁護士会の無料相談を利用しよう
佐賀県弁護士会は、8月31日を皮切りに、被災者や被災事業者への無料相談活動を実施している。詳細や実施期間については、佐賀県弁護士会が発信する「令和元年8月豪雨災害」に関する無料相談実施のお知らせを随時確認してほしい。
加えて、被災後の生活再建情報をまとめたものとして、「佐賀県弁護士会便り」を紹介したい。これまでにも、災害時に弁護士は、被災者支援のための情報提供活動・無料相談活動を行ってきている(Yahoo!ニュース個人「【平成30年7月豪雨】弁護士会ニュースや各種窓口で生活再建の知識の備えを」、「【九州北部豪雨】「生活再建の支援情報「福岡県弁護士会ニュース」(2017年7月10日版)発行」等参照)。
令和元年8月の豪雨を受けて臨時発行された「佐賀県弁護士会便り」(第98号・第99号)には、「罹災証明書・被災証明書」、「建物の応急修理」、「損害保険」、「貴重品の紛失」、「流れ着いた物について」など、被災後の生活再建への気づきや知恵が詰まっている。今後の情報発信にも注目したい。
(参考文献等)
岡本正「災害復興法学」(慶應義塾大学出版会)
岡本正「災害復興法学2」(慶應義塾大学出版会)
岡本正「もしも大災害で社員が被災したら?生活再建への「正しい」知識の備え」(リスク対策ドットコムにて連載中)