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令和6年奥能登豪雨が非常災害指定 令和7年9月まで無料法律相談措置も対象は限定的 求められる法改正

岡本正銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)
法務省旧本館赤レンガ棟(筆者撮影)

奥能登豪雨で資力を問わない無料法律相談措置

 「令和6年9月20日から同月23日までの間による豪雨災害」(いわゆる令和和6年奥能登豪雨)が総合法律支援法の「非常災害」に指定されました。2024年12月20日に政令が閣議決定されました。総合法律支援法によれば、「著しく異常かつ激甚な非常災害であって、その被災地において法律相談を円滑に実施することが特に必要と認められるものとして政令で指定するものが発生」した場合、適用区域を定め、一年を超えない範囲内で、資力の状況に関わらず被災者の無料法律相談事業を、日本司法支援センター(法テラス)が実施できます。

 対象地区は、令和6年奥能登豪雨により災害救助法が適用された、石川県の6市町

 七尾市、輪島市、珠洲市、志賀町、穴水町、能登町

 です。

 法律で災害発生から1年間が上限となっており、今回は満期の

 令和7年(2025年)9月19日まで

 となります。

 災害発生から3か月経過してからの非常災害指定となりましたが、この背景には、被災者の無料法律相談を継続してきた、全国の弁護士らの熱意ある政策提言がありました(詳細は「被災者無料法律相談の期間を延長する法改正を~能登半島地震から1年の期限迫る」を参照)。

 すでに、令和6年能登半島地震は総合法律支援法の非常災害になっており、2024年1月1日から12月31日までの無料法律相談措置を実施中です。今回は、重ねて非常災害指定となったことで、事実上、石川県6市町については、令和7年(2025年)9月19日まで無料法律相談措置が延長されたわけです。 

能登半島地震と奥能登豪雨の複合災害を考慮

 非常災害に指定される災害は「著しく異常かつ激甚」なものに限られ、過去にこれと同等の災害といえば、阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、令和元年東日本台風等、令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震の8つだけとなります。これらの8つは、特定非常災害特別措置法という法律に基づき、「著しく異常かつ激甚」であると判断されて「特定非常災害」に政令指定されています(特定非常災害については「令和6年能登半島地震が8例目の特定非常災害指定 行政手続や相続放棄の期限延長や半壊住宅の公費解体も」等参照)。その際、総合法律支援法(前進となる特例法を含む)も、連動して「非常災害」に指定され、無料法律相談措置が取られてきたのです。

 令和6年奥能登豪雨は、もし能登半島地震が起きていなかったとすれば、特定非常災害特別措置法の特定非常災害の条件や、総合法律支援法の非常災害の条件を満たさなかっただろうと言われています。しかし、政府は、特定非常災害に指定されている令和6年能登半島地震の被災地において、更に令和6年奥能登豪雨が「複合災害」として発生したことを考慮し、総合法律支援法の「非常災害」に該当すると判断したのです。発生原因の異なる災害による複合災害が、法律の適用において考慮されたはじめての事例だと言えます。

 なお、現時点では特定非常災害特別措置法による各種政令指定はないようで、あくまで総合法律支援法による非常災害の政令指定のみようです。

無料相談の支援対象は奥能登6市町に限られる

 総合法律支援法による、発災から1年間の資力を問わない無料法律相談措置の対象は、奥能登豪雨で災害救助法の適用された石川県6市町だけです。令和6年能登半島地震の被災地(石川県、富山県、新潟県、福井県)は、特定非常災害かつ非常災害指定を既に受け、無料法律相談事業が実施されているものの、令和6年(2024年)12月31日が期限となります。例えば、富山県の氷見市や高岡市など極めて被害が甚大な地域もあります。新潟県も各地で液状化被害は深刻です。これから住まいの再建や支援金に関する法律相談が多数予想される地域です。奥能登豪雨の被災地を「非常災害」に指定するだけでは、能登半島地震との関係では不十分だと言えます。

 また、能登半島地震から奥能登豪雨までの間に、地域外へ広域避難をし、避難先自治体で支援を受ける便宜から住民票を移転してしまっているような方は、支援対象になるかどうか、必ずしも安心できません(生活の本拠を柔軟に解釈して支援する余地があるとはいえです)。

総合法律支援法の改正を目指せ

 総合法律支援法によって非常災害の政令指定を受けても、資力を問わない無料法律相談措置は1年が上限となっています。これはあまりに硬直的であり、首都直下地震や南海トラフ地震のことを考えれば不十分であることは明白です。東日本大震災では、臨時特例法制定を何度も繰り返し、無料相談を約10年間も延長してきました。また、近年広域化・激甚化する風水害のことを考えれば、今回のような「複合災害」に対応するためにも、延長できるようにしておくことは必須だと言えます。

 そこで、総合法律支援法を改正し、無料法律相談を1年としている条文を改正して、政令によって数年(少なくとも2年以上)は延長ができるようにしておく必要があります。

 当面は、令和6年能登半島地震について無料法律相談措置を延長するためにも、そして、将来の大規模災害や複合災害に備えておくためにも、超党派による議員立法などにより総合法律支援法の速やかな改正が強く求められます。

(参考資料)

法務省「「令和六年九月二十日から同月二十三日までの間の豪雨による災害についての総合法律支援法第三十条第一項第四号の規定による指定等に関する政令」について

岡本正「被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版」弘文堂

岡本正「災害復興法学」慶應義塾大学出版会

岡本正「災害復興法学Ⅱ」慶應義塾大学出版会

岡本正「災害復興法学Ⅲ」慶應義塾大学出版会

 

銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)

「災害復興法学」創設者。鎌倉市出身。慶應義塾大学卒業。銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。岩手大学地域防災研究センター客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。医療経営士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・防災士。内閣府上席政策調査員等の国家公務員出向経験。東日本大震災後に国や日弁連で復興政策に関与。中央大学大学院客員教授(2013-2017)、慶應義塾大学、青山学院大学、長岡技術科学大学、日本福祉大学講師。企業防災研修や教育活動に注力。主著『災害復興法学』『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』『図書館のための災害復興法学入門』。

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