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【令和元年8月九州北部豪雨】佐賀県全域に災害救助法 生活再建に役立つ制度の情報を得よう

岡本正銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)
まずは罹災証明書の申請から(著者撮影)

 令和元年8月の前線に伴う大雨被害により被災された方々に衷心よりお見舞いを申し上げるとともに、最前線で救援・復旧活動に従事されている方々の安全をお祈りします。

 ここでは、災害救助法が適用された佐賀県を念頭において、被災後の生活再建などに役立つ法制度を紹介します。過去の災害における被災者のリーガル・ニーズ分析も参考にしながら、ニーズが高いと思われるものをピックアップします。

■罹災証明書

 罹災証明書(りさいしょうめいしょ)とは、災害による住宅等の被害の程度(全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊)を証明する書面です(内閣府「罹災証明書」)。住宅の被害の程度が一目瞭然となるため、様々な被災者支援の際に基準として活用できるメリットがあります。自治体のウェブサイトなどを確認したうえで、漏れなく申請を行うようにしてください。なお、被害状況については片付けや撤去前に写真撮影しておくことをお勧めします。実際に証明書を受け取れるのは被害認定作業後になります。

 佐賀県武雄市では、同市のウェブサイト「たけおポータル」>「被災者のみなさまへ」>「り災証明書の申請受付について」とたどれば、罹災証明書の申請の説明があります。

 

■自然災害被災者債務整理ガイドライン

 住宅ローン、自動車ローン、奨学金、個人事業ローン等、災害前からの個人の借入金で、災害が原因で支払い困難になってしまった場合には、まずは「自然災害被災者債務整理ガイドライン」(被災ローン減免制度)が使えるかどうかを確認してください。災害救助法適用地域ではない方でも利用できます。ガイドラインの利用ができれば、ローン減免が可能になる場合があります。収入や資産が多い場合は利用できない場合もありますが、返済条件変更(リスケジュール)をする前に、まずは利用できるかどうかの相談をしてみてください。不明な点は、弁護士の相談を受けることを強くお勧めします。

 なお、ガイドラインを利用して借入金の減免を受けても、信用情報(いわゆるブラックリスト)に登録されませんので、その後に新たな借入をすることもできます。

■公共料金や保険料等の各種支払への支援

 災害救助法の適用を受けて、民間企業も各種支払いについての支援措置を実施しています。たとえば、携帯電話会社各社では、被災者支援のためのお知らせをリリースしており、支払い猶予措置の支援を実施しています。各社の窓口への問い合わせをお勧めします(例:NTTドコモKDDIソフトバンク)。

 また、生命保険会社及び損害保険会社の各社も、保険料の支払い猶予措置を実施しています。詳細は契約先の各社へ問い合わせていただく必要がありますが、支援概要については、「生命保険協会」「日本損害保険協会」等で確認することができます。なお、契約している会社がわからない場合は、各協会に問い合わせ窓口がありますので、ウェブサイトにて確認してください。

 行政や公的機関への支払いについても、配慮措置がとられている場合が多いので、それぞれの窓口で支援策を確認してください。

■中小企業・小規模事業者への支援

 災害救助法が適用されたので、「被災中小企業・小規模事業者対策」の「5点セット」((1) 特別相談窓口の設置、(2) 災害復旧貸付の実施、(3) セーフティネット保証4号の適用、(4) 既往債務の返済条件緩和等の対応、(5) 小規模企業共済災害時貸付の適用)の支援が発動されています。いずれも窓口に具体的な相談をしていくことが必要になりますので、できる限り情報を直接得るようにしてください。

 

■佐賀県弁護士会の活動に注目

 これまでの災害でも、弁護士は、災害後の生活再建を支援するために、被災した方や事業者への情報提供活動・相談活動を行ってきた実績があります。

 佐賀県弁護士会(奥田律雄会長)は、8月29日に「佐賀県市長会と災害時における連携協力に関する協定を締結しており、佐賀県とも、当会が加盟する佐賀県専門士業団体連絡協議会が大規模災害等発生時における相談業務の支援に関する協定を締結しております。当会は、これら協定に基づいて自治体と連携し、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会及び全国の弁護士会のご協力も仰いで、会をあげて被害を受けた方々の支援に取り組み、被災地域の復旧・復興に助力します。」との会長声明を発しています。

 早速、8月31日午後2時から佐賀県弁護士会館にて「災害に関する無料相談会」(申込不要)を開催する旨をリリースしました。今後とも自治体と連携した相談会の開催等が期待されます。

 弁護士会では、「被災者支援チェックリスト」「被災者生活再建ノート」などを利用し、生活再建に役立つ制度の周知を行っています。まずは弁護士の無料相談で情報収集することをお勧めしたいと思います。なお、これらの情報のなかには、有力な支援制度のひとつである「被災者生活再建支援法」に関する記述が含まれていますが、8月30日の時点で法律は適用されていません。今後の動向を注視してください。

■役立つ情報を逃さないでほしい

 災害後には、被害情報や復旧活動に関する大量の情報が飛び交います。ご自身や、家族や、組織の従業者のためにと思っても、「生活再建に役立つ制度」をピンポイントでキャッチすることは難しくなります。このニュースを参考にして、自分や家族の生活を取りもどすための情報を逃さない「知識の備え」としていただければ幸いです。

(参考資料)

内閣府(防災担当)ウェブサイト

・岡本正「もしも大災害で社員が被災したら? 生活再建への『正しい』知識の備え」(罹災証明書や各種支援制度を紹介する連載コラムです)

・岡本正「災害復興法学」

・岡本正「災害復興法学2」

銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)

「災害復興法学」創設者。鎌倉市出身。慶應義塾大学卒業。銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。岩手大学地域防災研究センター客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。医療経営士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・防災士。内閣府上席政策調査員等の国家公務員出向経験。東日本大震災後に国や日弁連で復興政策に関与。中央大学大学院客員教授(2013-2017)、慶應義塾大学、青山学院大学、長岡技術科学大学、日本福祉大学講師。企業防災研修や教育活動に注力。主著『災害復興法学』『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』『図書館のための災害復興法学入門』。

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