半壊の涙、境界線の明暗~全国知事会が被災者生活再建支援法の改正を提言
被災者生活再建支援法の改正を提言
全国知事会は、大規模な災害で住宅が被災した世帯に支給される「被災者生活再建支援金」の支給対象の拡大や、地域間格差の解消を求める提言を決議した。提言の実現には被災者生活再建支援法や同法施行令の改正が必要となる。
全国知事会は、11月9日開催の全国知事会議において、「被災者生活再建支援制度の充実と安定を図るための提言」を決議。同月2日の全国知事会危機管理・防災特別委員会にて、同被災者生活再建支援制度に関する見直し検討ワーキンググループによる「被災者生活再建支援制度の見直し検討結果報告」とともに、提言の素案を公表していた。また、同月19日には内閣府防災担当大臣への要請活動も実施したところである。
被災者生活再建支援制度の充実と安定を図るための提言
1 被災者生活再建支援制度の支給対象を半壊まで拡大すること。
2 基金への都道府県による追加拠出にあたっては、これまでの拠出時と同等以上の財政措置を講じること。
3 相互扶助の理念に基づく被災者生活再建支援法の想定を超える大規模災害発生時は、東日本大震災の対応や教訓等を踏まえ、特別の国の負担により対応すること。
4 一部地域が適用対象となるような自然災害が発生した場合には、法に基づく救済が被災者に平等に行われるよう、全ての被災区域を支援の対象とすること。
被災者生活再建支援制度とは
被災者生活再建支援制度とは、被災者生活再建支援法にもとづき、全壊等の住家被災があった世帯へ被災者生活再建支援金の支給を行う制度である。例えば、適用地域において住家が「全壊」との認定を受けた世帯は、最大で100万円の使途自由の「基礎支援金」を受け取ることができる。また、その後の住宅再建の際には、最大で200万円の「加算支援金」を受け取ることができる。住宅損壊を契機として現金支給がなされる唯一の法律上の制度であり、被災者にとっては再建の第一歩となる極めて重要な支援となっている。過去の災害でも幾度となく適用決定・支給がなされてきた。平成30年7月豪雨や北海道胆振東部地震等の被災地においてもこれらの制度が適用されている(詳しくは内閣府(防災担当)ウェブサイトを参照)。
現行制度の課題―半壊の涙、境界線の明暗―
被災者生活再建支援法及び同施行令によれば、給付対象は、住家が「全壊」「大規模半壊」「半壊でやむを得ず解体した場合」「長期避難世帯」などの認定を受けた場合に限られる。「半壊」や「一部損壊」の世帯には支援金が支給されない。しかし、半壊とは「家屋損害の割合が20%以上40%未満」という状態であり、現実には住める状態ではない場合も多い。構造上の損傷が少なくても、実際には水害や雨漏りでカビの被害が蔓延したり、地盤損傷やインフラ損傷で結局のところ生活には大きな支障があったりするケースは枚挙にいとまがない。そのような場合に支援対象にならないことは、被災者にとっては酷な結果となる。
また、被災者生活再建支援法が適用されるためには「10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村」「100世帯以上の住宅全壊被害が発生した都道府県」など、市町村や県の区画ごとに一定数の全壊住宅被害がなければならない。これは法律ではなく「被災者生活再建支援法施行令」によって定められている。たとえば、一つの自然災害で、隣接するA市は全壊住家が10棟、B市は全壊住家が1棟となれば、同じ災害であるにもかかわらず、B市の1棟には被災者生活再建支援法が適用されない。まさに行政区画という境界線で明暗が分かれるのである。
「半壊の涙、境界線の明暗」問題の解消を~知事会提言のポイント
全国知事会は、「被災者生活再建支援制度の支給対象を半壊まで拡大すること」と提言し、具体的には住家の半壊世帯への支援額を50万円にすべき旨を提言した。現行制度の支給金額を前提にすれば十分考慮された額と言えそうだが、全体的なボトムアップも不可欠になると思われる。
また、「一部地域が適用対象となるような自然災害が発生した場合には、法に基づく救済が被災者に平等に行われるよう、全ての被災区域を支援の対象とすること」と提言し、「一災害一支援制度」の原則を述べている点も重要だ。同じ災害における、同じ被害であるにもかかわらず、支援を受けられる世帯とそうでない世帯を生むことがないようにすべきである。同様の問題は2012年から2013年に関東地方で頻発した竜巻被害の際にも明確に問題点が指摘されていた。
本来であれば2011年の東日本大震災の年が、2007年に大幅改正された「被災者生活再建支援法」の見直しの年だった。しかし、東日本大震災やその後の大災害の混乱の中で本格的な検討が放置されたまま、すでに7年以上の年月が経ってしまっていることも付言しておきたい。
提言のその先~災害ケースマネジメントの法制化へ~
世帯や住宅損壊にのみ紐づいた支援ではなく、一人ひとりの生活や再建への希望に応じてきめ細やかな支援メニューを用意すべきである。特に、高齢者等への「見守り支援」活動も、支援からこぼれおちる被災者を生まないために法制度として整備すべきではないだろうか。このような考え方は「災害ケースマネジメント」と呼ばれ、日本弁護士連合会の「被災者の生活再建支援制度の抜本的な改善を求める意見書」でも言及されている。特に急務だと考えるのは、住宅修繕制度の大幅拡充である。現在は、災害救助法適用地域において、60万円弱相当の応急修理制度が存在しているに過ぎないが、半壊住宅が十分に修理できる程度には増額しなければならないだろう。
知事会の提言を受け、11月29日、岩手弁護士会は「全国知事会の提言に賛同し、被災者生活再建支援制度の見直しを求める会長声明」を発した。岩手弁護士会副会長で日弁連災害復興支援委員会副委員長の吉江暢洋弁護士は、「被災者への支援が強化されることは良いことで、被災の程度が同じでも、微妙な認定の差で支援が全く受けられない被災者が存在する現状を変える必要がある。さらには、個々の被災者が、必要な支援を漏れなく受けられるように、被災者毎に寄り添って支援する仕組みを確立しなければならない。」とし、災害ケースマネジメントの法制化の重要性を述べた。
地震保険加入や共済制度の拡充を
自治体では、被災者生活再建支援金の対象とならない住宅や事業所への支援制度を独自に設けている場合があるが、全国的にみればばらつきが大きい。また、義援金に頼った施策にするわけにもいかないだろう。少なくとも、現行法制度の一定程度のボトムアップと支援メニューの増加は必要ではないだろうか。
法律上の生活再建制度の拡充だけではなく、自助による対応も不可欠だと思われる。ハード面としては、住宅やマンションの耐震工事の促進が一層必要である。ソフト面では、地震保険への加入や、兵庫県が実施する兵庫県住宅再建共済制度(通称「フェニックス共済」)の全国展開を推し進めていく必要があるのではないだろうか。全国知事会や日弁連の提言を踏まえつつ、公助をより効果的な制度にする一方で、自助による準備も両輪で進めていくことが求められる。
(参考資料)
・岡本正「災害復興法学2」(慶應義塾大学出版会2018)―第2部第5章「家族の生活(2)災害救助法を徹底活用せよ」、同第6章「家族の生活(3)半壊の涙、境界線の明暗」
・岡本正「災害復興法学」(慶應義塾大学出版会2014) ―第2部第10章「絶望を希望に変える情報を伝えるために」