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俳優成宮寛貴さん「今すぐ芸能界から消えてなくなりたい」の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

俳優成宮寛貴さん引退コメント。不安定さを感じます。「遺書のようだ」と言う人もいます。私たちは、どう考えるべきでしょうか。

■俳優成宮寛貴さん突然の引退コメント「今すぐ芸能界から消えてなくなりたい」の心理

テレビドラマ「相棒」などで活躍した俳優成宮寛貴さん。先日、薬物疑惑が週刊誌に報道されましたが、突然の引退声明です。週刊誌報道に関しては、事実無根であり法的措置も問わないという対応でしたが(尿検査は陰性)、今回突然手書きのコメント文で引退を発表しました。

【成宮寛貴直筆コメント全文】「今すぐ芸能界から消えてなくなりたい」スポニチアネックス 12/9(金)

成宮寛貴が芸能界引退、所属事務所が発表スポーツ報知 12/9(金)

■成宮寛貴さんのコメント全文を読んで感じること

コメント全文を拝見すると、不安定さを感じます。

まず手書きですが、あまり丁寧に書かれたようには見えません。また、あいさつ文もなしにいきなり本題に入ります。その書き出しも「全ての原因を作ったのは自分自身」と、自分を責める文章から始まっています。

そして、「友人に裏切られ」「不安と恐怖と絶望感」「もう耐えられそうにありません」「今すぐこの芸能界から消えてなくなりたい」「これ以上の迷惑をかける訳にはいかない」「少しでも早く芸能界から去るしか方法はありません」などの言葉が並びます。

自責の念、絶望、視野狭窄(柔軟性を失い一つのことしか見られない)などを感じます。実際には、優れた俳優である成宮さんを多くの人が応援していることでしょうし、周囲はあの手この手を考えていたはずです。周囲は迷惑などとは思っていないでしょう。

「絶対に知られたくないセクシャリティな部分もクローズアップされ」ともあります、これも芸能人には時々ある噂話の類だと思いますが、過剰に捉えているように思えます。

結論をとても早く明確に出していますが、人は、心理的に追い詰められると白黒をつけたくなります。ともかく今の苦しみから逃れたいと思うからです。

しかし心理学的に言えば、不安定な状態で、退職、引退、離婚、退学など、大切なことを決めてはいけません。やめることはいつでもできるからです。

もしこのまま本当に引退してしまうと、成宮さんは、友人を失い、仕事を失い、名誉を失ったと感じるのではないでしょうか。このような多くの喪失体験に一度にさらされると、人の心はさらに心は不安定になります。

どんなに強くて立派な人も、時に不安定になることもあります。誰もが、誰かのサポートを必要とすることがあるでしょう。

■遺書のような文章?

ヤフーコメント欄には、次のような投稿が並んでいます。

「自ら命を絶ってもおかしくない位の追い込まれよう。嫌な予感がするよ...」

「これって遺書に見えるんだけど大丈夫?」

「遺書みたいな文面で、ちょっと心配…」

「成宮君、精神的に絶対ヤバイ!皆様も言ってますが、遺書みたいで心配です(T_T)」

一般的に言って、「死にたい」はもちろんのこと、消えたい、いなくなりたい、遠くに行きたい、会社や学校をやめたいなども、自殺予防の観点から見れば、自殺のサインと考えます。

ヤフーコメント欄の皆さんが感じられていることは、とても正しい感覚だと思います。

■自殺のサインを感じた時

ただし、サインだと感じても本当に死への思いが強いのかどうかはわかりません。自殺のサインを感じた時の原則は、「大騒ぎせず無視もせず」です。

自殺予告だと大騒ぎしすぎると相手を傷つける場合もありますし、失礼に当たることもあります。大騒ぎしすぎると、そのあと本当のことを話さなくなる人もいます。

たとえば居酒屋やSNSで、「ああ、もう死にたいよ」「会社やめたいなあ」などと言ったら、警察や救急車がやってきて大騒ぎなどになってしまったらどうでしょうか。もう怖くて話ができなくなるでしょう。

今まさに死のうとしているような自殺の危険が切迫している時には、押さえつけることも必要ですし、警察や消防を呼ぶことも、医療の力を借りることも必要です。

しかし、自殺のサインは多くの場合はっきりしません。だから、過剰反応は良くありません。

けれども、だからと言って周囲が遠慮しすぎて何もしないと、本人が無視されたと感じてさらに追い詰められることもあります。あるいは本当は自殺の危機が迫っているのに、「様子を見よう」という言葉で何もしないと、その間に本人が自殺を実行してしまう危険性もあります。

大騒ぎはしないけれども、決して無視もせず、身近な人がそばにいて語りかけ、目を離さないことが大切です。

「どうした?」「何かあった?」「話してみろよ」など、一声かけ、さらにもう一声かけ、その人と共に時間を過ごしましょう。説教や正論よりも、心配していることを伝え、話を聞くことが効果的です。

成宮さんが冷静に考えた上での結論なら応援したいとは思いますが、「今すぐ芸能界から消えたい」はやはり心配な言葉です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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