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カタールW杯を「システム論」で読み解く。ゼロトップの失敗と5バックを敷く「弱者の兵法」の流行。

森田泰史スポーツライター
ボールをキープするメッシ(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

カタール・ワールドカップが、終わりに近づいている。

決勝のカードはアルゼンチン対フランスに決まった。リオネル・メッシとキリアン・エムバペという2大エースを擁するチーム同士が、ジュール・リメ杯をめぐり激突する。

■強豪国の早期敗退

アルゼンチンとフランスのここまでの戦いぶりは見事だった。一方、今大会においては、スペインやドイツが早期敗退に終わっている。

一体、なぜ強豪国が早々と姿を消したのかーー。そこには戦術トレンドの影響があった。

ドリブルするアセンシオ
ドリブルするアセンシオ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

典型だったのが、スペインだ。

スペインはカタールW杯で「9番タイプ」の選手がアルバロ・モラタのみだった。ルイス・エンリケ監督はマルコ・アセンシオをCFの位置に据え、いわゆるゼロトップで試合に臨む準備を進めていた。

「アセンシオは本来なら右サイドに置かれる選手だ。そこから中央に入ってきてプレーするのが彼の特徴。だがスペイン代表では、9番のポジションで我々に多くをもたらしてくれるはずだ」とはルイス・エンリケ監督の弁である。

ルイス・エンリケ監督がゼロトップを採用したのには理由がある。W杯の準備期間に、ミケル・オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、ジェラール・モレノ(ビジャレアル)らが負傷で欠場を余儀なくされていたためだ。

ルイス・エンリケ監督がゼロトップのアセンシオに求めたのは、守備時にプレスのスイッチャーになり、攻撃時に中盤まで降りてきてポゼッションに参加することだった。

スペインは攻撃の時に【4−1−2ー1−2】を形成する。ウィングがワイドに張り、前線と中盤の間のスペースをアセンシオが使う。この空間を生み出すのは、指揮官にとって重要なファクターだった。

5エリア(ファイブ・エリア)攻略のためにも、理に適っていた。WG、IH、ゼロトップが段差をつけながら5レーンに位置取る。ボールを回して、相手を引き出すという意味では、これは成功していた。

だが課題がなかったわけではない。後述するが、今大会においては5バックを敷くチームが出てきていた。5エリアに守備者を配置された場合、逆にスペインに攻め手がなくなる。そこからの一手が、ルイス・エンリケ監督にはなかった。

スペインには、次の一手として、WGやI Hの動きが必要だった。

ゼロトップが引いて空けたスペースに、ほかの選手を飛び込ませる。そのような攻撃の構築が、スペインにはなかった。

無論、それだけが早期敗退の理由ではない。しかしながら、最後まで、引いて守る相手を崩せなかったスペインに、攻撃の構築の点で問題があったのは確かだろう。

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■5バックの流行

一方で、今大会、注目されたのが5バックだ。

カタールW杯がスタートした時点で、最も多く使われていたのは4−3−3だ。エクアドル、セネガル、アメリカ、アルゼンチン、メキシコ、デンマーク、チュニジア、スペイン、カメルーンと9チームがこの布陣を採用していた。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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