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「感動、ですね」。第100回全国高校大会総括&ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 大阪・東大阪市花園ラグビー場での第100回全国高校ラグビー大会は1月9日、全日程が終了。無観客のもと、史上最多の63校がしのぎを削った。決勝では桐蔭学園が京都成章を破り、2大会連続3度目の優勝を果たした。

■深い競技理解

 昨季王者の桐蔭学園は準決勝、決勝で大阪朝高、京都成章と前に出る防御を繰り出すチームと対戦。いずれも前半を12―12、10―10と競ったが、最後はそれぞれ40―12、32―15と点差をつけた。

 防御を片側に寄せて逆方向へパスを回したり、わずかな綻びを突くや一気に展開したりと、競技理解に基づく組織的な攻めを披露したのだ。ラグビーの球技的な要素を深く学び取っていた。

 1年生フルバックの矢崎由一は、準決勝の直後にこう話していた。

「大阪朝鮮さんの前に出るプレッシャーが思ったより強かった。(攻撃の課題を)ハーフタイムに修正できたのはよかったです。(改善点は、攻撃ライン上での)立ち位置。あとはずっと100パーセントでやり続けると(相手との間合いが)詰まってしまうので、そこで余裕を持ってやろうと話しました」

 決勝戦では後半開始早々、自陣深い位置から球を保持するうちにわずかずつ前進。敵陣深い位置で一時、ターンオーバーされるも、相手のミスを誘って勝ち越し点をもぎ取った。

 ロックの青木恵斗はこうだ。

「試合2日前、原田衛さん(現慶應義塾大学)が主将だった頃の京都成章との試合(第97回大会の準々決勝、36-14で勝利)を見せてもらって。そこでは自陣からずっとコンタクトをしていた。自分たちもそのプランで行くのもありかなと。風も強かったので、キックを使わず自陣から継続するというプランでした」

 守っても要所でのジャッカルでピンチを防ぐなど、格闘技的な側面からも逃げなかった。象徴的存在はナンバーエイトの佐藤健次。突破とボール奪取の両方で光った。

 ともかく桐蔭学園は、普遍的な勝ち方を把握し、かつ実践できる集団だった。

■指導者たちの涙

 準優勝の京都成章は今回が初のファイナルだった。56歳の湯浅泰正監督はしみじみと言う。

「あかんのかもしれないんですが、いま、満足しているんですよね。これで帰って悔しさが出てきたらまた頑張れると思います。課題は明確なので、気力があれば(改善したい)。ただ、年なので!」

 準決勝では東福岡に24―21と僅差で勝利。ラストワンプレーで逆転トライを防いだ。スクラムハーフの宮尾昌典ら花形選手を、インサイドセンターの松澤駿平ら名ディフェンダーが支えていた。

 ちなみにここで屈した東福岡は、準々決勝で後半ロスタイム48分にも及ぶ激戦を乗り越えている。優勝候補と見られた東海大大阪仰星と21―21で引き分け、抽選で勝ち抜いた。

 東海大大阪仰星の湯浅大智監督が「感動ですね。すごいです。あいつら(教え子)は。感謝しかないです…」とグラウンドに一礼した2日後、東福岡の藤田雄一郎監督は「いやぁーーー、楽しかったですね。5試合、やり切りました」と言葉を絞り、その延長で涙を流した。

「粘り強く。東福岡の新たなカルチャーが(見えた)。高校ラグビーって、すごくいいな」

■39名で4強、途切れぬ集中力、フィジー旋風

 準決勝で桐蔭学園に敗れた大阪朝高は、2大会ぶり11度目の出場。2季連続となった2010年度以来の4強入りを果たす。

 スクラムハーフの李錦寿は言う。

「僕たちが活躍することで、大阪朝高でラグビーがしたいと思える子が出てくるようにしたい」

 部員数39名。選手層の厚い常連校に比べればかなり少人数だ。未来のために戦う大義を献身的な防御、鋭いキックチェイスに変え、ディスプレイの向こう側へも鮮烈な印象を与えただろう。

 少人数と言えば、22名で2回戦進出の城東もキックと防御の合わせ技による試合運びで可能性を示した。

 フィジー人留学生が話題となった大分東明は、タフな日本人選手も交えて魅惑的な攻撃を披露する。

 3回戦では自陣でのパスミスを失点につなげて敗戦。白田誠明監督は潔かった。

「果敢に回してチャレンジする。あれはあれでうちのラグビーを通してくれた。ミスはしょうがない。チャレンジしたことをほめたいです」

■極私的大会MVP&新人王&ベストフィフティーン

 今季は感染症の影響で高校日本代表は選抜されない。代わりに日本協会は9日、大会優秀選手30名を発表。表彰する旨も伝えた。優勝した桐蔭学園からは6名、準優勝の京都成章からは5名がリストアップされた。

 本欄では大会MVP、新人王、MIP、大会ベストフィフティーンを独自で選ぶ。

★MVP 青木恵斗(桐蔭学園、ロック)…相手にぶち当たって外側の味方へパスを放ったり、状況に応じて放つチョークタックル、ジャッカルでピンチを防いだり。身体を張るロックの位置で、力強さと技能を発揮し続けた。

★新人王 矢崎由一(桐蔭学園、フルバック)…キック捕球後、パスを放つやその方向へサポートに回る。下働きが光った。防御をセンチ単位でかわす綿毛のフットワークもまた。

★MIP 小倉亮太(新田、ウイング)…四国のオータムブロックチャレンジを勝ち抜き、2年生で自身初の花園を経験。城東との初戦で敗退も、相手を置き去りにするランで4トライを奪った。初日の第1グラウンドに爪痕を残した。

★大会ベストフィフティーン

1、前川直哉(東海大大阪仰星)…要所でのカウンターラック。

2、中山大暉(桐蔭学園)…自陣深い位置でのジャッカル、グラウンド端での力強い走り。

3、本田啓(東福岡)…右中間、左中間で軽快に駆けミスマッチ突く。

4、本橋拓馬(京都成章)…身長193センチと大柄ながらロータックル連発。突破も披露。

5、青木恵斗(桐蔭学園)…激しくて器用。

6、セコナイヤ・ブル(大分東明)…ラン、オフロードパスを披露し、地上戦でも粘る。

7、佐藤健次(桐蔭学園)…球を持てば力と速さで相手防御を凌駕。ジャッカルでも光る。

8、リサラ・フィナウ(青森山田)…2回戦で50メートル独走トライ。強くて柔らかい。

9、宮尾昌典(京都成章)…緩急自在。接点で差し込まれてもパスの精度保った。

10、堀日向太(中部大春日丘)…劣勢時もスペースを見極めパス、キックを差配。

11、ジョアペ・ナホ(大分東明)…速さと柔らかさを兼備。

12、近藤翔耶(東海大大阪仰星)…落ち着いた人格で力強く突破。

13、秋濱悠太(桐蔭学園)…ターンオーバーとラインブレイクで樫の木の下半身活かす。

14、大畑亮太(東海大大阪仰星)…抜群のスピード。決定力。

15、金昴平(大阪朝鮮)…わずかな隙間も逃さぬカウンターアタック。カバー防御。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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