お家に帰れない電車たちのお話し
秋田県を襲った大雨の影響で奥羽本線の秋田-大曲間が不通になっています。
現在、奥羽本線の秋田県南部の区間は大曲と山形県の新庄との間で折り返し運転となっています。
昨日、筆者が乗車した電車は大曲発新庄行の普通列車でしたが、電車がたいへん汚れているのに気づきました。
こんな感じです。
これはお客様を乗せて走る営業列車です。
おそらく先週の大雨で汚れたものと思われますが、電車がこんなになるほど風雨が酷かったことがわかります。
でも、すでに大雨は過ぎ去って快晴のお天気なんですが、なぜこんな汚れた電車をこのまま走らせているのでしょうか。
JRの友人に聞きましたところ、「車両基地に戻れないんですよ。」とのこと。
奥羽本線の新庄から北の区間を走る電車の車両基地は秋田にあります。
ところが、大曲と秋田の間で線路が被害を受けていますから、秋田の車両基地に戻ることができないのでしょう。
秋田―大曲間には秋田新幹線が走る線路は並走していますが、新幹線と在来線では線路の幅が違いますから、奥羽本線の電車は新幹線の線路を使って秋田へ戻ることができません。
大曲から新庄までの区間が封印されてしまっているのです。
簡単に路線図を書いてみました。
秋田の車両基地へ戻すには、あとは羽越本線で余目を経由する方法がありますが、陸羽西線は沿線道路の工事のため来年まで運休中。もし運転していたとしても電化されていませんのでディーゼル機関車を仕立てて回送しなければなりません。
東北本線から持って来ようにも田沢湖線は新幹線規格の線路。北上線も陸羽東線も非電化で電車は走れませんし、ディーゼル機関車を仕立てたとしても北上線も大雨災害止まっています。
もっとも、ディーゼル機関車を仕立てると言っても、以前のように旅客輸送と貨物輸送の両方をやっていた時代は機関車がたくさんありましたが、それは大昔の話ですし、ディーゼル機関車と電車はそもそも車両の構造が異なりますから、やるとしても入念な準備と手続きが必要です。簡単に連結して走らせることはできないのです。
ということで、秋田の車両基地に所属する奥羽本線の電車は大曲-新庄間に封印されている状態でお家に帰ることもできず、お風呂にも入れてもらえませんからこんなに汚れた状態のまま、けなげに働いているのです。
さて、こうなると次にどのような問題が発生するのでしょうか?
電車ですからディーゼルカーと違って燃料補給の必要はありません。架線に電気が来ていれば走ることが可能ですが、今後発生する問題としては「検査切れ」があります。
電車はいろいろな検査を受けて走っています。車で言えば車検、法定6か月点検、日々の運転前点検などですが、電車も同じです。日々の点検を始業点検と言いますが、これは問題ないとして、次に来るのが交番検査という3か月に一度の検査。
何編成かがこの区間に閉じ込められていますが、検査期限はまちまちでしょうから、検査切れが近づいている車両があるかもしれません。
検査も重要ですが、もっと切羽詰まってくるのがトイレの汚物処理。
こちらは通常でしたら2~3日に一度程度タンク内の汚物を抜いて空にするのですが、もうそろそろ満タンになる電車も出てくるかもしれません。
通常、車両が封印されてしまった場合、簡易的な検査であれば鉄道会社は検査係員などを現地に運んで行いますし、トイレの汚物処理は民間のバキュームカーを直結してできないこともありません。最悪トイレを閉鎖して運転することも考えられますが、いずれにしても本来の仕業ではありませんので、1日も早く不通区間が復旧して、封印された区間で真っ黒な姿でけなげに働いている電車たちをきれいにしてあげたいと筆者は思います。
不通区間が発生すると、その個所によっては様々な問題が発生します。
そんな中でも、鉄道会社はできるだけお客様のご要望にお応えできるように努力をしていますので、ご利用の皆様方もどうぞ温かい目で見守っていただきたいと思います。
※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものであり、簡易路線図は筆者作成のものです。