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夏休みは長すぎる? 子どもにとって、先生にとって、夏休みの意義とは!?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
キャンプは楽しいという家庭も多いが、行けない家庭もある(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 今週、来週から、子どもたちの夏休みが明けて、学校が始まるところも多いだろう。

 そもそも、どうして夏休みは30日も40日もあるだろうか(北海道などではもっと短いが)? 理由は諸説ありで、はっきりしないようだ。熱中症事故がきっかけとなって、ここ1年~今後1、2年で教室でのエアコン(冷房)の設置はかなり進みつつある。「暑すぎて授業にならない」という理由は、通用しにくくなっている。

■夏休み短縮の動き

 実際、夏休みを短くする地域が少しずつ増えている。朝日新聞の取材によると、都道府県庁所在地市区と政令指定市の計52教育委員会のうち、「6教委が2016~18年度に規則で夏休みの期間を短くし、4教委が19年度から短くする」という(朝日新聞2019年6月29日)。ぼくがある市に聞いたところ、今年から1週間ほど夏休みを短くしたが、その背景のひとつとして、エアコンが設置されて授業に支障はないだろう、ということが議会でも盛んに言われた、とのことだった。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 また、今年は祝日も多くて、授業時間の確保に苦心している学校もある。2017年の学習指導要領改訂で小学校では外国語(英語)が増えたので、その影響もあるようだ。毎日6時間授業では子どもも疲れるので、一部は夏休みの短縮で対応しようという考え方だ。

 ちなみに、学校は保育施設ではないけれども、多くの保育園には、夏休みはない。クレヨンしんちゃんの「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」「かあちゃんの夏休みはいつなんだろう。」の広告が話題になったが、幼稚園児、小学生をもつ保護者にとっては、夏休みはタイヘン。学童保育があっても、弁当がいるところもあるし、学期中よりも苦労は多いかもしれない。

 では、「夏休みなんて、もっと短くていいんじゃないか?」 「学力アップがもっと必要?だったら、授業をやったほうがよいのでは?」

 そんな話が保護者や首長、議員等から、今後もっと出てくるかもしれない。これには、賛否あろう。

■夏休みはなんのため?

 夏休みはなんのためか、どんな意義、効果があるのか。これは、1)子どもにとって、2)教職員にとって、3)保護者・家庭にとって、4)社会にとって など、いくつかの視点で考えていくとよいと思う。

 仮に、夏休みがいまより2、3週間短くなって、給食も出してくれるとなると、助かるという親は多いと思う(ぼくもそのひとりだ)。だが、そこは3)の視点だけの話であって、別の視点も併せて考えていく必要がある。

 おそらく多くの人が、1)子どもにとっての影響が最も大事であることに合意されると思う。夏休み中はゲーム三昧という子どももいると思うが、ゆっくりすること、好きなことでよく遊ぶことも大事なことだと思う。また、夏休みは、通常の学期中には難しい、体験活動(キャンプや海水浴、旅行等)もできる、貴重な機会だと捉える方も多いと思う。

 だが、子どもも、家庭事情もさまざまなので、自分の経験や見た感じだけで判断するのは、危うい。

■夏休みは格差拡大装置か?

 東京都「子供の生活実態調査」(※)によると、次のグラフのとおり、家庭の経済状況によって、子どもたちの体験の有無には、相当な格差がある

 この調査では(1)世帯収入(135.3万円未満かどうか)、(2)公共料金や家賃の滞納、食料・衣類を買えなかった経験などの有無、(3)子供の体験や所有物の欠如の状況という3つの要素のうち、2つ以上にあたる家庭を困窮層、1つ該当する家庭を周辺層、いずれの要素にもあたらないのを一般層として区分しているが、困窮層では、小学5年生の保護者の3~4割、中学2年生の保護者の3~5割が、「 金銭的な理由」 でキャンプや遊園地などの体験ができなかった、と回答している。(ただし、夏休み中の活動について聞いた設問ではない。)

(※)墨田区・豊島区・調布市・日野市に在住の小5、中2の子どもと保護者を対象に、調査票を送付し、平成28年8月5日から9月7日まで実施。

出所)東京都「子供の生活実態調査」
出所)東京都「子供の生活実態調査」
出所)東京都「子供の生活実態調査」
出所)東京都「子供の生活実態調査」

 一般層であっても、時間的な制約で(つまり、親が仕事などで忙しいために)キャンプなどの体験に連れて行けないという回答はかなりある。だが、困窮家庭では、時間的な制約に加えて、お金の点で、できる体験は制限されてしまう。

 同様に、学習塾、プログラミング教室なども、家庭の状況で左右されるだろう。机のうえでの勉強という側面でも、体験活動という側面でも、夏休みは、一部の子どもにとっては貴重なよい学びのシーズンとなるが、そうではない家庭もあることには注意したい。ともすれば、家庭の経済格差が、子どもたちの学習格差や体験格差を広げることにもなりえるのだ。

■学校の先生も、夏休み中はヒマなわけではない

 1)子どもにとっては、その他、さまざまな観点から検討、検証していく必要があるが、ここでは、2)教職員にとっての夏休みの意義についても少し解説しておこう。

 夏休み中(正式には夏季休業中)には通常の授業や行事はないので、学期中と比べて、多くの教職員にとって、ゆとりはある。一昔前なら、「先生たちは夏休みが長くていいですね」と言われたこともあったそうだが、もちろん、児童生徒の夏休み=先生の夏休み、ではない。

 この期間は、日ごろはなかなかじっくり時間が取れない、校内外での研修や授業準備、行事の準備などが目白押しだ。ご存じのとおり、部活動が盛んな学校では、部活動指導も教員の仕事のひとつとなっているし、大会等も多い時期だ(部活動を教員は必ずやらねばならないというものではないが)。学期中ほどではないが、残業までして学校で仕事している人もいる。教員たちは、決して、ヒマというわけではない。

 とはいえ、文科省は、働き方改革の一環で、「先生たちは夏休み中にもっと休んでいいですよ」と言ってきている。国は6月28日に「学校における働き方改革の推進に向けた夏季等の長期休業期間における学校の業務の適正化等について」という通知を出したが、学校閉庁日(学校を留守にしてよい日)を設けるなどして、まとまった休日の取得を促している。関連して、研修を精選することや部活動の休養期間(オフシーズン)を設けることなども提案している。

画像:いらすとや
画像:いらすとや

 つまり、文科省としては、夏休みを大幅に短縮する動きには慎重な姿勢で、先生たちの有給休暇などを積極的に取得してリフレッシュしてほしいようだ。学校が忙しすぎるということで、教員人気が下がってきているなか、1週間~10日くらい、まとめて休暇が取れる職場になると、魅力的だろう、という思惑もあるのかもしれない。(ただし、いくら休みがとれても、平日タイヘン過ぎては魅力的な職場とは言えないだろうが。)

 こうした動きもあるので、2)教職員にとっての夏休みの意義、効果を説明するのは、かなり、ややこしい。保護者等から、「なんで夏休みが30日も40日もあるんですか?もっと短くてもいいんじゃないですか?」と聞かれたとき、「研修やまとまった教材研究等を行う期間なので」とは、従来は言えていたのだが、閉庁日や有給休暇取得などで休んでいる教職員が多くなると、そういうことも、苦しい言い訳に聞こえてくるかもしれない。

 もう少し言えば、2)の視点では、

●先生たちが休みをとってリフレッシュしたり、旅行や趣味、子育て、読書などの勤務外の時間を充実させてもらうこと

●勤務して、研修や教材研究などにじっくり取り組むこと

●勤務して、まとまった事務や行事の準備などを進めておくこと

 などのバランスをとりながら、夏休みの期間を設定できるといいだろう。こういう検討をすると、夏休みを極端に短くする(1~2週間程度にする)ことは、おそらく、望ましいとは言えないだろう。

 長くなるし、3)、4)はこれ以上は論じないが、1)~4)を併せて考えると、いまのまま、本当に30日も40日も夏休みを維持していてよいのか、かなりギモンも残る。

 とはいえ、クーラーが付いたからといって、夏休みを短縮して、通常の授業の延長を進めても、あまり楽しそうには見えない。(おそらく、多くの子どもにとっても。もちろん、授業がうまい先生の場合はいいのだろうが。)理想的には、NPOや大学、企業などが協力して、子どもたちの体験学習やアクティブラーニングの機会がもっと増えるといいと思う。実際、いくつかの地域では、大学の先生や企業人が小中学生らに科学の楽しさを体験してもらう実験教室などをしている例もあるし、海外ではボーイ・ガールスカウトなどで、社会団体が子どもたちの学びをサポートしている。

 こうしたことは、学校教育から切り離して実施してもよいし、授業の一環(一部)として行っても良い。外部講師が授業や体験学習をしているあいだは、学校の先生たちは研修や教材研究などにあててもよいだろう。もちろん、外部と連携するうえでは教職員側も企画や調整である程度の手間はかかるので、フリーハンドにお任せしておしまい、とはなりえないが。

 一番抵抗が強そうなのは、部活動のあり方だ。熱中症のリスクも高いし、部活熱心で子どもたちが旅行にも行けないようではどうかと思う。夏休み中の大会等は廃止、縮小を含めて、大幅な見直しが必要だと思う。

 

 夏休み。だれにとっても身近なテーマだが、考えていくと、さまざまな観点と選択肢を模索していく必要がありそうだ。教育・学校の関係者には「夏休みの宿題として考えておいてください」と申し上げようと思ったが、もう夏は終わりそうだ。

★妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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