お菓子でつくる名古屋めし。メニューコンテストで見えたご当地グルメの新しい世界線(!?)
お菓子を使った名古屋めしのメニューコンテストが開催
“お菓子を使っておかしくておいしい名古屋めしをつくろう!”— そんなコンセプトによる「第1回おかしな名古屋めしコンテスト2023」が開催されました。
主催は名古屋に本社を置く春日井製菓。キャンディー、グミ、豆菓子などを手がける菓子メーカーです。コンテストは、同社の製品を食材として使用するレシピを考案し、おいしさはもちろん、おかしさ、ご当地らしさを競い合うというもの。対象は愛知県在住もしくは県内の飲食店に勤務する人となっています。
「お菓子メーカーとして、日本中の食卓をおもしろおかしく、楽しくしたい。お菓子を料理に使うことで意外性が生まれ、『何が入っているの?』『えッ!』とコミュニケーションのきっかけになる。生活の中でお菓子が登場するシーンを広げることで、お菓子を食べてもらう、思い出してもらえる機会を増やすことができるとも考えました」とは春日井製菓・おかしな実験室の高木宏幸さん。
同社の「おかしなメニューコンテスト」は2022年3月、2023年8月に福岡で開催。名古屋では、「名古屋めし」をタイトルに銘打つことでよりご当地色を強め、また従来の「飲食店部門」に加えて初めて「家庭部門」を設けているのも大きな特徴です。
「飲食店部門では店の看板メニューになるものを考案して、地域の飲食業界の活性化につなげてもらえたらうれしい。家庭部門ではよりシンプルで調理しやすいものを考えてもらえると同時に、プロでは思いもよらない発想も出てくるのでは、と期待しました」(高木さん)
募集は2023年8~9月にかけて行われ、両部門合わせて80組以上がエントリーしました。
実は筆者は、一次審査の審査員を担当。提出されたレシピと写真を見ての書類審査で、ここで私なりの評価ポイントとしたのは“名古屋めしらしさ”。味噌などご当地の調味料や食材を使っている、既存の名古屋めしをうまくアレンジしている、などを重視して評価しました。
個性的なメニューがそろい踏みとなった二次審査
二次審査=調理・実食は11月22、23日に開催。1日目は「飲食店部門」で、一次審査を通った10軒が集結しました。名古屋市内に実店舗を持つ比較的新しく小規模の飲食店が多く、それぞれ趣向を凝らしたメニューがお披露目されました。黒あめをとかしてカレーやおこわ、スイーツのコクとして活かしたもの、えびピーナ(海老風味の衣をかけた豆菓子)をくだいてまぶし揚げ物に香りと食感のアクセントを加えたものなどなど。プロならではの知識や技術をベースにしつつ遊び心にも富んだユニークな品々がそろい踏みとなりました。
2日目の家庭部門には料理好きの主婦、食の専門科に通う学生、さらには小学生までがエントリー。家族で調理に取り組む場面も見られ、にぎやかかつ楽し気な雰囲気で調理や試食が行われました。
二次審査でユニークだったのは審査員。「飲食店部門」では愛知県立瑞陵高校食物科の高校生5名が、「家庭部門」では小学1~3年生の子どもたちが審査員を務めました。新しい名古屋めしを選ぶには新鮮な感性を持った若者や子どもたちがふさわしく、また飲食店部門ではエントリー店に対する忖度が発生しない公平性という点でも、彼らに評価をゆだねたのは主催者の英断だったといえるでしょう。
納得のグランプリ受賞作!
厳正なる審査の結果、「飲食店部門」グランプリに輝いたのは「キッチンはじまる」(名古屋市北区)の「グリーン好きなエビ天むす」!
「中学生の息子が好きな『つぶグミ』と私が好きな『グリーン豆』を使っています。エビ天の衣につぶグミの甘みとグリーン豆のさくさく感を加え、グリーン豆で豆ごはんを炊いています。簡単で誰でも作りやすいレシピにすることも意識しました」と店主の安藤美香さん。
小学生の子どもたちが選んだ「家庭部門」グランプリは、高校生の岩本茜梨さんによる「やわらかチキンのカリカリピー揚げ」。
「柔らかいチキンスティックに『いかピーナ』を砕いてまぶしてカリッとした食感に。ソースは黒あめと八丁味噌を使い、甘めでコクのある仕上がりに。大人はビールのおつまみに、お酒を飲まない人はご飯と一緒に、子どもたちはおやつにも。老若男女に好まれるメニューを目指しました」(岩本さん)
筆者も全メニューを実食しましたが、両部門とも納得の結果。「飲食店部門」の「グリーン好きなエビ天むす」は店の人気メニューになりそう。「家庭部門」の「やわらかチキンのカリカリピー揚げ」は万人ウケし、学校給食やお弁当メニューとして採用されて広まる可能性もあるのでは、と感じました。
子どもたち、若者たちが“育てる”新しい名古屋めし
ただし、グランプリ=「名古屋めし」というわけではありません。「名古屋めし」は特定の機関が認定するようなものではなく、地元の人が日ごろから親しんで食べることでご当地の味として認められたもの。その意味では、今回のコンテストの出品作はいずれも、新たな「名古屋めし候補」と位置付けられるでしょう。二次審査進出作の20品はすべてHP上でレシピが公開されているので、実際に店や家庭でこれらをつくることができ、普及を後押ししてくれています。これをきっかけに多くの人がつくって、食べるようになれば、10年後20年後に“真の名古屋めし”になっているかもしれません。
ご当地グルメブーム以降、名古屋でも様々な創作名古屋めしコンテストが行われてきました。しかし、そこから新たな名古屋めしとして広まり定着したものはほぼありません(しいて挙げるなら、名古屋市などが主催した「なごやめし博覧会」第3回<2013年>で準グランプリに輝き、その後広く普及した台湾まぜそばくらいでしょう)。既存の名古屋めしがバラエティ豊かかつ浸透しているため、新規のメニューがなかなかそこに割って入ることができないのです。
しかし、手羽先や小倉トースト、台湾ラーメン、あんかけスパゲッティ、鉄板スパゲッティなど、一店舗の創作メニューがいつしか広まって、名古屋めしと呼ばれるご当地グルメとなったものも少なくありません。今回のコンテストで創作されたメニューがいつの日か名古屋、愛知中で親しまれるようになる可能性だって十分にあるのです。
コンテストでもうひとつ印象的だったのは、調味味噌「つけてみそかけてみそ」のナカモ、ラーメン・麺類の「寿がきや」、カレーの「オリエンタル」、ソースの「コーミ」といった地元食品メーカーが協賛に名を連ねていたこと。いずれも名古屋人の嗜好を決定づけている存在といっても過言ではなく、今後もこれら企業がスクラムを組んで取り組めば、新しく、それでいて地元っ子の舌にあった名古屋テイストが生まれる可能性はさらに高まりそうです。
今回参加してくれた子どもたちや若者が大人になった時、コンテスト発祥のいくつもの料理が「名古屋めし」として多くの家庭や飲食店で食べられている。そんな世界線に期待を膨らませられる催しでした。名古屋めしウオッチャーとしては、来年以降のコンテストの動向からも目が離せません。
(写真撮影/すべて筆者)