進行方向の誤差より進行速度の誤差が大きいと考えられている台風3号が沖縄県大東島地方の南から東へ
強い台風3号の北上
強い台風にまで発達した台風3号が北上しています。
台風が発達する目安の海面水温は27度ですが、動きの遅い台風3号が海面をかき混ぜたために台風中心付近の海面水温は、27度以下になっています(図1)。
このため、これ以上の発達はないと考えられますが、沖縄県大東島地方の南海上から東海上に進みますので、大東島地方では強風や高波に十分注意してください。
その後は、足早に伊豆諸島南部から小笠原諸島の間を通過する見込みです。
昔、台風の進行速度を月別・緯度別に調査したことがあります(図2)。
それによると、台風は8月に向かって速度が徐々に遅くなり、秋が深まるにつれ速度が速くなります。
また、高緯度になるほど速度が速くなりますが、これは、日本上空を吹いている偏西風の位置や強さと関係しています。
6月の台風の時速は、緯度20度で20キロ以下(台風3号は15キロ)、緯度30度で30〜40キロ(同35キロ)、緯度40度で50キロ以上(同55キロ)ですので、今年の台風3号はほぼ平年通りの速度ということができます。
予報円の誕生
台風といえば、いまでは予報円が当たり前のように使われていますが、この予報円の成立過程は意外に知られていません。
台風予報円が最初に使われたのは昭和57年(1982年)6月の台風5号からです。
戦後の日本は、大きな台風災害が相次ぎ、死者が4桁(1000名以上)の大惨事となるのがふつうでした。それを何とか減らせないかと予測の上でも様々な努力がなされてきました。
たとえば台風予報の扇形表示もその1つです。
台風の24時間先予報において、中央気象台(現在の気象庁)では、進行方向の誤差幅をつけた「扇形表示(進行速度は難しいので一本の線上に表示)」を使っていました。相次ぐ台風災害の中で、予報精度が非常に悪くても、何とか進行方向だけでも正しい予報を出して防災に役立てようとする当時の予報官達の苦労の結晶が「扇形表示」です。
中央気象台が気象庁となっても扇形表示は引き継がれ、約30年間にわたって使われてきました。
しかし、扇形表示は最初から大きな欠点を持っていました。それは、予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類があるのですが、扇形表示ではその形から、進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせてしまったことです。
そこで考えられたのが、「予報円」を用いた表示方法です。
台風の予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると、両方の誤差がほぼ等しく、図3のモデル図の様に予報位置を中心とした分布となっています。
精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。
予報の精度を簡単に表すには、この予報位置の回りにどれ位集中してくるかということを示せば良いのですが、これには2通りの方法があります。
一つは一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法(図3のA)で、もう一つは、予報位置の回りに一定の大きさの円を描き、この円内にどれくらいの予報が含まれているかで表わす方法(図3のB)です。
気象庁の発表する予報円表示は、表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、前者の方法、つまり、円の中に70%の予報が入るということで半径を決めた予報円を採用しています。
ところが台風予報の表示方式がそれまでの扇形表示から予報円表示に変わると、今度は台風の強さを表す表示がないため、予報円の大きな台風が強い台風であるとの誤解が生じてしまいました。
そこで昭和61年(1986年)に誕生したのが暴風警戒域です。
暴風警戒域は、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域に入るおそれのある範囲を示したもので、現在の台風予報は予報円と暴風警戒域の組み合わせです。
予報円と予報楕円
予報円誕生の時、多数例をとれば進行方向の予報誤差と進行速度の誤差がほぼ等しいといっても、台風によっては、進行方向の誤差と進行速度の誤差が大きく違う場合もあり、その場合は、予報楕円で表現してはどうかという意見もありました(図4)。
少数例であることや、複雑になることから採用とならなかった予報楕円ですが、今年の台風3号は、進行方向の誤差と進行速度の誤差が大きく違う例でした。
現在は予報円も小さくなりましたが、一頃は予報円が大きく、関東の南岸までかかっていました。これは、進行速度の誤差が進行方向の誤差に比べてかなり大きいことから、誤差を近似した円も大きくなってしまったからです。
そして、現在予報円が小さくなっているということは、進行速度の誤差も小さくなっているということでもあります。
台風と梅雨前線
台風3号の進路は定まってきましたが、西日本から東日本の沿岸には梅雨前線が停滞する見込みです(図5)。
このため、台風3号が離れて通過するといっても、梅雨前線を活発化させ、西~東日本の太平洋側では、100ミリ以上の雨が降る見込みです(図6)。
西~東日本の太平洋側では、これまでかなりの雨が降っており、土の中に水分が多い状態になっているところに100ミリ以上の雨です。
土砂災害には十分警戒してください。
タイトル画像、図1、図6の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:饒村曜(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計―進行速度―、研究時報、気象庁。
図3の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。
図4の出典:筆者作成。
図5の出典:気象庁ホームページ。