Yahoo!ニュース

もし「オオアリクイ」に転生したら、どんな生活になるのだろうか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 世界には不思議な生き物がいるが、オオアリクイもその一つだろう。オオアリクイはいったいどんな生活をおくっているのだろうか。

聴覚と嗅覚が優れているオオアリクイ

 何度も同一人物に生き返って、人生をやり直すテレビドラマが話題だ。輪廻転生がテーマだが、主人公は次に生まれ変わる生物としてオオアリクイを告げられるというシーンがあった。

 動物園でオオアリクイを見たことのある人は、その不思議な姿形に驚いたはずだ。細長い顔、長く伸び、瞬時に伸縮する舌、フサフサとした毛と尻尾、薄っぺらい身体、胸と前足の特徴的な模様など、アリを食うという名前もそうだが実に興味深い。

 このオオアリクイ、いったいどんな生物でどんな生活をおくっているのだろうか。ドラマの主人公のように、オオアリクイに生まれ変わったとしたら、どんな生活が待っているのだろうか。

 アリクイの仲間は哺乳類で、世界に3種類(2属3種、ヒメアリクイ、コアリクイ、オオアリクイ。あるいはコアリクイを南北で2種類にする2属4種)おり、いずれも中南米に棲息している。オオアリクイは、他の種類に比べて頭蓋骨の前方へ特に長い吻(口先)が伸びているのが特徴だ。

 平均の体長は182cmから217cm、オスの体重は33kgから50kg、メスで27kgから47kg、頭蓋骨の長さは30cmほどだ。視力はあまりよくないが、聴覚と嗅覚はひじょうに優れているとされる。

 棲息域は広く、北は中米のホンジュラスから南はアルゼンチンの北部までとされ、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストではVU(Vulnerable、絶滅危惧II類)カテゴリーで絶滅の危機が増大している種になっている。正確な個体数はわからないものの、1990年代以降で約30%減っていると推計されている(※1)。

 オオアリクイは主に密林と草原の間を往き来し、天敵はジャガーなどの大型肉食獣だが、野犬に襲われることも多い。棲息域がヒトのいる場所に近いため、特に交通事故死が増えているようだ。また、栄養源として、あるいは毛皮やその鋭く大きな爪のために狩猟の対象になっている地域もあり、他の絶滅危惧種と同様、ヒトの活動によって個体数を減らしている。

鋭い爪で蟻塚を崩す

 オオアリクイには歯や牙がない。頭蓋骨と下顎は前方に長く伸び、細長い管状になっている。オオアリクイはその名の通り、主に土中や蟻塚の中にいるアリ、シロアリを食べるため、それらを効率よく捕食するための長い舌を持つ。毎秒2回から3回という素早い出し入れ運動をする舌のために備わっているのが、他の哺乳類にない特殊な顎と頬の筋肉群だ(※2)。

 野生のオオアリクイを観察した研究によれば、その地域に棲息するアリやシロアリの全ての種類をえり好みすることなく食べているようだ。ただ、巣の形状やアリの種類によって、採餌にかける時間は異なっており、雨季と乾季、また栄養価が高くなるアリの繁殖期などによって採餌行動は変化すると考えられている(※3)。

 アリやシロアリは、社会性のある昆虫で、巣を守る兵隊アリがいる。兵隊アリは、蟻酸による化学的防御、そして鋭い顎による物理的な防御を行うが、オオアリクイはそれらの防御をかいくぐって素早く大量の獲物を食べる必要がある。そのため、唾液腺が発達し、粘性の高い唾液を大量に分泌する(※4)。

 アリやシロアリの一部は、泥を固めた蟻塚によってオオアリクイの捕食行動を遅らせることができ、完全に食べ尽くされることを防いでいる。また、アリやシロアリの他、カブトムシの幼虫といった地中の昆虫を食べることもあるようだ。

 オオアリクイは、前足の大きく鋭い爪で蟻塚を崩しながら食べる。普段、前足の爪は内側に丸められ、歩く際に爪が損傷したりすり減ったりしないようにナックルウォーキングをしている(※5)。

 オオアリクイのオスとメスは普段は単独行動をしているが、メスの発情を嗅覚によって知ったオスがメスを探し出して交尾をする。繁殖期は特にないと考えられているが、規則的な季節性があるという意見もある。

 妊娠期間は170日から190日とされ、通常は1頭の子を産む。出産時の子の体重は1.1kgから1.6kgで、授乳時以外の子は主に母親の背中の毛にしがみついて大きくなる。親離れは2年から4年とされ、野生のオオアリクイの寿命は約15年、飼育下では25年から30年以上という記録がある。

動物園のオオアリクイは何を食べているのか

 では、動物園などの飼育下のオオアリクイはどんな生活をしているのだろう。名古屋市の東山動植物園のオオアリクイの担当飼育員の方に話をうかがってみた。

──東山動植物園のオオアリクイは、何を食べているのでしょうか。

東山動植物園「一日に、食虫目(虫を食べる動物)用ペレット200g×2回、馬肉ミンチ100g×2、鶏ささみ130g(午後だけ)、ピートモス(繊維)、これらをお湯でふやかして与えています。性別、年齢、繁殖の時期などを考慮して与える量を調整しています。また、酸っぱいものが好きと言われているため、オレンジを与えることもあります。食べる際は、爪で崩しながら食べています」

──オオアリクイの爪はかなり鋭いようですが、飼育している際に爪に気をつけることはありますか。

東山動植物園「オオアリクイの前足の爪は鋭いので、もし引っかかれたりしたら危ないですが、いままで危険を感じるようなことはありません」

──オオアリクイの舌は、実際に触ってみると、どのような感じなのでしょうか。

東山動植物園「手を差し出すと舐めてくることはあります。唾液はすごくネバネバしていて、洗わないとなかなか取れないくらいです」

 以上、オオアリクイについて、ざっくりと生理や生態などを調べてみた。

 ドラマの主人公がもし野生のオオアリクイに転生したら、母親から生まれた後、背中にしがみつきながら育ち、2歳から4歳で独り立ちし、蟻塚を崩しつつ、アリやシロアリを食べて大きくなり、交尾をしたりするが、ある日、交通事故にあって死ぬ、といった運命をたどるのかもしれない。

※1:Alessandra Bertassoni, Milton Cezar Ribeiro, "Space use by the giant anteater (Myrmecophaga tridactyla): a review and key directions for future research" European Journal of Wildlife Research, Vol.65, 21, November, 2019

※2:Hideki Endo, et al., "Three-Dimensional CT Examination of the Mastication System in the Giant Anteater" Zoological Science, Vol.24(10), 1005-1011, 1, October, 2007

※3:Kent H. Redford, "Feeding and food preference in captive and wild Giant anteaters (Myrmecophaga tridactyla)" Journal of Zoology, Vol.205, Issue4, 559-572, April, 1985

※4:Timothy J. Gaudin, et al., "Myrmecophaga tridactyla (Pilosa: Myrmecophagidae) " Mammalian Species, Vol.50, Issue956, 12, April, 2018

※5:Caley M. Orr, "Knuckle-walking anteater: A convergence test of adaptation for purported knuckle-walking features of African Hominidae" American Journal of Physical Anthropology, Vol.128, Issue3, 639-658, November, 2005

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事