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工藤公康が落合博満を怒らせたあまりにストレートなひと言

横尾弘一野球ジャーナリスト
高校時代から好投手として実績を積んだ工藤公康の話に落合博満は感心していたのだが。(写真:岡沢克郎/アフロ)

 落合博満は、現役を引退した1998年から中日で監督に就任する2003年までの間、野球評論家として取材者の立場にいた。当時は、記者ではなかなかじっくりと話を聞くことができないトップクラスの選手にインタビューすることが多かった。インタビュアーは落合だと球団広報に伝えれば、断る選手はいなかったのだが、面白かったのは、ひと通りのインタビューが終わると、選手のほうから落合にいくつも質問していたことだ。

 その中で、落合を怒らせた人がいる。巨人に在籍していた工藤公康だ。2003年の春季キャンプ中、練習後に落合は工藤にインタビューした。

 1999年に11勝を挙げ、王 貞治監督が率いる福岡ダイエーをパ・リーグ優勝、さらに日本一に導いた工藤は、そのオフに2度目のフリー・エージェント権を行使して巨人へ移籍。すると、新天地でも12勝をマークして4年ぶりセ界制覇の原動力となり、福岡ダイエーとの“ミレニアム・シリーズ”も制して日本一となる。さらに、2002年も9勝。日本シリーズでは古巣の西武をストレートで下し、新監督だった原 辰徳を胴上げする。

 そうして、自身の通算勝利も184勝となり、200勝の大台も見据えながら迎えたのが2003年シーズンだ。落合は、そんな工藤に先発投手としての考え方を様々な角度から聞き、工藤も自身の意見を率直に述べる。興味深かったのは、「投手の分業制は当たり前という時代になったけれど、6~7回を3失点以内で投げ切れば先発の役割を果たしたという流れには賛成できない。先発投手は、あくまで完投にこだわるべきだ」という持論。

 また、40歳となるシーズンでも中4日で投げることは可能で、むしろ中5日で回っていたローテーションを6日にされるとコンディションを整えるのが難しくなるという体験も語る。

「最近は、先発が5人揃っているチームより、絶対的なストッパーがいるチームを順位予想で上位にする評論家が多い。落合さん、それってどう思います? 先発が安定しているチームのほうが、断然有利ですよね」

 そんな工藤の問いかけに、落合も「私も同じ考えだな」と相槌を打つ。

「やはり、勉強になることは多いな」

 そう落合が感心していると、「そうやって先発にこだわりつつも、中継ぎや抑えに対する待遇はもっと上げていかなきゃ野球界の発展はないと思います」という工藤の考えに、落合も大きく頷く。のちに監督を務め、ともに高い実績を築く二人の野球観は、いつまで聞いていても飽きないものだった。

「絶対におかしい」と食い下がる工藤に落合は……

 そうして、予定の30分を遥かに超えたインタビューは終わりに近づき、少し雑談が混じり始める。そんな中、「本当に落合さんにはよく打たれたよなぁ」という工藤は、落合のバッティングに驚かされたというエピソードを語り始める。

「見送った、と思ったところからバットが出てくるのが落合さんのバッティング。ある時、追い込んで内角低目に投げ込み、見送り三振かと思ったところから打ちにきて、バットは変な音を立てた。それなのに、打球はレフトスタンドですよ。あんなバッターは後にも先にも落合さんだけです」

 そこまでは、落合も笑いながら聞いていた。そんな落合に工藤は言った。

「落合さんのバット、絶対にコルクを入れていますよね。でなきゃ、あんな打球が飛ぶはずがない」

 工藤ならではの冗談なのは明らかだが、野球の話では冗談も許さない落合の顔色は瞬く間に変わり、大きな声で「バカかおまえは」と言うやいなや、工藤の頭をパシンと叩く。それでも工藤は笑いながら、「いや、絶対におかしい。コルクが入っていると思わなきゃ納得できない打球だった。だから、落合さんは別格なんだろうけど」

 そんな表現で、工藤は落合のバッティングの凄さを語った。一方の落合は、「私のバットは特別なんだよ」とインタビューを切り上げると、宿舎に戻る車の中でもしばらくは「工藤は何てバカなことを言うんだ」と繰り返していた。だが、いつしかインタビューで話していた工藤の意見を振り返り、「いい考えを持っているよな」と納得していた。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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