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居酒屋の店主が「酒を呑むなら居てもいい」「セコイ支払いなら自炊しろ」と憤慨 その主張は正しい?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

居酒屋の定義

居酒屋ではお酒を注文しますか。

少し前に、名古屋で居酒屋を営んでいる方が、以下の内容をThreadsに投稿しました。

居酒屋がいつから料理がメインになったんだよ?酒がメインで料理があるから『居酒屋』だろうが
料理がメインならなら『料理屋』か『食堂』だろうが
認識がこんな人いるから驚いた。揉めるわけだよ
こんな消費者は要らないからWin-Winじゃないか。『居酒屋』は酒呑むなら居ても良いって書いてあるじゃない?そう書いて居酒屋。ドリンク代を支払えば店も文句言わない酒をのまなくても。セコイ支払いしかできないならコンビニでメシ買って家喰いか、自炊するか食堂行けって話しだよ。金を落とすお客さんの為に席を空けてくれってのが店の本音だよ図々しいよ。
ルールやくだらないただし書きを書けとかさ、書いて無いから認めろとかどうかしているぜっ
※顔文字は入稿できないので省略しています

居酒屋はお酒がメインの業態なので「呑むなら居てもいい」と主張。お酒を飲まなくても、ドリンク代を払えば文句をいわないが、“セコイ支払い”しかできなければ、コンビニで購入するか、自炊するか、食堂へ行くかするべきだと憤っています。

文章は少し荒っぽく、憤慨しているようにも感じられますが、反応を確認してみると、賛同する意見が少なくありません。

この主張は、いきなり投稿されたものではなく、次の投稿に返信されたものでした。

居酒屋はバーと違いあくまでメインは料理なわけで、お酒オーダーされないと利益が出ないやり方はもう古いと思うし、お酒をオーダーしないお客さんをお店の公式アカウント掲げてブーブー文句言うようなお店はなんだかなぁと個人的には思う。
そういうお店はあらかじめ「1時間につきワンドリンク(アルコール制)」って入口に書いたらいい。

お酒がオーダーされないと利益がでないビジネス構造に疑義を呈し、お酒をオーダーしてほしいのであれば、店頭に明示するべきだと述べています。

飲食店の経営におけるドリンク

冒頭の投稿で述べられているように、居酒屋は確かにドリンクの売上を想定した経営となっています。

売上に占めるドリンクの割合はだいたい、レストランが20%、居酒屋が40%、カフェが80%、バーが85%。カフェや喫茶店、バーといった業態では、ドリンクが売上の中で高い割合を占めることを前提に設計されているので、ドリンクを注文してもらわなければ利益を上げられません。

居酒屋は、レストランと比較すると、ドリンクの比率が2倍となっているので、ドリンクをオーダーしてもらわなければ困ります。料理は注文できる数や食べられるボリュームに限界がありますが、ドリンク、それもお酒であれば何杯でも飲めるのもポイント。お酒は、ビールのように利益率が低いものから、ハイボールやサワーなどのように利益率が高いものまであり、ソフトドリンクであれば、手の込んだモクテルやブランドのコーヒーや高級茶でない限り、原価率が低くて利益が多いです。

ドリンクはものによって幅はあるものの、平均的にフードよりも利益率が高い上にすぐ提供できるので、優秀な商品といえます。全体的に利益率が高い上に何杯も飲んでもらえるので、お酒をはじめとしたドリンクは、飲食店にとってかなり重要な商品です。

ドリンクオーダーの現状

ドリンクが売上の多くを占める業態では、ドリンクのオーダーがほぼ必須となっています。

カフェや喫茶店、バーでは、フードは注文しなくてもよいですが、ドリンクは注文しなくてはならないケースがほとんどです。そのため、待ち合わせなどで、後から遅れて到着すると、サービススタッフにメニューを渡されて、ドリンクの注文を訊かれます。

居酒屋をはじめとして、ブラッスリーやバル、ワインダイニングなど、酒場を想起させる業態では、ドリンク、それもお酒の注文が促されます。ただ、一昔前であれば、最低でも最初の一杯はビールなど、飲めない方もお酒をオーダーしなければならない雰囲気がありましたが、今ではノンアルコールドリンクでも気を使わずにオーダーできるようになりました。

ファインダイニングでは、最初はシャンパーニュ、その後はワインや日本酒など、料理とマリアージュするようなお酒を勧められることが多いです。お酒が飲めない、もしくは、お酒を飲まないと伝えれば、ノンアルコールワインやモクテル=ノンアルコールカクテル、お茶などのソフトドリンクが提案されます。水は有料のミネラルウォーターが基本になっていることが多いです。

ドリンクの楽しみ方

飲食店で食べ物だけを食べたいという考え方は理解できます。お金を節約したり、飲みたいものがなかったりして、ドリンクのオーダーに気乗りしない場合もあるでしょう。

ただ、居酒屋であれば、店主が気に入っている酒造の日本酒や焼酎が取り揃えられていたり、オリジナルのサワーやハイボールが創案されていたりします。日本酒は、北海道から沖縄まで日本全国で造られており、味わいも全く異なるので、居酒屋で飲み比べてみるのも、また一興です。

お酒をはじめとしたドリンクを組み合わせれば、食べ物はよりおいしく感じられます。アラカルトであれば、注文する料理に、どのドリンクが合うかを考えるのも楽しいです。お酒だけではなく、ノンアルコールドリンクであっても同様。

テーブルウェアやコミュニケーション

お酒を飲む際に、自宅で取り揃えられないワイングラスなどの酒器が使えるのも、貴重な体験です。江戸切子や天満切子、有田焼や美濃焼といった酒器、オーストリアのロブマイヤーやリーデル、ザルト、ドイツのツヴィーゼル、フランスのバカラといったグラスで、お酒を嗜めるのは優雅なひと時であるといえます。

同席者と、料理だけではなくお酒でも感想を共有できるのも、また素敵なひととき。コミュニケーションの幅も広がり、絆もより深まります。

お酒かノンアルコールドリンクを

こだわりがある飲食店であればあるほど、ドリンクに力が入れられているものです。居酒屋であれば、こだわりのある店主であればあるほど、お酒も飲んでもらいたいと考えています。

ただ、お酒が飲めるかどうかは、体質や体調に依存するところが大きいのも事実。居酒屋ではお酒が飲めたらよいかもしれませんが、もしも飲めないとしても、冒頭の店主による投稿でも主張されていたように、ノンアルコールドリンクで「居“酒”屋」を楽しんでいただけたらと思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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