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8試合ぶりの勝利! 浮田健誠、上昇気流に乗る豪快2発!/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
2点目を決める浮田健誠=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCが8試合ぶりの白星を手にした。レノファは9月19日、山口市の維新みらいふスタジアムで東京ヴェルディと対戦。前後半ともに5分のアディショナルタイムがある長い試合を、浮田健誠の2得点で制した。

明治安田生命J2リーグ第20節◇レノファ山口FC 2-1 東京ヴェルディ【得点者】山口=浮田健誠(後半19分、同22分)東京V=小池純輝(後半38分)【入場者数】1829人【会場】維新みらいふスタジアム

失点減へ、追い方を改善

 無風の中で始まった試合は、風の流れがそうであるように、無風のまま進んでいく。前半は0-0。試合が大きく動いたのは後半だった。もっとも、前半を無風で進められたのは、レノファが前節までの反省点をうまく修正できたからだろう。

レノファの先発布陣
レノファの先発布陣

 レノファは2試合続けて複数得点を挙げていたものの、勝機をつかめていなかった。高いライン設定を保ち、敵陣でサッカーをするというコンセプトは不変で、実際にそのサッカーができる時間帯も増えてきていた。

 それが得点の増加傾向という成果に結びついている反面、前年からほとんどの選手が入れ替わった最終ラインで対応が後手に回り、失点も増加。最終ラインもビルドアップに参加しているが、その分だけ背後のスペースを狙われ、前節の水戸ホーリーホック戦では4失点を喫している。

 霜田正浩監督は9月16日の練習後、「前からプレッシャーを掛けて相手陣地でサッカーをし、しっかり相手ゴールに向かっていく。なおかつカウンターを受けないというサッカーを目指しているので、ある程度のリスクは仕方がない。しかし、そのリスクをどのようにして未然に回避するかが一番の課題だ」と話し、ハイラインの背後を狙われないサッカーをいかに追求するかをポイントに挙げた。

 具体的な策として、今節は守備戦術の方向性とフォーメーションを部分的に変更。「(東京Vのような相手に対して)重心を後ろにして自分のゴールを堅くするというやり方と、ボールの出どころにプレッシャーを掛けるというやり方がある。僕らは後者を選択した」(霜田監督)としてアグレッシブに行くという方針そのものは堅持。その上で「行くタイミングと、いつ深追いするかのタイミングはトップ(FW)に任せていたが、彼らの中で判断し、行くときには連動し、行かないときにはミドルブロックを作る。そういう立ち位置を決め、そこから集中した守備をする」と述べ、深追いする選手を制限した。

 前線からチェックしつつ、突破を許した場合には、中盤や最終ラインの選手までもが前のめりになるのを抑制。すぐにブロックにスイッチし、ボールを持たれてもシュートは打たれないように守りを固めた。また、フォーメーションもここ数試合で採用している3-4-3ではなく、レノファとしては慣れた形に戻した。

前線でチェックするヘナン(中央)。ヘニキ(右後方)は最終ラインで守備陣をコントロールした
前線でチェックするヘナン(中央)。ヘニキ(右後方)は最終ラインで守備陣をコントロールした

 現実には東京Vに背後を狙われる場面があったが、帰陣のスピードアップとブロックへの切り替えが奏功し、ピンチは大幅に減少。前半は東京Vにボールを持たれたとはいえ、シュートまではほとんど持ち込まれず、レノファが想定したストーリーの内側で試合が進んだ。

クロスからの攻撃が実る

 後半は試合が大きく動く。無風の試合で風を巻き起こし、自らが台風の目となったのが、浮田健誠だった。12試合連続でピッチに立っている大卒ルーキーは、「試合に出ている時間を考えればもっと決めていてもおかしくはない」と言い切り、クロスへのタイミングを練習の中から合わせてきていた。

 ただ、後半の立ち上がりも東京Vのパス回しを止められず、グラウンダーのクロスから井上潮音にシュートを打たれるピンチを作られる。これをGK吉満大介のファインセーブでしのぐと、後半10分以降はレノファが流れを呼び込み、ゴール前に何度も迫っていく。

 待望の先制点は同19分だった。吉満が左サイドへと展開して田中パウロ淳一がボールを受け、池上丈二とのワンツーからタッチライン際を奥へと突破。田中パウロはふわりと浮かせたクロスボールをファーサイドへと飛ばし、フリーになっていた浮田が利き足の左足でゴールの左隅へと流し込んだ。

1点目のゴールを落ち着いて決める浮田健誠
1点目のゴールを落ち着いて決める浮田健誠

 「センターFWの(小松)蓮がいつもDFを引きつけて、つぶれてくれる。自分がフリーになるからは決めないといけない」。そう浮田が話すように、ニアサイドで小松蓮が相手選手を引きつけ、手薄になったファーサイドで浮田が仕留めた。お手本通りとはいえ、精度が求められる攻撃を息のあった連係で完結させた。

 さらに同22分にも浮田が2点目を挙げる。池上が倒されて得たFKの流れから、再び田中パウロがクロスを供給。今度は浮田自身がニアサイドに走ると、足元に落ちてきたボールを巧みにコントロールしてゴールへと左足を振り抜いた。「速くていいボールが来るのは練習から分かっていた」と浮田。トレーニングでの成果が生きたゴールシーンとなった。

試合を決めた吉満のPKストップ

 それでもゲームは2-0では終わらなかった。2点を追う東京Vは試合途中から入った選手がゴールに接近する。後半38分には山本理仁が背後を突く縦パスを差し込み、抜け出した山下諒也が左サイドからクロス。これに反応した小池純輝がゴールネットを揺らした。

 途中出場の山本を起点に、やはり後半から出場の小池が1点差に迫る一撃。この時間帯までレノファの守備陣は何とか背後をケアできていたが、途中から出てきた選手たちのスピードには後手に回った。さらに後半45分にも背後を狙われて、森田晃樹のスプリントを許してしまう。これにはヘニキがクロスブロックに行くが、ボールが手に当たってしまい、PKを献上する。

PKを止める吉満大介。「心理戦。うまくいって良かった」と振り返った
PKを止める吉満大介。「心理戦。うまくいって良かった」と振り返った

 絶体絶命の場面で、GK吉満は軽くジャンプをしながら相手の動きを揺さぶった。「駆け引き通りに蹴らせることができた」。キッカーのクレビーニョが右足で放ったシュートは、GKから見て右方向に飛んだが、反応した吉満が両手でしっかりとホールド。終了間際の失点が多いレノファにとって万事休すというところだったが、GKが大ピンチをはねのけた。

 ただ、5分のアディショナルタイムはほとんど東京Vがボールを掌握。レノファはショートパスに振り回されながらも、人数を集めたブロックで跳ね返して時間の経過を待った。そうした中、東京Vの攻撃の要で、ボールに多く触ってリズムを出していた井上が2度目の警告を受けて退場となってしまう。

 ポゼッション率で東京Vが上回る中、人数で優位に立ったレノファが残り2分を耐え抜き、8月16日以来約1カ月ぶりの勝利を手にした。

「飛行艇」に乗った浮田の連続弾

 レノファは3試合連続で複数得点を挙げた。浮田の1点目のゴールシーンはレノファが目指している形の一つだ。前線に人数を掛け、クロスのキッカーには複数の選択肢を付与。相手の動きに応じてニアサイドがつぶれたり、ファーサイドがおとりになったりしながら、マークの薄くなる選手を作り出す。ピンポイントのクロス精度や、フィニッシャーの決定力が上がってきているのも、この形でのゴールを後押しする。

 今節は田中パウロのクロスが確実に入り、浮田は冷静にゴールを決めた。霜田監督は「高い確率でシュートを枠に持って行ける技術がある」と浮田の活躍を称える。

 一方で整理して臨んだ守備面は、後半の途中まではしっかりと対応した。カウンターなどから決定機を作られる回数は明らかに前節よりも少なかった。それでも相手が選手を入れ替えて背後を狙うようになると、ピンチが続き、PKも与えている。GK吉満のファインセーブに救われたとはいえ、まだ修正していく余地は残っている。勝ったからこそ、確実に修正して次戦に臨みたい。

 ところで、試合前にレノファ広報部発案の企画として、選手セレクトの「パワーソング」がスタジアムに流れた。盛り上がりにつながる曲を流して一体感を醸成しようというもので、今回の選曲者が2ゴールの浮田だった。流したのはKing Gnuの「飛行艇」。ゲームは夕なぎの中で行われたものの、まさに浮田が風を巻き起こして、スタジアムを震わせる試合となった。

 レノファは次戦はアウェー戦で、9月23日にジェフユナイテッド千葉と対戦する。この試合が前半戦のラストマッチ。その後はホーム2連戦となり、9月27日にファジアーノ岡山と、同30日にジュビロ磐田と、いずれも午後7時から維新みらいふスタジアムで対戦する。一歩ずつでも勝ち点を積み上げながら、巻き返しを図っていきたい。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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