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車椅子ユーザーの「JRに乗車拒否された」ブログ、合理的な配慮なく炎上。必要なのはトラブルではなく賛同

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
炎上している伊是名さんのブログ。筆者キャプチャ。

 車椅子ユーザーのコラムニスト、伊是名夏子さんが4月4日に投稿した「JRで車いすは乗車拒否されました」とのブログ記事が炎上し、いまも燃え続けています。

 炎上が続く背景には、JRの駅員に対して合理的な配慮を求める伊是名さんが、自身は合理的な配慮をまったくしていないことにあると分析します。

炎上したブログの内容とは?

 まず初めに、炎上している記事の内容について紹介します。詳細はブログを読んでいただくとして、まとめると

無人駅の来宮(きのみや)駅で降りたいため現地での車椅子対応を当日に乗車駅の小田原駅で依頼したところ、駅員は熱海駅までの乗車を提案。

1時間ほど「来宮駅での対応をして欲しい」と交渉したのちに熱海駅に向かうと、熱海駅では駅長ふくめて4人で対応をしてくれた。

帰路では事前連絡をお願いされていたため前日に連絡したところ、来宮駅で駅員が待機してくれており、希望の時間の電車に乗れた。

 という内容です。

 これを「JRで車いすは乗車拒否されました」とのタイトルで公開した結果、炎上しました。

 このブログ記事の問題点はいくつかあります。たとえば

  • 乗車拒否はされていないこと(駅員は対応可能なことを提案していた)
  • 障害者差別解消法を理由に「合理的な配慮」を迫ったが、同法では「事業者は負担が重すぎない範囲で対応に努めればよいこと」と定められていることには触れてなかったこと
  • タクシーは1ヶ月前に予約が必要だと知っているのに、駅には当日30分以内での対応を迫ったこと
  • トラブルが起きたあとマスコミに連絡をしたこと

 などです。

 ひとつひとつについて書くと長くなってしまうため、今回は記事が炎上した根本だと考えられる「合理的な配慮」について取り上げます。

合理的な配慮が必要なのはJR側だけなのか?

 伊是名さんは「駅は公共の交通機関のため、合理的な配慮をしなければならない」とたびたび訴えています。

 たしかに障害者差別解消法では障害者からバリアのために対応を求められたとき、負担が重すぎない範囲で対応に努める“合理的配慮”が求められます。

 しかし、来宮駅から離れた場所にある小田原駅で人員4名を当日すぐに確保することはかなり負担が重いと思います。

 小田原駅の駅員には本日定められた通常の業務がありますし、熱海駅の人員状況を把握できているとは考えにくいからです。実際、来宮駅は熱海駅と1.7kmしか離れていないため、小田原駅ではなく熱海駅の駅員が対応をしています。

 そして、前日に連絡を入れた場合、当日にきちんと人員を確保して対応してくれているわけです。

 伊是名さんが「事前に連絡をする」という合理的な配慮をすれば、JRは対応可能でした。

 そして交渉に時間はかかったものの、対応したJRに対して「乗車拒否された」とブログで批判したことがこの炎上の根本です。

 合理的な配慮とは他者に要求するだけのものではなく、コミュニケーションを取り合う両者に求められるものだと思います。

全バリアフリー化は理想だが、現実はそうなっていない問題との付き合い方

 この炎上が起きた背景には、もうひとつ、車椅子ユーザーから見た不満というか、悩みがあると受け止めています。

 それは、「健常者は事前に連絡する必要などないのに、なぜ車椅子ユーザーは事前に連絡を求められるのか? 健常者と同じ行動をしてはいけないのか? これは不公平(差別)である」という訴えです。

 これはまったくその通りの意見で、すべての駅や場所がバリアフリー化されれば、今回のような問題は起きなくなります。

 そして、バリアフリー化に反対する人はほとんどいないでしょう(一部、天守閣にエレベーターをつけるかどうかでは物議となりましたが)。

 これの問題は、「そうなるのは理想だが、現実はそうなっていない」ところです。

 伊是名さんは「来宮駅が無人駅になってから数年経っているのに対応が考えられていない」と発言されていましたが、JR側も来宮駅のあるJR伊東線の無人化にともないバリアフリー化を国や市と予算の面で協力しながら進めています

 つまり必要なのは乗車トラブルではなく、時間(というよりもお金)です。

 いまはバリアフリーへの過渡期であり、この状況になるには車椅子ユーザーをふくめ、障害者の方々による抗議のための行動があったからこそだと思います。

 炎上のなかで1977年の川崎バス闘争の話が持ち出されているのも確認しました。

 ただ、あのような過激な抗議は昭和もおわり、平成もすぎさったいま、SNS(世間)では受け入れられにくいです。

 実際、車椅子ユーザーへの感情は、炎上事件を境に大きく悪化しています。

炎上前と比較して車椅子ユーザーへの感情は悪化。Yahoo!リアルタイム分析よりキャプチャ。
炎上前と比較して車椅子ユーザーへの感情は悪化。Yahoo!リアルタイム分析よりキャプチャ。

 今回の行動により、車椅子問題への認知度は上がりました。しかし、結果は賛同ではなく大きな批判を生むこととなりました。

 これまでの「車椅子のことを考えていなかった」ではなく、「わざと乗車トラブルを起こす車椅子ユーザーがいる」という方に認知が進むのは良いこととは思えません。

 たしかに「車椅子ユーザーは事前連絡が必要だ」というのは手間です。不満もあると思います。「差別」と感じられることもあるでしょう。しかし現実問題として、いますぐすべての駅のバリアフリー化できないのもまた事実です。

 このような状況下では、トラブルを起こす行動をするのではなく、事前連絡などの合理的な配慮を行い、そしてそのことについての不満を述べた方が世間の賛同を得られ、より車椅子ユーザーにとって過ごしやすい社会になるのではないでしょうか。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。インターネット(SNS)で起きる炎上の解説、デマのファクトチェック、スマホやガジェットの話題、生成AIが専門。最近はYouTubeでも活動しています。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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