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進路も気になる日本代表ジェームス・ムーア、2019年影のMVPと言われて…。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
もともとは長髪も、「友達に切ってもらったらひどくなったので全部切っちゃいました」

 選手のための選手と言えよう。2年前のラグビーワールドカップ日本大会で初の8強入りした日本代表にあって、仲間内での評価が高かったのがジェームス・ムーアである。

 オーストラリア出身の27歳で、2016年に来日。日本大会開催年の2019年に代表資格を得るや、大男のひしめくロックのポジションで渋い光を放った。

 日本大会時に正スクラムハーフだった流大は、大会直後のラグビーブームの只中にこう発している。

「メディアに出るメンバーは限られている。でも、(活躍したのは当該の選手)だけじゃない、というのを、僕は伝えたいです。例えば、ジェームズは分析したり、色んな選手とコミュニケーションを取ったりしてラインアウトを作り上げていた。そしてもちろん、タックル。あれだけの本数。身体は相当、痛いと思うんですけど…。ボールキャリーでも前に出てくれる」

 身長195センチ、体重110キロと、国際レベルのロックにあってはやや小柄だ。それでも空中戦のラインアウトを首尾よく安定させる。攻めてはグラウンド中央部のユニットへ入る。接点からパスを受けては壁に突っ込んだり、球を持つ味方を保護したり。

 その役目を全うするなかで決まったのが、スコットランド代表戦での稲垣啓太のトライだった。

 敵陣22メートル線付近右中間で、巧みに防御を破った堀江翔太を援護。まもなくウィリアム・トゥポウへオフロードパスを放ち、歓喜の瞬間を招いた。

 何より際立つのは献身的な防御。欧州6強の一角であるアイルランド代表との試合では、両軍最多となる24本のタックル数を記録した。5試合通算のそれは、出場チーム全体で6番目の多さとなった。

 5月27日、約19か月ぶりの代表活動が本格化。28日には合宿地の大分県内でムーアがオンラインで取材対応。味方から受ける高評価への所感に加え、6月26日のブリティッシュ&アイリッシュ(B&I)ライオンズ戦への意気込みを語った。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——ワールドカップを一緒に戦ったメンバーには、あなたを大会中のチームMVPに挙げる選手もいます。そのことを率直にどう思いますか。

「自分ではそうだと思っていないのですが、名前を挙げてもらえて嬉しいです。自分としては、自分の仕事を継続してやり切る。これが重要です」

——評価される点のひとつにラインアウトの貢献度があります。対戦相手に大型選手が多いなか、どう自軍ボールを確保しているのでしょうか。

「相手には自分たちよりも身長の高い選手がいる。逆に自分たちには身長2メートル以上の選手はいません。そんななかでキーポイントとなるのは、スピードを活かしてポジショニングすること、全員が役割を理解すること、ここにしっかりとしたスローイングがあれば(確保できる)。これらを意識してやっていきたいです」

——日本代表のロック勢を引っ張ってきたトンプソン ルーク選手は2019年度限りで現役を引退しました。

「彼からは、練習態度、ラインアウトリーダーとしてどうしなくてはいけないかなど、たくさん学ぶことがありました。それらを自分で活かし、合宿中も発揮していきたいです」

——トンプソンの仕事量は見事だった。今後、大きなフォワードへどう対抗するか。

「フィジカリティのレベルは上げないといけない。前回のワールドカップでは、今回のB&Iライオンズに入る選手のいるアイルランド代表、スコットランド代表ともしっかりと戦って勝てた。自分たちはこの合宿でいい練習を積み重ね、しっかりステップアップして、B&Iライオンズ戦に向かっていきます」

——パンデミックに伴う活動休止期間中を経て、いまの状態は。

「長い休みのなか、身体をしっかり整えられた。いままでで一番といっていいほどのコンディション。これからはラグビーだけに集中し、自分がやらなきゃいけないことだけに集中すればいい」

——宗像サニックスでは6番のブラインドサイドフランカーでもプレーしていましたが。

「ジャパンの時にはロックだけでのプレーを望みます。宗像サニックスではそのポジションに空きができ、そこへ入ったのです。宗像サニックスでは6番でプレーしたことで、ボールスキルは成長させられた。それはロックでも活かしていける」

——2023年にはワールドカップフランス大会があります。

「2023年は自分のゴールに定めています。これからすべきことは、ジムで身体をもっと強く、大きくして、フィットネスも高めること。ラグビー面では自信を持ってラインアウトのコールができるようになること、ランニングでゲインラインを取ることを成長させたいです」

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが潜在的に求めているであろう選手の資質に、「タフ」がある。ジョセフの盟友である藤井雄一郎ナショナルチームディレクターが認める。

 ここでの「タフさ」は頑丈であること、大きな相手にひるまぬこと、環境の変化に適応できることといった複層的な意味を帯び、日本大会でレギュラー格だったムーアはその「タフさ」の領域で合格点を出している1人だろう。

 自身2度目のワールドカップ出場へは、フィジカリティ、体力、ラインアウトでの統率力といった、かねて求められてきた要素をさらに高めたいと宣言する。

 現在所属する宗像サニックスの強化縮小が報じられるが、「契約が終わり次第、自分は他のチームに行くことになります」「近い将来は日本でプレーすることになると思います」と先を見据える。サーフィンが趣味という戦士は以後、列島のどのエリアの波に乗るつもりだろうか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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