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「梟雄」松永久秀が忠臣? 開発チームに聞く「信長の野望」武将能力設定の裏話

河村鳴紘サブカル専門ライター
「信長の野望・新生」のイベントに登場する松永久秀

 コーエーテクモゲームスの人気ゲーム「信長の野望」シリーズは、織田信長や武田信玄などの戦国大名になりきって、天下統一を目指すゲーム。戦国時代は熱烈な歴史ファンが多いこともあってか、ゲームで設定された武将の能力(政治や戦闘など)について意見が寄せられるそうです。

◇開発チームが明かす能力設定の基準

 「信長の野望」シリーズは、戦国大名となって、国力・軍事力をアップし、ライバルを倒していきます。同盟を結んで強敵を破ったり、朝廷を利用したり、計略を使って相手の力を削ぐこともできます。しかし、ゲームのカギを握るのは、いかに優秀な武将(人材)を集められるかです。

 そして、各武将の能力数字ですが、「統治力の高さ」「戦闘の強さ」などの各種数値が設定されていて、概ね1~100で評価されています(100が高く、中には100以上になる作品も)。技能(スキル)があるので、数字が高いから最強……というわけではありませんが、高い方が良いのも確かです。

 武将の能力は、どう設定するのでしょうか。そこでシリーズ最新作「信長の野望・新生」を手掛けた開発チームに“直撃”してみました。

ーー「信長の野望」シリーズに登場する武将ですが、能力を設定する基準は?

 一つ明確な基準となるのは史実的な裏付けや伝承・故事といったその武将独自のエピソードです。

 例えば「生涯幾度にわたり合戦に臨むも、いずれの戦いにおいてもかすり傷一つ負わなかった」というエピソードで有名な本多忠勝については、率いる部隊の攻撃が高くなる「武勇」の能力が他の武将に比べて極めて秀でた値となっています。

 具体的にどのような値で設定するのかは「信長の野望」シリーズファンや歴史ファンの方々に納得していただけるかがもう1つの基準になってきます。

ーー能力設定で最も悩むことは?

 史実的な要素とユーザーが期待する要素が乖離(かいり)する場合に、それを如何に両立するかということでしょうか。

 例えば「謀叛人」「梟雄(きょうゆう)」という悪人のイメージが強い松永久秀に関して、近年の新説では主君・三好長慶に忠義を尽くす功臣であったとする説も有力になりつつあります。

 一方で「信長の野望」ユーザーをはじめ、一般になじみがあるのは悪逆非道の梟雄としての姿ではあるので、久秀の「野心」(裏切りやすさを示す値)などの能力については、最新の学説も踏まえつつシリーズユーザーの期待も裏切らないように……というバランスの取り方が大きな悩みどころになりました。今作については新説のような忠臣・松永久秀とまでは行きませんが、悪逆非道の松永久秀とはまた違った姿に仕上がっており、そこに従来作にはない新鮮さを感じてもらえるかと思います。

ーーシリーズで、能力の上がり幅の大きい、最も印象に残っている武将は?

 東海地方の大大名として威勢を誇った今川義元です。

 シリーズ11作目までは京文化に憧れる公家かぶれのキャラクターが強調され、「武勇」や「知略」といった能力が控え目に設定されていましたが、シリーズ12作目である「革新」あたりから武将像の見直しが行われ、織田信長や武田信玄にも比肩する有能な武将となっています。「海道一の弓取り」の異名から今作では武人としての姿も強調し、「武勇」の値を大きく上昇させています。シリーズを重ねる毎に進化する義元の姿を、ぜひその目でご確認いただきたいです。

ーーシリーズで、能力設定が厳しいと考える武将は?

 武田信玄の後継者であり武田家最後の当主となった武田勝頼でしょうか。勝頼は毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい武将であり、シリーズによって能力設定の変動が激しい人物です。

 「武勇」が高い値を誇る一方で、「知略」「政治」の低い猪武者として描かれるタイトルもあれば、近年の学術研究を受け外交政策や内政が評価されて「知略」「政治」が高い値となっているタイトルもあり、その評価がなかなか安定しない人物だなという印象です。

 今作では「統率」「武勇」「知略」「政務(政治)」とも高めの値で設定されており、従来作よりもバランサーとしての面を強調した形になりますが、今後の発見次第ではそんな勝頼の人物像もアップデートしていくことになるでしょう。

ーー最新作「新生」で“推し”の武将を教えてください。

 「鬼半蔵」の異名で名高い服部半蔵が今作の“推し”です。

 服部半蔵と言えば伊賀の忍者としてよく知られている人物ですが、「信長の野望」シリーズでの服部半蔵は、服部家2代目当主である服部正成のことを指し、この正成は忍者としての活躍はなく、終生徳川家に使える武士でした。その姿はイラストにも表れていますが、今作では史実通り、武士としての姿で描いています。ですが従来的なイメージを完全に捨て去ることはせず、「忍者っぽさ」を感じられる要素も持たせています。例えば半蔵が保有する特性「伊忍道」は敵勢力からの調略を無効化するという効果であり、忍者としての姿が連想できる設定になっています。史実に従いつつも一般的なイメージは裏切らないというバランスの良さが「新生」半蔵の魅力のひとつです。

「信長の野望・新生」に登場する服部半蔵は、忍者ではなく、武士の姿に
「信長の野望・新生」に登場する服部半蔵は、忍者ではなく、武士の姿に

 開発チームが明かしている「三好長慶に忠義を尽くす」松永久秀ですが、「意外」に思う人もいるかもしれませんが、その設定を取り込んだ小説もあります。また武田勝頼について、彼の外交政策や内政を評価する作品もあります。

 難しいのは、ゲームを遊ぶファンのイメージ(先入観)があることです。それを裏切りすぎると、遊ぶ側が戸惑ってしまうため、いかにしてバランスを取るかが重要になるのですね。

◇能力1ケタ連発のダメ武将も…

 今後も、史料などの発見や、研究が進むと、データを巡る変化があるでしょう。実際、今までも能力が大きく変動した武将もいます。

 例えば、豊臣秀吉の家臣・大谷吉継です。初登場時(風雲録=1990年発売)は、どの能力も平均より上(70前後)ではあるものの、「パッとしない」感じでしたが、シリーズを追うごとにパワーアップ。「新生」では統率89、知略90と知勇兼備の名将となっています。関ケ原の戦いでは負けを覚悟して親友・石田三成の側に付き、小早川秀秋の裏切りも予測。数倍の敵軍と渡り合ったことが評価されたのでしょう。

 そして小早川秀秋ですが、こちらは評価が揺れ動いています。「覇王伝」では政治5、「天道」では武勇23、知略23とかなり厳しい設定。しかし「新生」では各能力が50台・60台と巻き返しています。歴史ファンに好かれる要素はあまりないにしても、大軍を率いて関ケ原に参戦し、時代を動かした武将なのは確かです。

 一方パワーダウンする武将といえば、毛利元就の孫で、豊臣政権の五大老の一人だった毛利輝元でしょうか。初登場(群雄伝)は政治78、戦闘80だったのですが、シリーズを重ねると各種能力が概ね下降。「新生」では政務こそ69ですが、武勇56、知略41になってしまいました。二人の超有能な叔父(吉川元春と小早川隆景)が補佐してくれますが、他の五大老は総じて優秀なのに……。

 とびきり厳しい評価といえば、土佐の大名・一条兼定でしょうか。シリーズを通じて一桁台の能力が目につきます。「新生」の統率18、知略25が高く見えてしまうから不思議。とはいえ酒におぼれ、意見をした家臣を殺し、戦いにも大敗するなど、それら一連の行いを考えれば、仕方ないのかもしれません。

 「信長の野望」における、武将の能力設定は、現代の価値観から見た武将の「通信簿」のような感じです。シリーズを通して比較すると、評価の変遷が見えるところにも面白さがあります。そして研究が進めば、意外な武将にスポットが当たるかもしれません。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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