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カメ止め上田監督が「スペシャルアクターズ」と挑む、カメ止め越えへの道

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:上田慎一郎監督ツイッターアカウント)

2018年最大の話題作となった「カメラを止めるな!」現象から1年。

カメ止めを生み出した上田慎一郎監督の最新作「スペシャルアクターズ」が10月18日に公開されます。

(出典:松竹ブロードキャスティング)
(出典:松竹ブロードキャスティング)

参考:スペシャルアクターズ | 2019年10月18日(金)公開

9月25日には丸の内ピカデリーで完成披露試写会が開催され、多くの人が一足早く映画を楽しんだようですが、筆者も光栄にもメディア向け試写会で一足早く見ることができましたので、ネタバレなしの感想を書いておきたいと思います。

■カメラを止めるな現象から1年

映画「カメラを止めるな!」は制作費300万円という低予算のインディーズ映画で、上田監督も初の長編映画、役者陣も当時は無名、そもそもENBUゼミナールのワークショップ企画の作品で、配給会社のアスミック・エースが配給協力するのも、なんと公開から1ヶ月後という、何も持っていない状態からのスタートで、異例続きの出来事が重なって奇跡の大ヒットになったのが非常に印象的な映画でした。

参考:カメラを止めるな!は、どのように日本アカデミー賞に辿り着いたのか

今回の「スペシャルアクターズ」は、上田監督もカメ止めで有名になったことだし、松竹ブロードキャスティングだし、さぞかし有名な役者が主演に混じってくるのかな、と思いきや。

またしても上田監督は、今回もカメ止め同様、無名の役者達を軸に作品を作り上げることを選択しています。

なんでも、今回の「スペシャルアクターズ」は、松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画プロジェクトの第7弾で。

オリジナル映画プロジェクトとは、「“力のある監督が撮りたい映画を自由に撮る”と“新しい俳優を発掘する”をテーマに掲げる独自企画。」だそうで、漫画や小説、テレビドラマなどの、原作ありきの映画が中心の日本映画界においては、異端とも言うべき映画プロジェクトなんだそうです。

参考:松竹ブロードキャスティングは“作家主義”を貫く 

 

今回の映画では、15人の役者はオーディションで募集。

カメ止め効果もあり、1500人以上の応募者が集まったそうで、無名な人が多いとはいえ100倍の倍率から選ばれた、一癖も二癖もある個性的なキャスト陣が登場します。

(出典:松竹ブロードキャスティング)
(出典:松竹ブロードキャスティング)

■役者が決まってから脚本を書く「あて書き」

個人的に上田監督の映画で興味深いのは、役を演じる俳優があらかじめ決まっている状態から脚本を書く「あて書き」というやり方です。

通常、原作のある映画においては、当然、原作に登場する人物に近い役者をオーディションで選ぶことが多いわけですが。

「あて書き」では、先に役者を決めて、その役者にあったキャラクターで脚本を書いていくわけです。

「カメラを止めるな!」においても、無名の役者にもかかわらず、それぞれの役者がキャラクターにピッタリの演技を見せているのが非常に印象的でしたが。

ある意味、それはこの「あて書き」で上田監督が役者の特徴を最大限活かしたキャラクターを脚本に織り込んでいくからできること、ということも言えるでしょう。

今回の「スペシャルアクターズ」でも、その上田監督の「あて書き」は切れ味鋭く、個性的な役者陣を、より個性的に輝かせています。

特に、カメ止めの時は、あらすじがあったのに対して、今回は完全に15人の役者を元にゼロから書き起こしたそうで。

しかも、クランクイン2ヶ月前に、1度もともとの企画を白紙にして、役者陣と議論しながら今回の脚本が生み出されたというから驚きます。

(出典:松竹ブロードキャスティング)
(出典:松竹ブロードキャスティング)

ちなみに、「カメラを止めるな!」と「スペシャルアクターズ」の共通点として非常に印象的なのは、登場人物の多くが「不器用」なこと。

上田監督自身「美男美女で器用な人はメジャー映画で観ればいい」とハッキリ言いきっているそうで、「カメラを止めるな!」でも主演の濱津さんをはじめ、多くの不器用だった俳優陣が、見事にカメ止め旋風に乗って、人生を変えていったのは皆さんもよくご存じでしょう。

「スペシャルアクターズ」撮影にあたっては、上田監督自身、誰も想像していなかった奇跡の大ヒットとなった「カメ止め」の次の映画というプレッシャーから、気絶しそうな日々を過ごしていたそうですが。

緊張すると気絶してしまう主人公を演じる大澤数人さんは、なんと、この映画が10年間で3回目の芝居。

応募当時に結婚相談所に勤務していた人もいれば、ヒロイン的な役どころで登場する老舗旅館の跡取り娘を演じる津上理奈さんは、カメ止めの初期の頃からの大ファンだった普通のOLで。

会社のトイレで自撮りした社員証をぶら下げたままの写真でオーディションに応募し、有休を取って撮影に参加したというから、凄いシンデレラストーリーです。

ある意味、「あて書き」だからこそのキャスティングでもあり、「不器用」な俳優達の人生が、今回のスペシャルアクターズをきっかけにどう変わっていくのかも気になるところです。

■監督が宣伝プロデューサーも兼務する意味

ちなみに、今回の「スペシャルアクターズ」では、上田監督は「監督」と「脚本」、そして昨年日本アカデミー賞を受賞した「編集」はもちろん、なんと「宣伝プロデューサー」まで兼務しています。

カメ止めの時に30日前から実施していたツイッター上でのカウントダウンを、今回は #早すぎるカウントダウン と銘打って130日前から実施したり。

ウェブサイトにちょっとした秘密(?)のネタを入れ込んでみたり。

試写会の段階から感想のツイッターへの投稿をお願いし、公式アカウントや監督のアカウントで紹介したり。

さらには、自らの家の引っ越しの時に主演の大澤数人さんに手伝ってもらった写真を投稿したり、試写会の舞台挨拶の様子をライブ中継したりなど、従来の映画のプロモーションの常識の枠に捕らわれない上田監督ならではの宣伝活動を展開中です。

普通は「宣伝プロデューサー」は、専任の人がやるイメージが強いですが、あえて上田監督が兼務することで、映画の宣伝自体も映画と連動する1つのエンターテインメントになっているというと大袈裟でしょうか。

(出典:松竹ブロードキャスティング)
(出典:松竹ブロードキャスティング)

「カメラを止めるな!」は、映画業界の人たちがこぞって「2度とおきない、おこせない」と口を揃える奇跡的な現象でした。

そういう意味で、上田監督にのしかかる「カメ止めの次」というプレッシャーが想像を絶するものなのは、素人でも容易に想像できます。

ただ、上田監督は、明らかに今回の「スペシャルアクターズ」で、上田監督らしいカメ止め越えへの道を見つけられたんじゃないかなと、素直に感じることができました。

上田監督の「あて書き」による脚本で輝く「不器用」な役者陣の成長の軌跡。

それが、映画の中だけでなく、現実の世界での役者自身の不器用さと、その後の成長につながっていくように感じて、つい応援したくなってしまうのは、上田監督作品ならではなんじゃないかな、と感じてしまう今日この頃です。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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