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2018年は朝鮮半島にとって「新たな始まり」だったのか?

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
18年9月19日、「平壌共同宣言」を発表する南北両首脳。写真は共同取材団。

残すところあと2日となった2018年。韓国では年末によく「多事多難だった一年」という慣用句が使われるが、今年の朝鮮半島情勢に当てはめるなら「難」を取るべきだ。一年を振り返る。

大きな出来事が続いた2018年

記事を書き始めるにあたり、一年をだらだらと振り返ることはしないが、それでもざっと見ておきたい(「知ってる」という方は飛ばしていただいても大丈夫です)。

1月にはまず、約2年ぶりとなる南北高官級会談が行われ、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の平昌冬季五輪参加が決まった。2月の五輪期間中には北朝鮮の特使団が文在寅大統領の訪朝を打診、3月には韓国特使団が訪朝後に訪米し、南北首脳会談と米朝首脳会談が同時に決まった。

4月には、11年ぶりとなる南北首脳会談で「南北関係の復元」、「軍事的な緊張緩和」、「朝鮮半島の非核化を含む平和体制構築」で合意。5月にはトランプ大統領が米朝首脳会談の延期を発表する中、南北首脳会談を電撃的に行うことで対話の流れを維持した。

6月には史上初となる米朝首脳会談がシンガポールで行われ、「安全保障の提供と朝鮮半島の完全な比較化」で合意。「新しい米朝関係」や「朝鮮半島における平和体制の構築」などが約束された。

トランプ大統領直筆の「すばらしいオリンピックを!」と書かれた写真。米韓が2月23日に公開した。写真は青瓦台提供。
トランプ大統領直筆の「すばらしいオリンピックを!」と書かれた写真。米韓が2月23日に公開した。写真は青瓦台提供。

7月にはポンペオ米国務長官訪朝の際に「強盗的な非核化の要求」と北朝鮮が米側に不満を表明するも、55人の米軍遺骨が返還された。8月には光復節の演説で文在寅大統領が「南北関係の発展こそが朝鮮半島の非核化を促進させる動力」と明言した。

9月には、平壌で今年3度目となる南北首脳会談が行われ、両首脳が「平壌共同宣言」と「南北軍事合意書」に署名し「事実上の終戦」を宣言した。また、北朝鮮の開城(ケソン)市に「南北共同連絡事務所」が開かれた。

10月には、ポンペオ米国務長官が今年4度目の訪朝で「2度目の米朝首脳会談」に合意し、これをトランプ大統領が発表。11月には軍事合意書に基づき、南北間でのあらゆる敵対行為が中断された。

そして12月には、金正恩委員長のソウル訪問が焦点となっていたが、実現せず、ようやく慌ただしい一年の幕が降りることとなった。

2018年、4つの成果

この上で、2018年に朝鮮半島で起きた肯定的な変化は、以下の4つに整理できる。

1: 南北関係の復元

1月から12月まで、韓国と北朝鮮の間では、公式のチャンネルを通じ、一度も途切れることなく対話が続いた。

これは南北間の公式チャンネルが2016年2月の開城(ケソン)工業団地の閉鎖以降、2017年11月の時点まで「ゼロ」となっていた点と比べると大きな変化だ。

さらに、4月の「板門店宣言」で「過去の南北宣言とあらゆる合意の徹底的な履行」が掲げられ、断絶していた南北関係が過去のプロセスの上に再度築かれることになった点も大きい。

そして、実質的な変化として9月12日には、常設の対話の窓口として開城市内に「南北共同連絡事務所」が開設された。南北合わせて50人が勤務し、「開設から100日の間に285回にわたる会談と協議がもたれた」と統一部は今月20日、明かしている。

南北関係について、主管する趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官は18日、「基本的には南北関係が復元し正常化したものよりも、進展したものと見ている。南北関係の制度化に入る過渡期にあると整理できる」とまとめた。

南北共同連絡事務所の開所式。写真は統一部提供。
南北共同連絡事務所の開所式。写真は統一部提供。

2: 南北・米朝間に「非核化の位置づけ」ができた

6月の米朝首脳会談を通じ、北朝鮮を含む朝鮮半島の非核化の対価として、北朝鮮に安全保障が提供されることが明らかになった。

ここで北朝鮮側が言う「保障」について、慶南大学極東問題研究所の金東葉(キム・ドンヨプ)教授は共著『韓半島特別講義』(2018、チャンビ)の中で「自衛・自主・自立を指す」とする。

具体的には「『自衛』は軍事的な安全保障で、平和体制の構築とつながる」とし、「『自主』は国際社会で正常国家として認められる事すなわち米朝国交正常化」を、最後の「『自立』は経済発展すなわち制裁の解除を指す」としている。

一方、韓国も4月の「板門店宣言」を通じ、北朝鮮との間にはじめて「完全な非核化」という単語を明記することができた。

さらに9月の「平壌共同宣言」では、「南と北は朝鮮半島を核武器と核脅威のない平和の基盤として作り上げなければならない」と文言が格上げされた。これは文大統領が平壌市民15万人を前に行った演説でも踏襲され「お墨付き」を得た。

今後、南北関係と米朝関係が「平和協定=米朝国交正常化」という一つの目標に向けて進むことが明確となった。

3: 軍事的緊張の緩和

多くの専門家が指摘しているように、これまでは経済協力や人的交流が進み、南北関係が改善された先に、最後の段階として軍事的な緊張緩和があると思われていた。

しかし、9月の南北首脳会談で合意された「軍事合意書」はこの常識を覆し、先に軍事的緊張の緩和をもたらすという画期的な転換をもたらした。この合意が実践される場合、南北の軍事衝突が起こる可能性は最小化される。

(外部リンク)[全訳] 歴史的な「板門店宣言」履行のための軍事分野合意書

https://www.thekoreanpolitics.com/news/articleView.html?idxno=2683

合意に基づき、10月には軍事境界線をまたいだ板門店内の自由往来に向けた取り組みが始まり、11月には陸・海・空での敵対行為が止まる一方、12月には軍事境界線を挟んで南北にあるそれぞれ10のGP(哨所)の試験撤去が完了し、相互にチェックを行うなどの進展があった。

ただ、未だ南北間の軍事合意書を監督する「南北軍事共同委員会」は発足していない。これについて韓国国防部は今月20日、「来年の上半期に一度目の南北軍事共同委員会の会議を開けるよう北朝鮮と協議中」と明かした。

4: 韓国内の平和基調の定着

この点は日本ではあまり言及されていないが、最大野党で旧与党の自由韓国党が平和基調に転換したこともまた、大きな変化だ。

自由韓国党のキム・ビョンジュン非常対策委員長は今月13日、記者会見を通じ同党の北朝鮮政策をまとめた「ピース(平和)イニシアティブ」を明かした。

その内容は「平和」を「戦争を防ぐ諸条件が備わり、国民の間に戦争が起きる危険が無いという合理的な信頼が続く状態(安心平和+持続可能な平和)」と位置づけるものだ。

文政権の北朝鮮政策の共通点としては「軍事的脅威の除去」や「共同反映と経済的な相互依存の拡大」、そして「社会文化的連携の強化」などが挙げられる。

11月23日、ソウル外信記者クラブで会見する自由韓国党の金秉準(キム・ビョンジュン)非常対策委員長(中央)。「北朝鮮への平和基調にも支持層の動揺はない」と明かした。筆者撮影。
11月23日、ソウル外信記者クラブで会見する自由韓国党の金秉準(キム・ビョンジュン)非常対策委員長(中央)。「北朝鮮への平和基調にも支持層の動揺はない」と明かした。筆者撮影。

一方、「政治社会的な安定」つまり、より民主的な体制を望むといった立場や、人権状況の改善を優先視する目標が示される点などの差異がある。先述した南北軍事合意を「先走った安保解体」と批判する立場もある。

とはいえ同党に所属していた前任の朴槿恵大統領が演説を通じ、公然と北朝鮮当局の幹部たちに政権からの離脱を呼びかけた時のような敵対的な姿勢からは、大きく平和基調に舵を切ったものと評価できる。

さらに言うとこのことは、韓国の左右陣営がその政策理念上では、「非核化の先にある経済交流を通じ『事実上の南北統一』を成し遂げる」方面で一致していることを示している。

課題: 非核化進展には至らず 人権も

米朝・南北ともに朝鮮半島の非核化で合意したものの、その実質的な進展には至らなかった。

前出の金教授は前掲書の中で、「非核化を『猶予』、『凍結』、『不能化』、『廃棄』の4段階に分ける場合、北朝鮮が2018年に行ったのは『猶予=これ以上の実験はしないということ』だ」と指摘する。

これはつまり、核関連施設は今も動き続けているということで、「凍結」されていないことを意味する。米国で関連する報道が相次いで出ていることからも明らかだ。

趙統一部長官も18日、これについて「非核化は本格的な軌道に乗っていないと評価するのが正しい。(中略)未だ双方の非核化に関する実践的な措置、相応的な措置が行われていない状況」との見解を示した。

非核化が進まない理由だが「米朝間の信頼が十分に醸成されていない」とする見方が有力だ。

特に、南北が4月に重要視していた終戦宣言については、元来言われていた象徴的なものから、米国による非核化進展への「報奨」的な性格に変わり、実現しなかった点が惜しいところだ。

朝鮮戦争「終戦宣言」の年内実現なるか…カギはやはり文在寅

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180831-00095174/

また、北朝鮮の人権問題が米韓・米朝の交渉から「意図的に抜け落ちた」点も大きな課題と言える。米韓ともに「人権問題の提起は非核化交渉に不利にはたらく」という見方を示すが、これは疑問だ。

特に韓国当局は「それではいつ人権問題を提起するのか」という点に答えられずにいる。今月、非公開で行われた国策シンクタンク・統一研究院主催の専門家会議でも、脱北者を含む専門家の強い抗議があったばかりだ。

政権に近い進歩派の知識人の中からも不満の声があがる。

匿名を希望した政権内部に精通するある人権専門家は今月21日、筆者に対し「(北朝鮮の人権問題が)南北間の議題として初めからのぼっていない点は大きな問題」としつつ、「政府は具体的な政策を持っていない」と明かした。

さらに「(人権問題を提起する)意志がないのか、わざと無視しているのか、半々だ。無視しているという作戦であってほしい」と怒りを露わにした。

来年の見通し「第1四半期が大事」…限定交渉が吉

趙明均統一部長官は、今月18日に「依然として南北関係と非核化の不確実性、不予測性はそのまま残っている」とした上で「来年の第1四半期が大切だ」と強調した。

こうした見方は韓国内の専門家に広く共有されている。

その最たる理由は、今年11月の中間選挙の結果、米国の下院を民主党が掌握したことだ。2月頃に下院の陣容が整い、民主党がトランプ大統領の北朝鮮政策に批判的な立場を取る前に「トランプ大統領を動かす必要がある」というものだ。

やや乱暴な論理のように思えるが、いずれにせよ、来年初頭に2度目となる米朝首脳会談が実現するのかは大きな焦点だ。

今年6月12日、シンガポールで歴史的な握手を交わした米朝両首脳。写真は共同取材団。
今年6月12日、シンガポールで歴史的な握手を交わした米朝両首脳。写真は共同取材団。

開催される際の議題は、北朝鮮による「核関連施設のリスト提出ならびに、一定の非核化措置の実施」と米側による「経済制裁緩和など『それ相応の措置』の提示」になることは明白だ。

だが、この時に米朝による「検証をめぐる認識差」が問題となると見られる。

前述した通り、非核化の現状が「猶予」だとする場合、今後は「凍結」そして「不能化」へと進んでいくことになる。米側が「凍結」や「不能化」の検証を求める場合には非核化交渉は進む。

だが、「最終的かつ完全に検証された非核化(FFVD)」を求める米側は、最終段階である「廃棄」を前提として交渉に望む可能性がある。そして「廃棄の証明」までを一度に北朝鮮に求める場合、交渉自体が失敗するというものだ。

過去、6者協議の韓国側代表として2005年の「9.19合意」をまとめた宋旻淳(ソン・ミンスン)元外交部長官などが述べているこうした懸念を、「米朝間のチーフ・ネゴシエイター」(トランプ大統領)である韓国政府が、どう調節し対話の環境を維持していけるのかは腕の見せ所だ。

文政権の課題には韓国内の雰囲気維持も

今日、30日夕方、韓国青瓦台(大統領府)は記者会見で、「北朝鮮の金正恩委員長が(同日午後)文大統領宛に親書を送ってきた」と明かした。

親書には「年に3度会い、民族を軍事的緊張と戦争の恐怖から抜け出させた」ことを成果とし、「ソウル訪問を実現できなかったことを惜しむ」内容が含まれていたという。また、「2019年にも文大統領とともに朝鮮半島の非核化を解決していきたい」と「決意」も明らかにされたとした。

今年繰り返し表明されてきた、韓国政府の北朝鮮政策の基調は「南北関係が非核化を牽引し、互いの交渉が好循環する」というものだ。

先の金正恩委員長の親書の内容とも合い、南北が来年にも対話基調を続けることは確実だ。

だが、文政権には懸念がある。国内で「デッドクロス」と呼ばれる支持・不支持の逆転現象が起き、強硬な保守層の反対「も」同時に高まっている点だ。

韓国の保守層のアイデンティティの一つは「反共」だ。このため、国内の世論を気にするあまり、南北対話に消極的になる場合、南北関係改善や非核化に影響がでる恐れがある。

12月12日、南北軍事境界線を挟み、相互のGP(哨所)撤去作業を確認した南北の将校たち。これも歴史的な瞬間だ。写真は韓国国防部提供。
12月12日、南北軍事境界線を挟み、相互のGP(哨所)撤去作業を確認した南北の将校たち。これも歴史的な瞬間だ。写真は韓国国防部提供。

そしてもっとも恐ろしいのは、金正恩政権が「文政権下ではこれが限界」と判断することだ。これまで金正恩氏が対話に応じてきたのは、文政権の高い支持率によるところもある。文政権を見限る場合、その副作用は計り知れない。

だが筆者は、南北関係改善や非核化の進展においては、文政権はより広範な支持を有権者たちから得ているのではないかと見ている。朝鮮半島の南北分断の改善は、時代の精神であるからだ。「不支持の増加=南北対話への反対」と考えるのは早計だ。

この点においても来年初頭の動きを見極める必要がある。だからこそ筆者は、課題を熟知した上で文政権がより積極的な動きをすることを期待しつつ、以下の一文で今年一年を締めくくりたい。

「少なくとも今年一年、朝鮮半島には平和があった。そしてそれは明確に『新たな始まり』を意味するものであった」。(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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