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任天堂の決算は「減収減益」 でも別視点では「増収増益」

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:ロイター/アフロ)

 任天堂の2022年3月期の第3四半期連結決算が発表されました。多くのメディアの記事にある通り、数字的には「前年同期より売上高も利益も減った」というイメージを抱いたのではないでしょうか。ところが別視点で見ると「前年同期より増えた」という現象が発生します。

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◇「四半期」という名のカラクリ

 先に答えを言います。任天堂の発表通り「2021年4~12月」の累積9カ月分の数字を見ると、売上高と利益が共に前年同期を下回る「減収減益」になるのです。ところが「2021年10~12月」という本来の四半期(3カ月間)を見ると、「増収増益」になります。「四半期」に二つの意味があるカラクリがあるのです。

 任天堂のプレスリリース通り、第1四半期から第3四半期の累積では、売上高は約1兆3202億円(前年同期は約1兆4044億円)、本業のもうけを示す営業利益は約4725億円(同約5211億円)です。前年同期よりいずれも数字を落としているので、減収減益となります。

 ところが3カ月だけで見ると、売上高は約6959億円(同6349億円)、営業利益は約2525億円(同約2296億円)です。いずれも前年同期を上回ってるわけで、好調だったことが分かります。

任天堂の3カ月ごとの業績を示した四半期決算=任天堂ホームページから
任天堂の3カ月ごとの業績を示した四半期決算=任天堂ホームページから

 まあ「ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール」という大型タイトルが出たので、当然とも言えます。要するに年末商戦(10~12月)は好調でしたが、第1四半期(2021年4~6月)と第2四半期(2021年7~9月)の分をリカバーできなかったわけです。

◇なぜ不利な数字で発表する?

 任天堂がなぜ不利な数字データを発表したか……と言えば、これはもう仕方ないとしか言いようがありません。決算という3カ月ごとの定期的な発表は、同じ視点でないと混乱の元です。累積で発表するならそれを継続するしかないのです。あえて言うならば、メディアが気付いて記事にして!という感じでしょう。

 ゲームビジネスは、開発が長期にわたる上に、売れる売れない差が激しく「水もの」。本来は、四半期のような短期で見るには、あまり向きません。だから累積で発表するのは「長い目で見て」という、気持ちの表れとも言えます。

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 余談ですが、任天堂の決算でメディアの側は、本業以外の利益も含めた経常利益の扱いに苦労します。理由は1兆円以上の巨額の現金を世界各地に保有していて、為替の変動で黒字が出たり赤字が出るからです。第3四半期決算(2021年4~12月、9カ月)でも168億円の為替差益が発生しています。今回のように大きな営業利益がある場合は問題ないのですが、本業の業績が厳しい場合にはミスリードにつながる可能性もあります。

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 今回は四半期決算ですので、どうしても通期よりは注目度は落ちます。またニンテンドースイッチの累計1億台突破という「大ネタ」がありましたから、メディアの目はそちらに向くのでしょう。それにしても、年末商戦でよく巻き返したと思うのです。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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