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『サウジアラムコ』時価総額1兆8770億ドル。アップルの1.5倍 世界最高額が目指す世界は何?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

□サウジアラビア国営石油サウジアラムコは(2019年12月)11日(水)、サウジ国内の証券取引所に株式を新規上場した。時価総額は約1兆8,770億ドル(約204兆円)となり、1兆ドルを超える米アップルなどを抜いて世界最大となった。今後は国外市場での上場が焦点で、東京証券取引所も候補として取り沙汰されている。

□アラムコは発行済み株式の1.5%を売り出した。調達額も250億ドル(※2.5兆円)を上回り、14年上場の中国アリババグループを抜き史上最大。

出典:サウジ石油、時価2百兆円 世界最大、新規上場

現在、Appleの時価総額は1.2兆ドルなので、1.8兆ドルのサウジアラムコは、Appleの1.5倍、世界ナンバーワンの時価総額企業へと躍り出た事となる。

□発行済み株式の1.5%を売り出した。アラムコのルマイヤン会長は公開に先立ち、「上場によってアラムコのガバナンスと透明性が高まる」と強調した。

□2018年12月期の売上高は3559億ドル(約39兆円)、純利益は1110億ドル。利益の規模は石油メジャー5社の合計を上回る。

□(配当金は)2020年は750億ドルを下限としており、日本企業の配当総額の7割に相当

出典:アラムコ上場、時価200兆円 世界最大 高い収益力、統治に課題

1.5%の株式で、256億ドル(※2.5兆円)調達ということは、つまり、100%だったら1兆6,666億ドル(※166兆円)規模なんだ。そして、現在の時価総額は1兆8,770億ドル(※187兆円) これからは時価総額で外部にもサウジアラムコの価値が可視化できるようになる

※円換算は1ドル100円換算

□アラムコの資金調達額は960億リヤル(約2兆7,800億円)に上り、2014年にニューヨークで上場した中国電子商取引最大手、阿里巴巴(アリババ)集団(250億ドル)を抜き史上最大の新規株式公開(IPO)となった。アラムコのIPOには、サウジの王族や個人のほか、同国と緊密な湾岸諸国などの機関投資家が応募。需要次第では株式の追加販売も可能で、その場合の調達資金は1104億リヤル(約3兆2000億円)に膨らむ。

出典:サウジ国営石油が上場 企業価値204兆円、世界一に―アリババ抜き史上最大IPO

■『サウジアラムコ』ってどんな会社?

https://www.saudiaramco.com/

サウジアラムコ(Saudi Aramco)』とは、本来、「アラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Arabian American Oil Company)」であり、かつては、アメリカ、ロックフェラースタンダードオイルが分割化した『セブンシスターズ』の傘下であった(1930年代)。1960年『OPEC(石油輸出国機構)』が設立され、産油国での国営化が進み、1988年からは、完全国営の「サウジアラビアン・オイル・カンパニー」(サウジアラムコ)が誕生する。そして現在、世界最大の保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量を誇る。

何よりも特徴は、サウジアラビア政府が98.5%の株式を握る政府の国営企業である。そしてサウジアラビアの政府といえば、絶対君主制国家なので、『サーウド家』の人々で構成されているといっても過言ではない。いわば、世界最高のパワーファミリー企業といえる。そして、アメリカ系ユダヤ資本とのつながりも非常に強い。

サウード家の人々 出典:筆者
サウード家の人々 出典:筆者

■発行株式の1.5%だけで調達額 256億ドル(※2.5兆円)の狙い

今回、サウジアラムコが上場したのは、サウジアラビア証券市場というサウジの国内でのドメスティックな証券市場。そして購入者のほとんどが、サウジの国内投資家であり、王族関係者=政府関係者が多い。つまり身内で買い支えた結果ともいえるだろう。なのでこの時価総額のイメージを持って、外国市場への布石としたいところだ。

本来、外国市場での上場(IPO)による資金調達が狙いであったが、まずは国内での少数株数(1.5%)での資金調達で、上場会社としての時価総額を客観的な数字として世界に見せていくシナリオではないだろうか?そして時価総額に裏付けられた信用を持って、世界の証券市場での資金調達が目的だと筆者は考えている。まずは、世界最高の時価総額としての認識の上においての新規事業への投資をアピールしたかったのではないか。

■一番の目的は脱・石油依存の『NEOM』構想

サウジアラビアは、2030年までに『VISION 2030』を掲げており、脱・石油依存の国家づくりに邁進している。ムハンマド皇太子がすすめるIT次世代都市構想『NEOM』のような新たなヴィジョンによる国家づくりのために莫大な資金を必要としている。

サウジアラビアで計画中の『NEOM』出典: 筆者
サウジアラビアで計画中の『NEOM』出典: 筆者

このNEOMプロジェクトは、サウジアラビアの紅海の地帯、2万5,900平方キロ(四国の1.4倍、九州の7割)の未開の土地にまったくゼロからの新都市を築き新たな国家を作る構想である。

タクシーが空飛び巨大人工月が輝く。未来都市「ネオム」計画』には、5,000億ドル(約54兆円)必要なのだ。サウジアラビアのGDP6,500億ドルの77%に値する巨大プロジェクトである。

今回の国内IPOで、256億ドルの調達であったが、『NEOM』を実現するのは、あと20倍もの資金調達をサウジアラビアは、海外から必要としている。しかしながら、サウジアラビアのジャーナリスト、カショギ氏の殺害疑惑や、SVF(ソフトバンクビジョンファンド)の今後の流れもあるので、サウジアラビアは、海外市場での上場のタイミングを図る必要があるだろう。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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