サウジアラビアのムハンマド皇太子のIT次世代都市構想『NEOM』
KNNポール神田です。
2018年中東のオイルマネー王国、サウジアラビアでの王子拘束に、さらに拍車がかかっている…。サウジアラビアが大きく変革する為の戦略だが、ほとんどが親戚筋である直系王族を拘束する狙いは何か?
そこにはIT立国を目指すサウジアラビアの大いなる野望が潜在している。
これまでの王族が拘束され財産が没収されるという過去の歴史上の中でも異例な状況がサウジアラビアで起きている。イスラム、スンナ派のサウジアラビアで、ムハンマド皇太子による改革の大ナタが振るわれている。
1,000億ドルファンド、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」を支援するムハンマド皇太子
去る2017年11月に、「汚職容疑」で現職閣僚や王族ら200人以上(王子6人)が拘束されている。その中には、Twitter社の大株主であるアルワリード王子なども含まれる。アルワリード王子は、米国のIT事業の投資でも著名であり、かつてはAppleのボードメンバーにも名を連ねていた。また、王子の管理するキングダムホールディングカンパニーは、世界で最も高い「ジッダタワー」を建設中であった。
そして、この拘束を指示したのは、サルマン国王の勅命で「反汚職委員会」を設立したムハンマド皇太子だ。ムハンマド皇太子は、サルマン国王の嫡男。そして、ムハンマド皇太子は、ソフトバンクの孫社長のプレゼン45分間で450億ドルのソフトバンクビジョンファンドへの投資を決めた皇太子だ。
拘束されている王族関係者の資産は最大8,000億ドル
一方、ムハンマド皇太子による王族の拘束や差し押さえの金額も莫大な規模となった。
{{{サウジでは高齢のサルマン国王(81)から実子のムハンマド皇太子への権力委譲が進み、皇太子は国防相、経済開発評議会議長も兼任する。国家警備相だったムトイブ王子の拘束・解任により、国軍と並ぶ軍事組織の国家警備隊を長年率いてきたアブドラ家の「利権」も崩れ、サルマン家への権力集中が進んでいる。
:https://mainichi.jp/articles/20171120/k00/00e/030/156000c|拘束中の王子らを虐待か 拷問や自殺未遂情報も}}}
絶対君主制度のサウジアラビア国家のIT革命
登場人物が多いサウジアラビアの王族を理解するのは、実はとてもシンプルだ。
サウード家のイブン・サウードが、1932年ハーシム家を破り、立国絶対君主制度でサウジアラビアを立国し、王となり、政治と宗教一致とした第三次サウード王国を開始する。
イブン・サウード国王は、41人の妻との間に89人の子供を持ち(イスラム教では、男子は平等で経済的に負担をかけなければ4人までの妻をめとることが可能である)、王位継承権のある直系男子が36人存在した。生存中に継承権の順番で王となる仕組みであった。2015年に第6代のアブドラ国王が亡くなり、異母弟の現・サルマン国王(82才)が第7代国王を継承している。サルマン国王は初代のイブン・サウード王の寵愛を受けたスデイリー家出身の母の直系男子7人の1人で「スデイリーセブン」と呼ばれる。そして、高齢のサルマン国王が、王位継承者の中から自分の息子のムハンマド皇太子に権力が継承されるよう、ムクリン皇太子なども更迭し、独裁体制を強めている。初代イブン・サウード国王から見て第3世代のスデイリー派閥のムハンマド皇太子が、実質の次期サウジアラビア国王とみられている。そして、今回の王族らの拘束の首謀者でありながらも、オイルマネーで潤う3000万人の国サウジアラビアのオイルが枯渇した後の世界を考え、サルマン国王の元で『ビジョン2030』を提言した。『ビジョン2030』は脱オイル国家のサウジアラビアの次世代ビジョンである。
ビジョン2030
http://vision2030.gov.sa/SVpdf_jp.pdf
レンティア国家であるサウジアラビアが、石油から自立する国家を目指すための挑戦でもあるのだ。
次世代未来都市の「NEOM」には5,000億ドル サウジアラビアGDPの8割
「ビジョン2030」の具体的なプロジェクトとして、5,000億ドルプロジェクトのNEOMが2017年10月に発表された。なんとサウジアラビアのGDP6,500億ドルの77%に値する巨大プロジェクトである。
NEOM Project (English)
自然エネルギーで作る次世代未来都市である。
2万5900平方キロの広さで、サウジアラビアの紅海で開発される。日本の四国全体(1万8800平方キロ)の1.4倍の規模となる(九州の3万6753平方キロの7割)。スエズ運河を経由してヨーロッパとアフリカとアジアが交差する場所となる。太陽光による自然エネルギーとエンターテインメント、さらにロボット技術にITを集積した場所を目指し、初期フェーズは2025年の完成を目指す。ドバイの成功モデルに最先端の技術を織り込むもくろみといえよう。
日本のソフトバンクもすでにMOUを締結し、NEOMに150億ドル、サウジアラビア電力公社に100億ドル投資を計画。
サウジアラビア王国の政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」。
サウジアラビアの投資リスク
すでにSVFは、nVIDIA等の出資成果で、ムハンマド皇太子からの投資額の22%を5ヶ月で回収している。さらにNEOMの会議で、これからのNEOMでの出資に対しても孫正義氏は、非常にポジティブに語った。
NEOMの会議で、ソフトバンクの孫正義氏は、誰よりも雄弁に投資の意義を、独自の英語コミュニケーションで語る。10:40 までは見事なmasason節が展開するが、「私たちは、2つの新しいメッカを創ることだろう…」と語った瞬間、会場が凍る。…ムハンマド皇太子が、「メッカはひとつの例えだ」と救いの声を出し、会場は苦笑いに包まれたが…。その場の雰囲気を即座に感じ取り、孫正義氏は、「one more thing として次世代ロボットの都市としてのNEOM」を紹介した。
そう、イスラム社会において、「アッラー」や「メッカ」は唯一無二の存在なのだ…。
欧米や日本においては、ビジネスで、政治リスクや金融リスクはあれど、宗教問題のリスクは皆無に等しい。しかし、イスラムスンニ派で構成されるサウジアラビア、シーア派で構成されるイラン等、中東の宗教問題は何千年にも渡り続く。ビジネスよりもそれらの宗教は優先される。人命よりもだ。また、ムハンマド皇太子の王族の拘束なども庶民の支持は得られるものの、王族らの反発は異母兄弟の親戚であればあるほど根が深い。孫正義氏は、汚職摘発について「ファンドはサウジ中枢との提携のため、全く影響ない」と語るが、サウジアラビアの3200万人の民は、サルマン国王とムハンマド皇太子の2人にすべてが、かかっているといっても過言ではない。それが絶対君主制度の国家だ。そして、そこに石油がからむと、結果は全世界に影響を及ぼす。
アブラハムがきっかけで生まれた3つの宗教問題で、人類は今日もまだ、争い続けている。
万一、ムハンマド皇太子に何かがあれば…第3世代となる初代国王の孫のサウド家は、男性だけでも254人いる。すでに第6世代まで誕生している。一夫多妻で王族が増え、サウード家の総数は1万人。親族の王族を拘束したムハンマド皇太子の采配やリーダーシップにすべてがかかっているというのが、最大のサウジアラビアのリスクかもしれない。アッラーやメッカと同様に、ムハンマド皇太子の代わりは存在しないというリスクなのだ。
1日5回の、「クルアーン」の響きをクアラルンプールで聞きながら執筆。