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スイスに2-0で完勝! チーム発足から1年半、MF中島依美のゴールに見えた高倉ジャパンの進化

松原渓スポーツジャーナリスト
先制ゴールを決めて勝利を引き寄せた中島(リオ五輪アジア最終予選)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【途中出場で流れを変えた中島】

 待望のゴールは、69分に生まれた。

 右サイドのタッチライン際をトップスピードで走り出したMF中島依美の足下に、MF櫨(はじ)まどかからのスルーパスがピタリと合う。相手GKと1対1になった中島は、左足インステップでグラウンダーのシュートを放った。スイスのGKが倒れこみながら一度は弾いたが、中島はそのこぼれ球をもう一度、左足で押し込んだ。

「それまでは、シュートチャンスがあってもパスを選択していたので、あの場面は自分で打ちました。本当は、一発で決められたら良かったんですけど」(中島)

 中島は試合後の取材エリアでゴールシーンを振り返りながら、控えめに笑った。

 10月22日(日)に長野Uスタジアムで行われた「MS&ADカップ2017」で、なでしこジャパンはスイス代表と対戦。超大型の台風21号が上陸し、試合は大雨の中で行われたが、長野Uスタジアムには水たまりもなく、また強風も吹かなかったため、選手たちにとっては台風の影響が最小限に抑えられていたのが幸いだった。そんな中、日本は中島とFW田中美南がゴールを決めて2-0の勝利を飾った。

 スイスは、堅守速攻のスタイルを武器に、2019年フランスワールドカップの欧州予選で現在、2連勝中(2勝0敗)と勢いに乗っている。今回はMFララ・ディッケンマンとFWラモナ・バッハマンという、2015年のカナダワールドカップの日本戦にも出場していた主力選手2人が来日せず、平均年齢23歳の若いチームだ。

「日本の選手たちが全力でかかってくるような試合がしたいですし、攻撃的に、クリエイティブに試合を進めたい」と、前日会見でマルティナ・フォッステックレンブルク監督が話していたように、日本に勝利することで、ワールドカップ予選を戦うチームをさらに成長させたいという高いモチベーションが感じられた。

 

 実際、日本は立ち上がりの10分間、スイスに対して球際で寄せきれず、ペースを握られた。高倉麻子監督も、「相手の体の大きさとか寄せのスピードに慣れないうちはテンポが上がらず、日本らしい連動やアグレッシブさが出せなかった」と、試合後に振り返っている。

 その後、相手選手との間合いを掴んでからは、人数をかけて高い位置でボールを奪えるようになり、日本のペースになった。しかし、攻撃ではスイスの最終ラインを崩しきれず、試合は拮抗した。

 そんな中、流れを変えたのが、後半開始から投入された中島だ。

 中島は右サイドハーフに入り、早々の47分に魅せた。スイス陣内の右サイドでボールを持つと、パスを匂わせながら緩急をつけたドリブルで中央に切り込み、スイスの守備陣を慌てさせた。

 さらに、その後も櫨やMF中里優、DF鮫島彩との良いコンビネーションからチャンスを作り、その流れを69分の先制ゴールにつなげた。

 1点をリードした日本は、後半アディショナルタイムに田中が相手ディフェンダーのクリアミスを見逃さず、自らドリブルで持ち込んで強烈なグラウンダーのシュートを放ち、勝利を決定づけた。

【課題は攻撃のコンビネーションからのゴール】

 2017年4月、高倉監督の就任とともに新チームがスタートして以来、なでしこジャパンは国内外で親善試合13試合を行い、40人近くの選手を招集してきた。

 2019年のフランスワールドカップ、2020年の東京オリンピックまでにどのようなチームを作りたいか、という質問に対して高倉監督は次のように答えている。

「ワールドカップやオリンピックは短期間で何試合ものゲームを戦っていく中で、特定の選手が抜けたからチーム力が落ちる、というチーム作りはしたくありません。強気なことを言えば、力が変わらない2チームを作りたいと考えています」(高倉監督/2017年7月アメリカ遠征メンバー発表会見)

 そして、トレーニングの中ではスターティングメンバーとサブメンバーを分けることなく、特に攻撃面では誰が誰と組んでも良いコンビネーションを発揮できるようにチームコンセプトを共有し、同時に競争を促してきた。

来年4月のワールドカップ予選に向けて、チーム内の競争も激化しつつある(C)Kei Matsubara
来年4月のワールドカップ予選に向けて、チーム内の競争も激化しつつある(C)Kei Matsubara

 チームが発足して1年半が経ったが、これまで継続的に招集されてきたDF熊谷紗希、DF宇津木瑠美、MF阪口夢穂、MF中島依美、FW横山久美の5人を中心に、誰が出ても大崩れしない試合運びが出来るようになったことは、このチームが積み上げてきた成果である。

 しかし、メンバーを固定せず、ポジションや組み合わせも試合ごとに変わる中で、攻撃をフィニッシュまで持っていく崩しの形は未だに少ない。

 高倉ジャパンの攻撃には、状況に応じた臨機応変さの中で、選手が個性を活かし合うことが求められる。だが、そのベースとなる、各選手のポジショニングやボールの置きどころ、パススピードなどのチームコンセプトの浸透に時間がかかっている。

 

 また、お互いを活かし合うために選手同士が忌憚(きたん)のない意見をぶつけ合うことも欠かせない。

「コンビネーション(を発揮するために)はお互いの考えを分かり合うことが大切なので、練習から要求し合わなければいけないと思うのですが、まだまだ足りていないと思います。(私自身が)もっと自分を出すことも大事ですが、周りを見て、言い方も考えなければいけないですし。ただ、どれだけ言っても最終的にやるかどうか、判断するのはその選手次第ですから……すごく難しいですね」(中島)

 

 スイス戦に向けて長野で行われた合宿中、中島は、自分なりに「伝え方」を模索し続けているようだった。

【決めきる力】

 中島は今シーズン、所属先のINAC神戸レオネッサでリーグ戦18試合にフル出場。8得点を挙げ、リーグ戦2位の原動力となった。ポジションはボランチだが、INACにおける中島のプレーする領域を定義するのは難しい。豊富な運動量でグラウンドを所狭しと走り、ピッチ全体を広くカバーする。またセットプレーのキッカーとしても、多彩なキックで数多くのゴールを演出してきた。

 

 一人何役もこなす中島のユーティリティー性や、パスの強弱、ポジショニングなどに見られる細やかさは、高倉ジャパンにおいても重要な要素である。

代表合宿で、高倉監督とランニングする阪口と中島(日本女子代表候補合宿 (C)YUTAKA/アフロスポーツ)
代表合宿で、高倉監督とランニングする阪口と中島(日本女子代表候補合宿 (C)YUTAKA/アフロスポーツ)

 中島の国際Aマッチ出場数は、2011年ドイツワールドカップ優勝メンバーの阪口、宇津木、熊谷、鮫島に次ぐ「42」になった。その経験の厚みに比例するように、中島はこの1年間で、チームの中心選手としての自覚をプレーだけでなく言葉でもはっきりと示すようになった。

 スイス戦の前、中島の言葉には危機感がにじんでいた。

「今回のスイス戦で目指すのは、より多く点を獲ることです。このままでは強豪相手に通用しないと思いますし、年末の東アジア選手権(※1)や来年のワールドカップ予選(※2)に向けて、少しの時間も無駄にはできないので。もっと一人ひとりが意識を高く持たなければいけないと思います」(中島)

(※1)12月に日本(千葉)で行われるEAFF(東アジアサッカー連盟) E-1フットボールチャンピオンシップ2017決勝大会(北朝鮮、中国、韓国と対戦)

(※2)来年4月にヨルダンで開催されるアジアカップ(兼2019フランスワールドカップ・アジア予選)

 そして、中島はスイス戦に向けた目標として、自らのゴールを挙げた。

「相手が強くなるほど、少ないチャンスでどれだけ決められるかが重要ですし、アメリカ遠征では(自分が)チャンスで決めきれなかったので。やっぱり、ゴールを決めたいです」(中島)

 その脳裏に浮かんでいたのは、7月のアメリカ遠征のオーストラリア戦だ。1-3の2点ビハインドで迎えた60分、MF長谷川唯のクロスにフリーで飛び込んだが、ボールをミートさせることができず、試合に敗れた。拮抗した試合で勝敗を分けるポイントを知っているからこそ、悔しさも募った。

 スイス戦は、自身のゴールでチームを勝たせるイメージを描いて、中島は試合に臨んでいた。

【スイス戦の勝利から見えた収穫と課題】

 国際試合で5試合ぶりに勝利したことは、日本にとって何よりの収穫だ。

 そして、スイス戦での先制弾は、高倉ジャパンにおける中島の初ゴールでもあった。また、コンビネーションが生んだゴールという点も日本に光明をもたらした。試合後に高倉監督は、

「選手同士が感じ合って、連動して攻撃までの形を作り上げるという点で、それぞれの個性を見せてくれそうな雰囲気が見えました」(高倉監督)

 と、攻撃面での微かな手応えを口にした。

 

 収穫は、ゴールに至った流れだけではない。

 守備では鮫島、熊谷、宇津木という経験のある選手が中心となり、5試合ぶりに無失点で勝利した。

 攻撃では、中島の先制ゴールをアシストした櫨が、右サイドハーフ、FW、そして左サイドハーフと、試合中に3度ポジションを替えたが、どのポジションでも違和感なくプレーし、攻撃の起点になった。また、トップ下と左サイドでプレーした長谷川も、持ち前のテクニックとタイミングの良さを発揮し、スタジアムを沸かせた。櫨や長谷川のように、ポジションを替えても周囲との良いコンビネーションを発揮できる選手が出てきたことは、チームとしての収穫である。

 一方、この試合では、ゴール前で味方同士の動きが重なってしまうシーンが何度か見られた。

 例えば、59分。右サイドで中島がボールを持った瞬間、日本は3人がサポートに入っていたが、コンパクトに守るスイスの背後のスペースに飛び出す選手がいなかったため、中島はパスを出すことができず、攻撃の流れが止まった。

 ワンテンポ遅れて、中里がゴール前に飛び出してチャンスになったが、さらにレベルが上の相手であれば、中島がワンタッチでパスを出せなかった時点でボールを奪われてカウンターを受けている可能性が高い。

 高倉監督は試合後、

「よりテンポよくボールを動かすという意味では、オフ(・ザ・ボール)の立ち位置や動き出しをもっと突き詰めていかなければいけない」と、全体的な動きの質をさらに上げていく必要性を強調した。

 12月に日本で開催されるEAFF(東アジアサッカー連盟)E-1フットボールチャンピオンシップ2017決勝大会で、日本は北朝鮮、中国、韓国相手に多彩なコンビネーションを見せることができるか。

 高倉ジャパン発足後、1年半の成果が問われることになる。

「雨の中でも、たくさんのサポーターの方々の応援が聞こえました。ワールドカップなどでは自分たちの声が通りにくい環境だと思うので、選手個人個人がさらに、状況判断を良くしていきたいです」(中島)

 スイス戦勝利の立役者の一人になった中島は、最後に、大雨に負けじと声をからして応援してくれた大勢のサポーターに感謝を込めた。そして、2年後のワールドカップの舞台をイメージしながら、表情を引き締めた。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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