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オランダ代表に大敗したなでしこジャパン。アイスランド戦で試される「全員ミーティング」の成果

松原渓スポーツジャーナリスト
オランダ女子代表との試合前の国歌斉唱(C)Kei Matsubara

【8分間で2失点】

 アルガルベカップの初戦で、なでしこジャパンはオランダ女子代表と対戦し、2-6の大敗を喫した。

 1試合で6失点は、高倉麻子監督就任以来、最多だ。

 オランダは昨年の女子ユーロで欧州チャンピオンになり、目に見えて自信をつけていた。抜け目なく相手のウィークポイントをつき、自分たちの戦い方に持ち込む試合運びの巧さは、この1年間、強豪国と積極的に親善試合を行い、女子ユーロの厳しい戦いを勝ち抜いた賜物だろう。

 

 日本のスターティングメンバーは、GK池田咲紀子、ディフェンスラインは右からDF有吉佐織、DF三宅史織、DF市瀬菜々、DF鮫島彩。MF阪口夢穂とMF隅田凜がボランチを組み、右サイドにMF中島依美、左サイドにMF長谷川唯。2トップにFW櫨(はじ)まどかとFW田中美南が入る4-4-2のフォーメーション。

 サイド攻撃と中央突破を巧みに使い分け、シンプルに前線の3トップを生かした攻撃を仕掛けてくるオランダに対し、日本はコンパクトな陣形で前線からプレッシャーをかけたが、球際のアプローチをことごとくかわされて3トップの猛攻に晒され、失点を重ねた。

 日本の失点の仕方はあまりにも、あっさりしていた。

 90分間を通して、日本とオランダのチャンスの数にそこまで大きな差があったわけではない。だが、オランダは日本陣内に攻め入れば確実にフィニッシュまで持ち込み、そのほとんどが枠をとらえていた。

 日本にとって痛恨だったのは、前半4分、8分と、早い時間帯に喫した2失点だ。

 これまでも、海外勢との試合で立ち上がりに決定的なピンチを招くことが多かった高倉ジャパンにとって、「立ち上がりの15分間」は一つのキーワードだった。オランダの選手は、伸びてくる脚の長さやボールキープの懐の深さを用いた日本選手との間合いが、国内のそれとは明らかに違う。開始15分で相手の間合いに慣れて、試合のペースを握るーーその狙いは、この試合も同様だった。しかし、日本は開始8分間でオランダに2点をリードされてしまった。

 4分に、日本の左サイド、自陣ゴールライン際で市瀬がボールを奪われ、折り返しをFWリーケ・マルテンスに決められて0-1。8分には、右サイドの背後にスルーパスを通され、市瀬がFWリネス・ベーレンスタインにスピードでかわされて0-2。

 高さとスピードのあるオランダに1対1の局面を作られたらどうなるかは、ある程度予測できたこと。問題は、そこに持ち込まれるまでの過程だ。

 

 試合後の鮫島の言葉からは、試行錯誤の跡がうかがえた。

「一人が抜かれたらカバーがいなくて、簡単にゴールを決められてしまう。守備が個々の対応になってしまっていました。試合の入り方が中途半端だったので、ある程度(自陣に)引いて、守って入る方がリズムは作りやすいのかな、とも思いました。時間が経てば相手の勢いが落ち着く時間帯があるんですが、今はまだ、そこまで耐えきれなくて失点してしまう。早いうちに失点を重ねてから、ひっくり返すのはきついですね」(鮫島)

 組織的なプレーを持ち味とするはずの日本が、その強みを活かしきれず、立ち上がりの8分間で2点を失った時点で、試合の流れは完全にオランダに渡ってしまった。

【中1日で迎えるアイスランド戦】

 中1日でアイスランド戦を迎える日本に、じっくり立て直す時間はない。その中で、立ち上がりの失点をなくすためには、2つの守備の方法がある。

 一つは、オランダ戦と同じように「高い位置からボールを奪いに行く」ことだ。

 相手の最終ラインからプレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪えれば、ショートカウンターに持ち込める。オランダ戦を含め、日本はこれまで、基本的にこの守備を一貫してきた。

 この場合の一番のリスクは、日本の最終ラインの裏に広大なスペースが生まれることで、相手のカウンター攻撃の餌食になる可能性が高いことだ。相手のキックの精度が高くなければ、あえてロングボールを「蹴らせて取る」考え方もあるが、前線に強力なアタッカーがいる場合は、特にリスクが高い。

 だからこそ、オランダ戦でこの守備をする上では、前線で確実にボールを「奪い切る」ことが必要だった。

 体調不良のためオランダ戦をベンチから見守ったDF熊谷紗希が、最も「足りない」と感じていたのは、この部分だという。

「一番できていないと感じたのは、ボール保持者にプレッシャーをかけることです。ボールに行けなかったら、ラインを上げても、コンパクトにしても、意味がなくなってしまいますから」(熊谷)

 相手へのアプローチの間合いには個人差があるが、特に、国内組と海外組では違う。国内リーグの感覚で「球際に強くいっている」と思っても、リーチがある欧州の選手たちにとってはプレッシャーになっていないケースもある。フランスのリヨンでレギュラーとして試合に出続けている熊谷が指摘したのは、そのギャップだろう。

 2つ目は、鮫島が選択肢の一つとして挙げた「自陣に引いてブロックを作り、スペースを消す」守備だ。

 この戦い方は、序盤の相手の勢いを凌ぐには効果的だが、必ずしもハマるとは限らない。日本はオランダ戦の序盤で2失点した後、高倉監督の指示で守備のラインを一度は下げたが、結局、オランダの度重なるサイドチェンジに対応する守備によってスタミナを消耗。ボールを奪う位置も低くなり、攻撃に転じた際の勢いを失った。

 第2戦のアイスランドがどのような戦い方をしてくるかにもよるが、オランダ戦のように序盤に失点しないためには、ある程度、低い位置から守備をスタートさせて様子を見るのもアリだろう。

 だが、そもそも「6」という失点数の多さは、守備のやり方だけを変えれば解決する数字ではない。そのことを一番感じていたのは、ピッチに立っていた選手たちだった。右サイドバックで先発した有吉は、こう振り返る。

「試合中は、(選手同士の)声掛けが少ないと感じました。それに、『この時は右に立ってほしい』とか『左に立ってほしい』とか、そういうちょっとしたことでも、そのプレーが終わってから『こうして欲しかった』と言っている。練習で声が出なければ試合でも出ないし、大きな大会では味方同士の声も聞こえなくなります。久々に代表に戻ってきて、『練習中の声が少ないな』とか『おとなしいな』と感じていた部分を、やっぱり変えていかなければいけないな、と思いました。その声を一人ひとりが出せるようになったら、チームのベースがぐっと上がると思うんです」(有吉)

 日本は、オランダ戦に大敗した28日(現地時間)の夜、キャプテンの熊谷を中心に、選手全員で映像を見ながら状況ごとの対応について細かく話し合ったという。

「言われていたことだけやって、指示されることだけを元にして自分たちが判断しているようだと(オランダ戦と)同じことになるので、映像を見ながら『この時はどんな感じだった?』と聞いてみたり、『ここはこうしたほうがいいよね』と意見を出し合って、そういうことは自分たちで決めていこうと話しました。試合をやるのは自分たちですから」(熊谷)

 高倉監督は、「どんな状況でも、正しく状況判断ができること」を選手全員に求め、そのために、これまでポジションや組み合わせを固定せずにチームを作ってきた。そうすることによって、植え付けられた共通意識は確かにある。一方で、チーム全体として守備の決まりごとはあっても、人やポジションが変わるたびに、選手同士がお互いの感覚を一からすり合わせていかなければならない難しさもあった。

 オランダ戦の4バックは初めての組み合わせで、そのマイナス面も表面化した。その状況を根本的に変えるためには、有吉や熊谷が言うように、選手同士が今まで以上に密に示し合って、何が「正しい」状況判断なのかというベースを一致させていくことが重要だ。

 

 結果は大敗だったが、光明と言えるものも確かにあった。

 長谷川は、いつものようにピッチを縦横無尽に走り、オランダのプレッシャーをひらりとかわして中盤でピンチをチャンスに変えるプレーを何度も見せた。

 また、後半からピッチに立ったFW横山久美は、ドリブルとボールキープで決定機を演出。同じく後半から出場し、A代表デビューを飾ったDF清水梨紗は、体格差のあるオランダのFWに粘り強く食らいつき、積極的なオーバーラップでチャンスに絡むなど、持ち味のスピードとスタミナを発揮した。

 そして、ラスト20分間の出場だったFW岩渕真奈は、得意のドリブルで、2人抜きから素晴らしいゴールを決めてみせた。

「言われたことをやる」のではなく、「自分たちで考え、決めていく」ーー。その意識を全員が共有できたことが最大の「収穫」だ。

 グループCに所属する日本は現在、勝ち点0だが、中1日で臨むアイスランド戦では、このオランダ戦で得た経験を生かし、教訓を活用して、良い内容になることを期待したい。

 なでしこジャパンとアイスランド女子代表との一戦は、日本時間3月2日(金)24時25分(現地時間2日15時25分)にキックオフ。フジテレビ系列で、24時10分より生中継される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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