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なぜ若い女性で「加熱式タバコ」喫煙者が急増しているのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
写真撮影筆者

 2019(平成31・令和元)年の国民健康・栄養調査の結果が出た。その中で男性の喫煙率は減少しつつあるが、女性の喫煙率にあまり大きな変化はない。気になるのは若い女性で加熱式タバコの喫煙者が急増している点だ。

依然として高い男性30代から60代の喫煙率

 2019年の国民健康・栄養調査によれば、現在習慣的に喫煙している者の割合は16.7%で、前回2018(平成30)年の調査の17.8%から1.1ポイント減少している。男女別にみると、男性29.0%から27.1%へ、女性8.1%から7.6%へそれぞれ1.9ポイント、0.5ポイントずつ減った。

 ただ、男性の30代から60代までは各年代で30%以上の喫煙率であるし、女性の喫煙率もここ数年は7%台から8%前半を往き来している。男性の高い喫煙率を女性の低い喫煙率がおおい隠しているという日本の喫煙率の実態は相変わらずだ。

 そして気になるのは、2018年から調査された喫煙しているタバコの種類に関する結果だ。

「現在習慣的に喫煙している者」の性別・年代別の喫煙率。令和元年、国民健康・栄養調査の資料に筆者が加工
「現在習慣的に喫煙している者」の性別・年代別の喫煙率。令和元年、国民健康・栄養調査の資料に筆者が加工

 この調査では「紙巻きタバコ」「加熱式タバコ」「その他」の中から複数回答としているが、この1年で紙巻きタバコとの併用を含めて加熱式タバコを吸っている割合は、28.9%から38.4%へ10ポイント近く増えている。だが、男女別にみてみると、男性の割合は減り、女性で増えたことがわかる。

加熱式タバコを吸っている喫煙者は全体では増えたが、男性と女性で結果が分かれた。国民健康・栄養調査よりグラフ筆者作成
加熱式タバコを吸っている喫煙者は全体では増えたが、男性と女性で結果が分かれた。国民健康・栄養調査よりグラフ筆者作成

 加熱式タバコの喫煙者を年代別にみると、20代から40代で減っているが、50代以上で増えたようだ。加熱式タバコを製造販売しているタバコ会社は、若年層へアプローチしてきたが、中高年へテコ入れした結果、逆に若い世代で加熱式タバコ離れを引き起こしたのかもしれない。

加熱式タバコの喫煙者の割合を年代別で2018年と2019年で比較した。50代で増え、母数が少ないが70代以上で大きく増えている。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者
加熱式タバコの喫煙者の割合を年代別で2018年と2019年で比較した。50代で増え、母数が少ないが70代以上で大きく増えている。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者

女性で加熱式タバコ喫煙者が急増

 この推移の比較を続けていくと、興味深いことがわかってくる。加熱式タバコの喫煙者は男性の20代で大きくその割合を減らしていたのだ。男性の20代の喫煙率自体は、2018年が25.7%、2019年が25.5%で微減しているだけだから、おそらくこの男性の若い世代で加熱式タバコ離れが起きているのだろう。

男性の年代別の加熱式タバコの割合をみると、特に20代で大きく減っていることがわかる。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者
男性の年代別の加熱式タバコの割合をみると、特に20代で大きく減っていることがわかる。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者

 これを女性でみると、さらに興味深い傾向がうかがえる。男性20代で大きく割合を減らしていた加熱式タバコが、女性20代では真逆の結果になっているのだ。20代、30代、そして50代の女性で加熱式タバコの喫煙者が増えているのだろうか。

女性の年代別の加熱式タバコの割合をみると、特に20代で大きく増えていることがわかる。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者
女性の年代別の加熱式タバコの割合をみると、特に20代で大きく増えていることがわかる。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者

 以上の結果は、加熱式タバコ「も」吸う喫煙者についてだが、紙巻きタバコと加熱式タバコの併用、そして紙巻きタバコ「のみ」吸う喫煙者についてみてみると、女性で加熱式タバコのみの喫煙者が増えていることがわかる。

紙巻きタバコと加熱式タバコを併用して吸う喫煙者の割合は男女ともに減っており、加熱式タバコのみを吸う喫煙者は男性で減っているが、女性では大きく増えている。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者
紙巻きタバコと加熱式タバコを併用して吸う喫煙者の割合は男女ともに減っており、加熱式タバコのみを吸う喫煙者は男性で減っているが、女性では大きく増えている。国民健康・栄養調査よりグラフ作成筆者

 喫煙率を下げることは国の大きな目標だ(喫煙率12%:第二次の健康日本21)。しかし、受動喫煙防止を目的にした改正健康増進法も喫煙者が減らなければ、その効果を十二分には期待できない。

 この調査からは、紙巻きタバコから加熱式タバコへ切り替える女性の喫煙者が急増していることがわかった。女性の喫煙者は、健康への悪影響を考え、タバコ会社が害の低減をうたっている加熱式タバコに切り替えているのかもしれない。

 最近の研究では、未成年者や喫煙者に対するコンビニなどの店頭におけるタバコ会社のPOP(Point Of Purchase)広告展開の影響が指摘されている(※1)。

コンビニのレジ横などにタバコ会社のPOP広告が野放し状態だ。レジの背後にはタバコがズラッと陳列され、未成年も目にする場所に加熱式タバコを含むタバコ製品が堂々と置かれる異常な状態になっている。写真撮影筆者
コンビニのレジ横などにタバコ会社のPOP広告が野放し状態だ。レジの背後にはタバコがズラッと陳列され、未成年も目にする場所に加熱式タバコを含むタバコ製品が堂々と置かれる異常な状態になっている。写真撮影筆者

 おそらくLINEなどのSNSによる広告展開も含めた広告効果から、若い女性を中心に紙巻きタバコと加熱式タバコの併用から加熱式タバコ単体喫煙へ移行していると思われる。また、女性には喫煙者が少ないため、タバコ煙による他者への害をおもんぱかるという配慮から、加熱式タバコへ移行しているのかもしれない。

 だが、加熱式タバコは明らかに喫煙者に健康被害をもたらすし(※2)、受動喫煙の害もあることがわかっている。受動喫煙では特に化学物質過敏症の人たちへ被害を与えていて、タバコ煙が見えにくいため、ステルス化してむしろ厄介という意見も多い。

 若い頃にニコチン依存になると、なかなか禁煙できない。紙巻きタバコとの併用から単独での加熱式タバコへ、なかなかタバコをやめられない状態が続く(※3)。

 百歩譲って、もし仮に有害物質が低減されているとしてもゼロではない。長い期間、毎日、加熱式タバコに含まれる有害物質を吸い続ければ、何らかの病気にかかるリスクは確実に上がるだろう。

 このように、タバコ会社による加熱式タバコの害の低減PRには大きな欺瞞性がある。

 2020年の調査結果は新型コロナの影響でまた大きく変わるかもしれない。今後、喫煙率を減らすためには、30代から60代の男性に対する禁煙サポート、そして加熱式タバコへ切り替える女性に対してのアプローチが重要だ。

 そして、日本も加盟する国際的なタバコ規制枠組み条約(FCTC)の遵守、より厳しい店頭広告規制、店頭でのタバコ陳列規制が必要となるだろう。

※1-1:Michal Stoklosa, et al., "Effect of IQOS introduction on cigarette sales: evidence of decline and replacement" Tobacco Control, Vol.29, 381-387, 2020

※1-2:Lorraine V. Craig, et al., "Awareness of Marketing of Heated Tobacco Products and Cigarettes and Support for Tobacco Marketing Restrictions in Japan: Findings from the 2018 International Tobacco Control (ITC) Japan Survey" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.17, 8418, doi:10.3390/ijerph17228418, 2020

※2-1:Tariq A. Bhat, et al., "Acute effects of heated tobacco products (IQOS) aerosol -inhalation on lung tissue damage and inflammatory changes in the lungs" doi.org/10.1093/ntr/ntaa267, 2020

※2-2:Nicholas D. Fried, Jason D. Gardner, "Heat-Not-Burn Tobacco Products: an Emerging Threat to Cardiovascular Health" American Journal of Physiology Heart and Circulatory Physiology, Vol.319(6), H1234-H1239, 2020

※3:Cheol Min Lee, et al., "Are Heated Tobacco Product Users Less Likely to Quit than Cigarette Smokers? Findings from THINK (Tobacco and Health in Korea) Study" International Journal of Environmental Research and Public Health, doi:10.3390/ijerph17228622, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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