金正恩総書記にとっての軍事偵察衛星3度失敗の衝撃
北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げが失敗に終わった。昨年の5月31日と8月24日に続いて3度目の失敗である。
北朝鮮は昨年は3か月スパンで偵察衛星「万里鏡―1号」を載せたキャリア・ロケット「千里馬―1型」を発射していたが、今回は発射まで6か月間も準備期間を要していた。
北朝鮮は今年3基の打ち上げを計画しているので順当ならば、1基目は4月15日の金日成(キム・イルソン)主席の生誕日に合わせて発射されてもおかしくなかった。それを5月まで引き延ばしたのは何よりも「成功」が絶対条件だったはずだ。
念には念を入れ、エンジン噴射実験を数回行うなど、慎重に慎重を重ねた上での打ち上げだったのに結果は「ロケットは1段の飛行中、空中爆発して」(国家航空宇宙技術総局副総局長)失敗してしまった。
北朝鮮は1回目の失敗(5月31日午前6時27分に発射)については約2時間半後の9時5分に「朝鮮中央通信」を通じて「1段目分離後、2段目エンジンの始動不正常で推進力喪失し、落下してしまった」と伝え、2度目の失敗(8月24日午前3時50分に発射)も同様に発射から2時間25分後の6時15分に「3段目の飛行中、非常爆発システムに誤りが発生し、落下してしまった」と原因を明らかにしていた。
今回(5月27日午後10時44分に発射)も1時間30分後の28日午前0時22分に国家航空宇宙技術総局副総局長が「ロケットは1段の飛行中、空中爆発した」と指摘し、原因については初歩的な結論として「新しく開発した液体酸素+石油エンジンの作動の信頼性に事故の原因がある」と結論付けていた。
軍事偵察衛星は北朝鮮が2021年1月の第8回党大会で打ち出した「国防発展5か年計画」の最重要課題、目玉である。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は昨年5月16日に偵察衛星発射準備委員会を訪れた際「軍事偵察衛星を成功裏に打ち上げるのは現在の国家の安全環境から出発した差し迫った要求である」と、大いなる期待を寄せていた。それだけに何度も失敗するとは、それも昨年11月に一旦は成功し「我が国家が自らの力と技術力で航空宇宙偵察能力を培ってついに保有したのは共和国武力の発展において、新しい地域軍事情勢の局面に備えるのにおいても大きな出来事である」と大喜びしていただけに今回の失敗は金総書記にとってはショックであろう。
昨年最初の打ち上げに失敗した時は労働新聞も朝鮮中央テレビも一切触れず、国民には伝えなかった。
衛星の打ち上げの失敗を国民が初めて知ったのは6月18日である。この日、金総書記が党中央委員会総会の党活動報告で「最も重大な欠点は宇宙開発部門で重大な戦略的事業である軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したことである」と発言してからである。
この日の総会で金総書記は「衛星打ち上げを推進した活動家らの無責任にある」と国家宇宙開発局幹部らを叱責し、「失敗の原因と教訓を徹底的に分析し、早期に軍事偵察衛星を成功裏に打ち上げることで人民軍の偵察情報能力を向上させ、宇宙開発分野でさらなる飛躍的発展を遂げるための近道をもたらせ」と命じていた。
所管の国家宇宙開発局は「可及的に早い時期に発射する」(発射の時期を具体的に定めてない)と誓い、金総書記の妹の金与正(キム・ヨジョン)副部長は「確言するが、我々は遠からず、宇宙軌道に正確に進入させる」と世界に向かって公言していた。
ところが、金総書記がハッパをかけ、与正副部長が大見えを切ったのに3か月後の2度目の発射も失敗してしまった。
連続の失敗に国家宇宙開発局は「事故の原因は段階別エンジンの信頼性とシステム上の大きな問題ではない。原因を徹底的に究明して対策を立てた後、来る10月に第3次偵察衛星の打ち上げを断行する」と「10月発射」を公言したが、実際に発射されたのはそれよりも1か月以上も遅れた11月21日であった。
今回は国家航空宇宙技術総局から次の発射の時期についての言及はなかった。相当時間がかかるだろう。仮に予備にもう1基用意していたとしても技術的な問題がクリアされなければまた同じミスを犯すので短期間での発射は困難である。このままでは目標の年内3基の発射は不可能と言える。
ロケット部品だけでも1万個が必要とされ、また1基にかかる費用も6億~8億ドル相当と言われており、北朝鮮には相当な財政損失である。食糧の調達や経済に回すべき資金を投じていただけに相当堪えているはずだ。
仮に今回成功していれば、急遽6月下旬に開催を決めた党中央委員会総会(第8期第10回会議)に花を添えることになったはずだ。金総書記は昨晩はおそらく眠れなかったのではないだろうか。
昨年11月の成功で「共和国武力が今や万里を見下ろす『目』と万里を叩く強力な『拳』を全て、共に手中に掌握した」と豪語していた金総書記は今回の打ち上げ失敗で軍事面では「より大きな目」と「より強力な拳」を手に入れることに失敗し、数回成功させている韓国に偵察衛星分野で後れを取ってしまった。
この失敗を何でカバーしようとするのか、金総書記の今後の言動が注目される。