コロナで変わる福祉現場 オンライン診療に柔軟に移行するノルウェー
ノルウェー公衆保健研究所によると、3月6~27日の3週間の間だけでも、新型コロナの感染が疑われる患者の診療は、オンラインや電話での診察も含めて、3万件を超えている(人口530万人)。
感染リスクを恐れ、病院に行くことをためらう人が増えている。だが、北欧ノルウェーの医師たちは、この緊急の事態に柔軟に対応しているようだ。
カウンセラーとビデオ通話
この日、私は自宅でスマホの画面を見ながら、カウンセラーと話をしていた。聴覚過敏で音に反応しやすい私は、月に1度、聴覚専門のカウンセリングを受けている。
いつもなら45分間のカウンセリングは診察室で行われるが、この日は初めて、スマホでの会話となった。
「初めてのビデオ診療に驚いて、『これなら家族とも話せそう』と思いつく患者さんもいますよ」とイングリ・マティンセンさんは話した。
「対面診療が再開できるかは、政府次第」だそうだ。
ノルウェー政府は4月中旬までは一部の医療機関での患者との接触を規制している。そのため、一部の診療はオンラインでしなければいけなくなった。
オンライン診療が不可能な場合もある。私が予約していた徒手療法(マニュアルセラピー)の診察は、政府の規制がゆるむまで延期となった(筋肉の治療なので、オンラインは不可能)。今日は大学病院に行くが、検査もあるので、そこでも対面診療だ。
とはいえ、可能な場合はオンライン診療のほうが、緊急措置として、医療事業者の負担も患者の不安も減らせることができる。
医療サイトでは、オンライン診療を「福祉テクノロジー」と表現しており、新型コロナによる急速な進歩で、福祉の現場がよりよくなるであろうことにも触れていた。
かかりつけ医と電話診療
ノルウェーには、市民ひとりにつき、総合診療医(かかりつけ医)が割り当てられる。3月中旬、新型コロナ対策で政府が次々と緊急案を発表していた頃のことだ。私もこのかかりつけ医との診療が、当日になって電話でと連絡がきた。
個人的な感想としては、やはり対面のほうがコミュニケーションしやすい。母国語ではない言葉で自分の不調を伝える時には、ボディジェスチャーも大きな役割を果たしていたのだなと、改めて気が付いた。
どうしてビデオではなく電話での診療だったのか、この記事を書くために聞いたところ、「あの時は自分も自宅待機中で、専用のビデオ診療サイトを使用すると、ネット回線が遅くて、ログインに時間がかかるから」だったそうだ。ビデオ診療も可能だそうだ。
私がよくお世話になっている大家のダグ・ハンメルさんも、総合診療医の仕事をしている(私のかかりつけ医ではない)。新型コロナの拡大後、彼も今は病院には行かずに、家でのオンライン診療に切り替えた。
「今までは家に仕事の持ち込みは、絶対にしたくなかったから、在宅勤務は今回が初めて。担当の患者さん達のことはよく知っているから、オンライン診療は予想以上に問題なく進んでいるよ」
「ビデオではなくて、電話での会話を希望する患者さんもいるね。今はノルウェーの担当医の9割以上が、ビデオ診療を希望するなら可能な環境にいるんだよ」
3人ともビデオ診療には、「Confrere」という医療従事者のための専用サイトを使用していた(英語など6言語対応)。
患者にはメールでリンクが届き、ID確認を終えると、サービスが利用できる。専用アプリはダウンロードする必要はない。使うのはとても簡単だった。
オンライン診療の普及にはこれまで壁があった。しかし、新型コロナがその壁を軽々と壊したようだ。
私は今までは薬の処方箋を頼むほどであれば、かかりつけ医とメールのやり取りで済ませることはあったが、電話やビデオでの診療を受けたのは、今回が初めてだった。
ノルウェー政府は2021年前までに、全てのかかりつけ医がオンライン診療を提供することを目標としているが、これを機に数字は達成されそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi