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格差を減らしたい、温かい社会を目指すフェミニスト政党SV/ノルウェー政治

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの国会では現在8党が議席を占めており、右翼陣営が与党となっている。首相率いる保守党と連立しているのは、右翼ポピュリスト政党である進歩党。ノルウェーは、2013年の国政選挙以降、すでに移民や難民に厳しいポピュリスト政党が与党となっている国だ。

国連が「国際幸福デー」に指定する20日、最も幸せな国はノルウェーとされた。世界で騒がれるポピュリストの波だが、その政党が与党でも、この国は世界で最も幸せと格付けされた。

「ノルウェーは冷たい社会になった」

しかし、現在の右翼政権以降、ノルウェーは「冷たい社会」となったと批判するのが左翼陣営。169議席中、7議席を占める左派社会党SVは、格差、平等、環境、核兵器廃絶問題に熱心で、利益を重視する民間運営よりも、国営のシステムを好む。

今年の国政選挙では、右翼と左翼のどちらが勝利するかまだ予想が難しい。左翼が政権を奪還する場合は、SVが与党、もしくは小政党として与党と合意体制を組む可能性が高い。

17~19日はオスロ郊外で1年に1度の重要な総会が開かれ、選挙に向けて党の方針や政策が話し合われた。

総会の会場 Photo:Asaki Abumi
総会の会場 Photo:Asaki Abumi

フェミニスト政党

SVといえば、ノルウェーの男女平等政策の推進に大きく貢献した党のひとつ。しかし、女性の社会進出が進んできたノルウェーでは、今SVはこの分野のみで勝負することが難しくなってきている。環境や教育政策なども、他党にお株を取られている状態で、今は正念場だ。

今でもフェミニスト政党と自負するSV。総会の初日に、党員同志の話し合いの場を男性と女性で分け、記者やカメラマンの同席を拒むという手段をとったため、大きく報道された。「今どきのノルウェーで、なぜ男女で分けなければ本音で話し合えないのだ」と、報道陣は時代遅れではという目線で伝える。

政党は、男性から女性への抑圧文化はまだ残っており、その対策や党独特の慣習について本音で話し合うためにも、性別で分けたほうがよいと主張した。

総会があった3日間は記者会見が連日開催されたが、男女別の会議について、記者たちから次々と質問がとぶ。「各政党や企業にまだ残っている課題であり、我々は男女平等においてもっと厳しい目線を向けるべきだ」と党首は答えた。

男性ばかりの報道陣。男女平等にはまだ課題があるというSVの主張に首をかしげる
男性ばかりの報道陣。男女平等にはまだ課題があるというSVの主張に首をかしげる

皮肉なことに、記者会見ではノルウェーの報道陣は男性ばかり。男女平等国家とされるノルウェーだが、メディア業界でもまだジェンダー差はあり、政治やスポーツのテーマでは女性の記者やカメラマンの姿は少ない。

週末にパパやママは政治の仕事で忙しい。それなら、子どもも一緒に参加

家族政策が進んでいるノルウェーらしい姿が垣間見えるのも総会だ。各政党の総会は、数日間にかけて週末に開催される。それはつまり、政治家であるパパやママは、家族と週末に過ごせなくなる。では、どうするか?赤ちゃんや子どもを総会に連れてきてしまうのが、ノルウェー人だ。

ソールバルグ首相の所属する保守党の総会でも、子どもの姿が目立った。SVの会場でも、赤ちゃんの鳴き声、女の子の笑い声が響いており、それを誰も気に留めてはいなかった。

総会中に娘の子守りをする、かつての国際開発大臣 Photo:Asaki Abumi
総会中に娘の子守りをする、かつての国際開発大臣 Photo:Asaki Abumi

廊下で娘と遊んでいたのは、ストルテンベルグ内閣時2012~2013年に国際開発大臣を務めていたハイキ・ホルモース氏。かつて、チュニジア国民対話カルテットやコロンビアのサントス大統領をノーベル平和賞にノミネートしたすごい人物でもある。

大臣だった当時は、日本を訪問したことがあり、ノルウェーの平等政策や父親の育児休暇について話したことがあると語るホルモース氏。「私が議員で父親になった時は、2014年に5か月の育児休暇をとり、その間は100%給与が支払われ、同時に6週間の通常の休暇も取りましたよ」と語る。

「世界で最も幸せでお金持ちの国」に、貧困問題?

かつての子ども・平等・統合大臣だったリースバッケン党首 Photo:Abumi
かつての子ども・平等・統合大臣だったリースバッケン党首 Photo:Abumi

男女間の格差のほかに、SVは経済格差問題にも熱心だ。国会では野党だが、首都オスロでは地方選挙で勝利し、他党と連立を組む。オスロの市長はSV所属だ。

世界で最も幸せで、石油マネーで裕福な国とされているノルウェーだが、経済的な格差問題は存在しており、政治家たちはその対策を日々議論している。高校生向けのデジタル教材サイトによると、ノルウェーでは国民の5~12%が貧困。

ノルウェー労働福祉局NAVの[file:///C:/Users/Asaki%20Abumi/Downloads/Fattigdomsrapporten%202016.pdf 「ノルウェーの貧困レポート2016」]、統計局SSB、ユニセフ・ノルウェー、アフテンポステン紙ダーグスアヴィーセン紙の報道などによると、10人に1人の子どもが低収入の家庭で暮らす貧困層とされ、その多くは移民背景をもつ。

オスロでは中心地周辺の東側は特に移民が多いとされている。放課後に通う学童保育所AKSを、金銭的な問題で利用できない小学生がいることをオスロ市議会は問題視。東側の一部のエリアでAKSを週12時間まで無料とする大胆な政策を実行させている。一方、東側に住む富裕層もその制度を利用できてしまうことから、対立派からは批判もうける。

右翼陣営が与党となってから、格差が広がったと主張するSVや左翼政党。「冷たい社会から、温かい社会を取り戻そう」というモットーで、今年の選挙に挑む。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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