ゲーム音楽のオンライン展示、異例の企画なぜ行う? 主催者に聞いた
立命館大学ゲーム研究センターが制作した、ゲーム音楽をテーマにしたオンライン展「Ludo-Musica」が、本日27日から公開となった。
本展のキュレーターで、ゲーム音楽を専門に研究する立命館大学ゲーム研究センターの尾鼻崇研究員によると、本展は同大学が文化庁より採択を受けた「令和2年度 メディア芸術連携基盤整備推進事業」との一環として、ゲームアーカイブ所蔵館の連携推進、およびゲームアーカイブ利活用の調査、および実践的な検証のためのパイロット展示として企画したそうだ。
展示コーナーのページに進むと、ゲーム音楽の研究者やコンポーザーが推薦したゲーム音楽を実際に聴きながら、その作風や歴史的な価値などを学ぶことができる。
(※なお、私事にてたいへん恐縮だが、筆者も本展に寄稿させていただいている。)
「本展はゲーム制作や研究、もしくはアーカイブなど、さまざまな形で活動しておられる有識者の皆様に推薦人となっていただき、それぞれが推薦する作品を1点ずつ展示するという形式をとっています。
一般的な展示の場合は、キュレーターが展示全体の構成バランスをどこかでとるべきなのですが、今回はあえてそれを行っていません。そのため評価軸も統一されていませんし、展示作品に偏りや不足を感じる方も多いのではないかと思います。
しかし本展は、むしろこのアンバランスさが特徴だと思っていますので、様々な切り口からゲーム音楽を楽しんでいただければと思います」(尾鼻氏)
メーカー、コンポーザーは、おおむね好意的 曲の使用許諾は判断がまちまち
本展のサイト内で曲を流すにあたっては、当然ながら作曲したコンポーザーやメーカーなどから許諾が必要となるが、尾鼻氏によると本展に対して多くの人が協力的だったという。
「我々が教育機関に関わる人間であることもあってか、研究・教育活動という観点から総じて好意的な印象でした。今回はコンポーザーの方にも全面的にご協力いただきましたが、お立場があるにもかかわらず非常に協力的でした。業界全体としてゲーム音楽を啓蒙していきたいという意思が感じられました。ゲーム展は企業様の協力なくしては成立しないため、たいへん助かりました」(尾鼻氏)
その一方、曲の使用許諾に関しては、対応がまちまちだった。
「権利物の処理に関しては、各企業様が所有する貴重な財産であることから、企業様ごとに反応は異なりました。具体名は差し控えさせていただきますが、全面的にご協力いただけた企業様、部分的にではあるけれどもご協力いただけた企業様など様々であり、業界内でも反応が統一されているわけではありません。
また、この度は音楽がテーマということでJASRAC様ともやり取りをさせていただいたのですが、JASRAC様のような著作権管理団体を利用せず、自社で権利を一括管理されている企業様も多かったです。
ゲーム資料は、博物館で用いられる大半の資料と異なり、現在進行系の商品でもありますので、我々としても慎重に扱わねばなりません。逆に営利企業の観点からすると、文化・教育・学術活動への協力は直接的な利益を生まないため、プライオリティが低い傾向があり、それは当然のことだと思っておりましたが、以前と比べて比較にならないくらい好意的に対応いただいている印象があります」(尾鼻氏)
本展を布石に、ゲーム音楽を活用した文化・ビジネスの発展につなげたい
以前に拙稿「大好きなゲームの曲がもう聴けない!? サービス終了で消滅するゲーム音楽の悲しい現実」でも書いたが、ゲーム音楽は契約や業界特有の慣例などの理由で、作曲者自身もライブ・演奏が自由にできないのが現状であり、本展の準備にあたっても、その例外とはならなかった。
「今回の展示でも意識したことではあるのですが、ゲーム音楽の保存には多くの課題があります。ゲーム音楽はバリエーションが多岐にわたりますし、オンラインゲームやインタラクティブな遷移など、再現不可能なもの、一回性の要素も多々あります。本展ではその問題提起もできたのではないかと思っています。
また最近、同じことを他の場所でもよく言っているのですが、我が国ではゲーム展が増加傾向にあり、『ゲームを展示する』ということに関しては、方法も社会的評価も定まってきています。そのため、次のステップは『ゲームで展示する』ことになるだろうと私は考えています。
明確なテーマをもってキュレーションを行うこと、もしくは、ゲームの機能や構造自体を用いた展示などです(近年だと『あつまれどうぶつの森』の事例は面白いです)。本展もまた、ゲーム音楽をテーマに『ゲームで展示する』ことのひとつの実践例として、ご覧いただければうれしいです。そして今回の展示は、あくまでもパイロット展ですので、今後も継続して展開していければと考えています」(尾鼻氏)
本展の公開期間は1月27~2月26日まで。文化庁、すなわち国がバックアップした本展が、ゲーム音楽の文化保存と継承、ひいては著作物の有効かつスムーズな活用を可能とする仕組み作りのきっかけにつながることを願ってやまない。