韓国の影の権力者たちと“朴大統領暗殺事件”の背景…映画『南山の部長たち』
1月24から旧正月の連休を迎えた韓国で、とある韓国映画が大きな話題を呼んでいる。その映画とは、1月22日に封切られた映画『南山の部長たち』(原題)だ。
昨日1月27日には公開6日目で観客動員300万人を突破し、旧正月連休のボックスオフィス・ランキングでも堂々の1位に輝いている。
近年ハリウッドでも活躍する俳優イ・ビョンホンと、『インサイダーズ/内部者たち』を手がけたウ・ミンホ監督が2度目のタッグを組んだ『南山の部長たち』は、イ・ビョンホンのほかにも映画『工作 黒金星と呼ばれた男』で主演したイ・ソンミン、『哭声/コクソン』のクァク・ドウォンといった演技派俳優らが集結し、制作段階から期待を集めていた。
公開直前に行われたVIP試写会には、イ・ビョンホンの妻で女優のイ・ミンジョンをはじめ、イ・ビョンホン主演ドラマ『ミスター・サンシャイン』(Netflixにて配信中)の出演陣が応援に駆けつけている。
ただ、この映画が注目を集めているのは、豪華キャストや監督の知名度だけではない。
韓国はかねてより実話を映画化するケースが多く、前出の『インサイダーズ/内部者たち』や「華城連続殺人事件」をモチーフにしたポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』をはじめ数多くの実話映画がヒットを飛ばしてきた。
(参考記事:『殺人の追憶』だけじゃない。ナゾが多く不可解な「韓国3大未解決事件」とは?)
また、1980年の「光州事件」をもとにした『タクシー運転手 約束は海を越えて』、1987年の学生運動家・朴鍾哲(パク・ジョンチョル)拷問致死事件および民主抗争を描いた『1987、ある闘いの真実』、故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が弁護士時代に関わった「釜林事件」を描く『弁護人』など、韓国の近現代史を語る上で外せない事件を描いた作品も多い。
これらの映画と同様に、『南山の部長たち』も韓国人の記憶の奥底に眠っていた“とある事件”を再現している。
韓国紙『東亜日報』で連載された同名のノンフィクションを原作に、1979年の韓国で“第2の権力者”と呼ばれていたKCIA(韓国中央情報部)の幹部たちや韓国陸軍上層部、さらには当時の政治家たちの思惑などを描きながら、大統領を暗殺するまでの40日間を描いているのだ。
ここで気づいた方もいるだろう。つまり『南山の部長たち』は、韓国近・現代史において最も重大な事件と言える「朴正煕(パク・チョンヒ)暗殺事件」(通称10.26事件)をモチーフにしている。
朴正煕元大統領といえば、軍事クーデターを起こして18年にわたる独裁政治を行った人物だ。日本軍将校時代に「高木正雄」と名乗っていたこともあり、韓国・民族問題研究所が出版する「親日人名辞典」にも名前が載った。
また、2016年の「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」によって罷免された朴槿恵(パク・クネ)元大統領の亡き父ということで、父娘ともに支持する右翼が今も存在する。
そんな朴正煕暗殺事件を映画にするのは容易ではなかったと思われるが、ウ・ミンホ監督がこの映画を企画したのが朴槿恵政権当時だったというのは興味深い。
そして韓国メディアからそのことについて聞かれたウ・ミンホ監督が、「プレッシャーは感じなかった。ただ、政治的に偏らずに人間の心理描写に集中しようとした」と答えているのは、さすがと言うべきだろう。
いずれにしても、韓国の近現代史・政治史上最もドラマチックでミステリアスな事件を描く『南山の部長たち』は、早くも『インサイダーズ/内部者たち』に続く大ヒットの予感だ。日本での公開にも期待が高まる。