なでしこジャパンの新戦力、19歳のアタッカーコンビは欧州の舞台で輝けるか。(1)FW植木理子
6月の女子W杯を2ヶ月後に控え、フランス(FIFAランク4位/4日)、ドイツ(同2位/9日)と対戦するなでしこジャパン(同7位)。
高倉麻子監督は、本大会前最後となるこの遠征に臨む23名のメンバーについて、
「個として、世界の舞台で戦える選手、また、グループの中で生きていける選手(を見極める)ということを考えて選んだ」
と話している。
その中で、今回フル代表で初の海外遠征に臨む期待の新戦力が、日テレ・ベレーザ(ベレーザ)に所属するFW植木理子とFW宮澤ひなたの2人だ。
ともに国内王者の日テレ・ベレーザ(ベレーザ)に所属し、昨年8月のU-20女子W杯で世界一の原動力になった19歳。共通するのは、傑出したスピードと運動量、そしてゴールへの推進力だ。
今回、最初の遠征地であるフランスは、8ヶ月前にU-20女子W杯のトロフィーを掲げた地であり、今年6月のW杯の開催地でもある。2人はその強い個性を組織の中で示すことができるだろうか。
なでしこジャパンの新戦力、19歳のアタッカーコンビは欧州の舞台で輝けるか。(2)FW宮澤ひなた
【生粋のストライカー】
ベレーザでFW田中美南、FW籾木結花の両エースとともに数々の重要なゴールを挙げ、年代別代表でもエースとして活躍してきた植木。サッカーを本格的に始めたのは小学校5年生と、歴代のなでしこジャパンの選手と比べて遅い方だが、代表初選出は18歳。異例の早さで階段を駆け上がってきた。
だが、決して一段飛ばしではなく、着実にステップを踏みながらここまで来たことに、底知れない伸びしろを感じさせる。
ベレーザの下部組織で育ち、16歳でトップチームに登録された植木は、2016年にリーグカップでデビューを果たすと、そこから、途中出場での4試合連続ゴールで話題をさらった。残り時間10分を切る時間帯で投入されることもあったが、植木がピッチに立つと、必ずと言っていいほど空気が変わった。
テクニックに長けた選手が多いベレーザで、スピードを武器とする植木のプレースタイルは強烈なアクセントになっていた。動きのリズム感が他の選手と明らかに違うので、対峙するディフェンダーは対応しにくいのだろう。植木自身も、その特徴を最大限に生かすことを意識してきた。
「体の振りとか上半身の動きで相手を惑わすことを意識しています。後ろ向きで受けても、体の動き一つで逆を取れたりするので。すごい足技がなくても、体の動きとスピードで抜けるのは強みだと思います」(植木)
昨夏のU-20女子W杯では全6試合に出場。5ゴールを挙げ、日本の優勝を牽引した。それまでにU-17やU-19の年代でも重要なゴールを決めてきた植木に対して、当然相手のチェックは厳しかったが、味方をうまく使いながら相手を剥(は)がし、結果で期待に応えた。
それまでは4-4-2のトップで出場することが多かったが、昨年、ベレーザの新監督に就任した永田雅人監督は、植木を4-3-3(4-1-4-1)のウイングのポジションで起用し、新たにチャレンジさせている。
「植木は少ない動きでマークを外してゴールを狙うプレーのレベルが高く、ポストプレーも上手いので、いずれは他のFWを追い越していかなければならない存在です。その準備段階として、サイドアタッカーでもプレーしてもらっています」(永田監督)
植木をコンバートした意図について、当時、永田監督はこう話していた。そして、その狙い通り、植木はプレーの幅を広げながら先発でピッチに立つ機会を増やし、リーグカップでは8試合で8ゴールを挙げ、得点王にもなった。
変化は、緩急の使い方に見て取れる。
「以前は相手との間合いが近くて、スピードを上げる際にぶつかってしまうことが多かったんですが、今はもっと早いタイミングでボールを動かして、相手がボールに触れないところで仕掛け始めることを意識しています。フィジカルトレーニングも継続しているので、去年より軸がブレなくなりました」(植木)
植木が得意とするゴールの一つに、左サイドから中央にカットインして右足でシュートに持ち込む形があるが、その形を警戒された時のために、ギリギリで縦突破に判断を変えるパターンを磨き、連動して左足のシュート精度も高めてきた。今回の遠征の練習中には、左サイドから強烈なミドルを右サイドネットに突き刺す一幕もあった。
フィニッシュワークが多彩になったことで、相手にとっての脅威はより増していくだろう。
【スーパーサブで即戦力に】
今回の欧州遠征はW杯前最後の代表活動となるが、高倉監督は、今まで主力として戦ってきた選手を軸にチームを固めながら、新戦力にチャンスを与えて可能性を探る狙いも口にしている。
国内や年代別代表では確かな実績を残している植木だが、フル代表でどれだけやれるかは未知数であり、今回の短期間の遠征がW杯につながる重要な機会であることは言うまでもない。
「スタメンで90分間試合に出るとのは選手としての価値だと思いますし、最終的に目指すところです。ただ、今はなでしこジャパンに入ったばかりなので、(今回の試合で)途中から出て流れを変えたり、ゴールを決めることができれば、(6月の)W杯で即戦力に、と信頼してもらえると思うので、チャレンジしたいと思っています」
ベレーザでスーパーサブとして頭角を現し、今や欠かせないFWになった植木は、途中出場で点を取る喜びを知り、その土台を作ってくれる、先発メンバーへの感謝も忘れなかった。
近年のなでしこジャパンで結果を残してきたスーパーサブの選手といえば、2011年ドイツ女子W杯で強豪ドイツを破る決勝ゴールを決めたFW丸山桂里奈、そして、15年のカナダ女子W杯でオーストラリアを破る決勝ゴールを決めたFW岩渕真奈の2人が印象に残る。2人のゴールは、今も燦然と輝きを放っており、その後、岩渕は高倉ジャパンで主力になり、先発フル出場の機会も増えた(今回の欧州遠征メンバーからは外れている)。
植木は、その先輩たちに続く可能性がある。今回、フランスとドイツとの2連戦で植木がピッチでどのような存在感を放つのか、注目したい。
フランス戦は日本時間 5 日(金)早朝4時から、J SPORTS 2 にて生中継 (BS は無料放送) 、ドイツ戦は日本時間 9日(火)23時からNHK BS1 にて生中継される。