Yahoo!ニュース

これがITの未来だ! 若手研究者が大プレゼン大会

五十嵐悠紀お茶の水女子大学 理学部 准教授
IPSJ-ONE2018の企画・実施委員会および登壇者全員の集合写真。(IPSJ-ONE企画・実施委員会撮影)
IPSJ-ONE2018の企画・実施委員会および登壇者全員の集合写真。(IPSJ-ONE企画・実施委員会撮影)

人工知能やIoT(Internet of things)、バーチャルリアリティ(VR)、AI・・・。こういった言葉を日常的に耳にするようになってきました。

情報技術の急速な発展により、これらの技術は、もはや研究者だけではなく、広く一般の人々の生活に浸透してきました。研究レベルのものもまだまだありますが、中にはすでに私たちの日常生活に広く深く普及している技術もあり、快適な日常生活を営む上ではもはや無くてはならない存在にもなってきています。

情報技術分野における指導的役割でもある一般社団法人情報処理学会(IPSJ)では、「IPSJ-ONE(アイピーエスジェー・ワン)」というイベントを、毎年3月に行われる全国大会*1の最終日に開催しており、今年で5年目を迎えます。

このイベントは、情報科学分野において国内外で活躍する日本の若手トップ研究者が、5分間のライトニングトーク形式でプレゼンするというもの。最先端の技術だけでなく、今後期待される技術や、それらの技術が社会に波及することで世の中がどのように変わっていくかについて、世界の最先端で活躍している若手研究者が分かりやすく解説していきます。

*1:情報処理学会が年1回(春季)開催する学会最大のイベント。約1200件の一般講演発表に加えて、招待講演やパネル討論などのイベントもあわせて開催している。

興味深いプレゼンがめじろ押し!

それでは、実際にどのようなプレゼンが行われているのでしょうか。昨年(2018年)のIPSJ-ONEから、注目のプレゼンをいくつか紹介しましょう。

『深層学習が変える画像処理・編集』(飯塚里志氏)  

人間による経験や体験に基づく判断を、コンピュータ上で実現する試みとして、白黒写真の色付けのためのニューラルネットワークモデルを作ることで、昔の白黒写真・映画を自動でカラー化することができる。そんな技術について紹介していました。

『コンピュータと人間による合奏:人と息を合わせて演奏するとは』(前澤陽氏)

人間と機械が1つの音楽を奏でる技術の現状と未来について、「きらきら星」のデモを実演しながら説明。「機械とやっていると感じている間はまだまだです。技術の存在感が消えたときが究極」と前澤氏は語ります。

『強いセキュリティほど望ましい? ~データの保護と利活用との両立にむけて~』(江村恵太氏)

「暗号は強ければいいのか? 実はそうでないときもある」と、具体的な暗号技術について紹介。「データの中身を暗号化したまま統計処理を行えれば、データの中身を見ずに、複数の銀行が統合したかのような状態でデータマイニングが行える」と、データを守りながらもしっかりと活用する方法を紹介しました。

『ビッグデータを瞬時に計算する』(塩川浩昭氏)

「60秒間に生み出されるデータは40万ツイート、250万フェイスブック投稿、1億メール」と、我々が日頃使っているソーシャルメディアでの具体的な数値を紹介。このような、スーパーコンピューターでも計算が追いつかないビッグデータの分析を瞬時に終わらせるために、データが持つ性質をアルゴリズムの中で捉え、本当に大事なところだけを分析しているのだそうです。

学会といえばその道の専門家のためのもの、と思いがちですが、これらを見れば、このイベントは一般の方々にとっても、最先端の研究を楽しく知る絶好の機会だとお分かりいただけるでしょう。このイベントは学会員に限らず無料公開をしており、特にこれから大学を選ぶ高校生や、大学院進学を検討している真っ最中の大学生、それから共同研究先を探している企業の方などは必見です。

一般の人にも分かりやすいプレゼンを目指す。大上雅史氏(東京工業大学)は、『出会い系タンパク質を探す旅』というタイトルで非常に分かりやすいプレゼンを行っていた。
一般の人にも分かりやすいプレゼンを目指す。大上雅史氏(東京工業大学)は、『出会い系タンパク質を探す旅』というタイトルで非常に分かりやすいプレゼンを行っていた。

分かりやすく伝えるために

情報処理学会では1960年の設立以来、発展する情報処理分野で指導的役割を果たすべく活動していますが、一口に「情報技術」といっても分野は幅広く、現在情報処理学会では分野を3領域、40研究会に分けて活動しています。

各研究会では専門家たちがこれらの技術について日々研究を行ったり、研究を発表して議論を深めたりしているのですが、各研究会の会員は、異なる研究会や研究領域あるいは情報処理学会全体で、どのような研究がなされ注目を集めているのかを知る機会は少ないのが実情です。

そこで、IPSJ-ONEでは、各研究会からホットなトピックや優れた研究を語れるプレゼン力の高い研究者(若手研究者推奨)を1名ずつ推薦してもらい、その中から厳選して「見逃せない講演会」を開催することになりました。演出を加えたプレミア感のあるステージとすることで、発表者側も「そこで発表できることがひとつのステータス」と感じられるイベントになっています。

このイベントを立ち上げるにあたって、初代の情報処理学会 新世代企画委員会 委員長でもあった後藤真孝氏(産業技術総合研究所)は、「情報処理学会のすごい研究を一望できる必見のステージを提供したい。しかも、他分野の聴衆でも興味を持てる新しい発表スタイルにチャレンジしたい。それにより学会全体で最新の研究内容を共有し、異分野間の融合やそれぞれの研究の発展に役立てたい」という企画趣旨を当時記していました。

また、新世代企画委員会の中でさまざまな議論を重ねた結果、このイベントはライブ動画中継とアーカイブ化を必須とし、無料聴講可能となるように学会側と調整をしたとのこと。毎年、春の恒例の目玉企画となることを意図して企画されたイベントなのです。

そして、IPSJ-ONEの第1回(2015年)は、メディアアーティストでもある筑波大学の落合陽一氏を委員長として開催。第2回以降は、過去に登壇した若手研究者から有志を募って、IPSJ-ONE企画・実施委員会を構成しているのも特徴的です。当日までの準備の他、当日の運営や進行などもすべて委員自らが切り盛りしてイベントを作り上げています。

登壇者は、普段なら1時間もの講演をしているような研究者たちですが、自分の分野や自身の研究をギュッと5分に凝縮した「異分野の人にでも分かりやすい解説」を求められています。これを成功させるために、登壇者と委員会全体で前日・当日とリハーサルを積み重ねます。

リハーサルでは「このスライドはこう直したほうがよい」「ここは動画で見せたほうがよい」「この言葉は分野を超えると違う意味で使っている」など白熱した議論が飛び交います。魅力的なステージづくりのため、そして一般の人に分かりやすくこの分野を知ってもらうために、皆で努力を重ねています。

今年のIPSJ-ONEも注目!

2019年の今回も、各研究会から推薦されてきた候補者に対して、IPSJ-ONE企画・実施委員会が審査を行った結果、分野を超えたインパクトを持つ15名の気鋭の研究者の登壇が決まりました。2019年3月16日(土)15:30~17:30に福岡大学にて行われる「IPSJ-ONE 2019」は、情報処理学会の会員か否かにかかわらず、無料で参加(聴講)できます。

また、当日の発表の模様はニコニコ生放送から視聴可能ですので、遠方で直接来られない方も生放送をご覧いただけます。一般的な学会発表とは趣が異なる濃密な2時間を、是非お楽しみください。

(この記事は、JBPressからの転載です。)

お茶の水女子大学 理学部 准教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).日本学術振興会特別研究員PD, RPD(筑波大学), 明治大学総合数理学部 専任講師,専任准教授を経て,現職.未踏ITのPM兼任.専門はヒューマンコンピュータインタラクションおよびコンピュータグラフィックス.子ども向けにITを使ったワークショップを行うなどアウトリーチ活動も行う.著書に「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」(河出書房新書),「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て)」(ジアース教育新社),「縫うコンピュータグラフィックス」(オーム社)ほか.

五十嵐悠紀の最近の記事