【外出自粛】それでも出勤がなくならない理由「服従の心理」とは?
■ 3種類の理由
3月26日、小池都知事や近隣4県の知事らは、不要不急の「外出自粛」を県民都民に要請した。
これを受けて、企業は対策を急いでいる。首都圏の多くの企業が、営業停止や臨時休業、さらなる在宅勤務の促進に着手した。
しかし、それでも移動する人は移動するだろう。不要不急なのに、イベント参加へ出かけたり、行きたいお店を訪れたり、会社に出勤するのである。
なぜこれほど大々的に「外出自粛要請」が出ているのに、それでも外出してしまうのか? 理由は3種類ある、と私は考えている。
1)そこへ移動したいから
2)そこへ移動しなければならないから
3)そこへ移動することになっているから
この3つだ。
1つ目の理由はわかりやすい。自分が訪れたい場所があれば出かけたくなるものだ。
2つ目も同様に理解できるだろう。どうしてもその場所でへ行くべきと判断したら、出かけてしまうものだ。
この2つの理由はそれぞれ人の「意思」であるから、周囲が厳しく言ったり、説得することで、思いとどまらせることができる。
問題は3つ目である。そこへ移動することになっているから――という理由に、人としての「意思」がない。だから、周囲がどんなに言い聞かせても、
「会社に行くことになっているので」
と言って耳を傾けないのだ。このような人間の心理状態を「エージェント状態」と呼ぶ。
■ 服従の心理を暴く「ミルグラム実験」
「エージェント状態」を説明するのには、まずスタンレー・ミルグラムが1960年代に実施した「ミルグラム実験」を簡単に解説する必要があるだろう。
ミルグラム実験とは、何十万人というユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)は、極悪非道の人間によってではなく、実は小心者の凡人によって指揮されたことを証明した実験である。
善良な人間であろうと残酷な罪を犯してしまう。その理由は、あくまでも自分は、権威者(ヒットラー)の代理人(エージェント)として執行しているという心理が働き、罪の意識が薄れるからだと言う。
これが「服従の心理」だ。
今回も、「外出自粛」の要請があろうと、オフィスや店舗に出勤する者はする。不要不急であってもなくても、出勤するのだ。なぜなら3つ目の理由――「出勤することになっている」からだ。自分の意思とは関係がない。
「外出自粛要請が出ていますが、出勤するんでしょうか? 在宅でテレワークできますが」
と、上司に進言しても、
「そりゃあ、出勤だろう」
と、事もなげに言われる。なぜなら経営トップが「出勤だ」と言っているからだ。
社長がそう言うなら本部長もそれに従うし、本部長が従うなら部長も従う。部長が従うなら課長も従うのだ。このような「権威システム」が働いている限り、社員は皆「エージェント状態」となる。
■ さらに一段階強い表現が必要か
企業の不正がなくならないのも、この「権威システム」が原因だ。各部門のトップが「エージェント状態」になっているため、それぞれに著しい「責任の喪失」が見られる。
組織全体が権威者に服従してしまえば、いくら都知事らが「外出自粛」を要請しても、どこ吹く風だ。経営のトップが明言しない限り、誰もそれに従わない。
とくに気を付けたいのが、ワンマン経営をしている中小企業だ。「会社」という閉鎖的なヒエラルキーが絶対であり、世間の常識が通用しないこともある。
「外出自粛」という表現は、「個人」には届いても「企業」には届きづらい面もあるだろう。今週末の状況にもよるが、さらに状況が悪化するなら、もう一段階強い表現をしたほうが、独善的な手腕をとりつづける経営者を動かしやすい。