ユニクロ初の女性CEOの素顔 柳井社長が国内事業トップに抜擢したこれだけの理由
ファーストリテイリングが、「ユニクロ」の日本事業の最高経営責任者(CEO)に赤井田真希ファーストリテイリンググループ執行役員を抜擢したのは、今年6月のこと。柳井正会長兼社長のお眼鏡にかない、売上高8647億円(2018年8月期)、従業員数5万人超の国内ユニクロを率いることになったのが、女性で、かつ、40歳という若さもあり、注目を集めている。
就任から2カ月がたち、筆者も含めて多くのメディアがインタビューを申し込んでいるが、いまだメディアに登場しておらず、一般にはその素顔やバックグラウンドはベールに包まれた部分が多い。ただし、グローバルマーケティング部時代にはPR担当部長を務めたこともあり、マスコミや代理店などとの接点もある。旗艦店の銀座店店長や、営業や人事・教育のトップ、直近では今後強化していく個店経営の象徴的店舗である吉祥寺店の店長などを歴任しており、実力は折り紙付きだ。そこで、筆者が見聞きしたりリサーチでつかんだ赤井田CEO像をここに記しておきたい。
もともとは教員志望、新卒でユニクロに入社し半年で店長に。負けず嫌い、人が好き
新潟県阿賀野市出身で、1978年12月23日生まれ。同じ誕生日には、1970年生まれのNIGO氏、1975年生まれのクリスティン・エドマン氏(前H&Mジャパン社長で、現在はジバンシィ ジャパン プレジデント&CEO)などがいる。専修大学時代は文学部英米文学科に在籍し、ラクロスに興じたという。当初は教員を目指していたが、人材育成なら社会に出て一般企業でもできる。どうせ入るなら成長性の高い日本一の企業に入りたいとユニクロ(ファーストリテイリング)を志望し2001年に入社した。
当時のユニクロはといえば、1998年に都心1号店となる原宿店を出店したのをきっかけに存在感を増し、フリース旋風(1998年に200万枚、1999年に850万枚、2000年には2600万枚を販売)や、大量出店などを背景に、売上げが倍々ペースで急成長。2000年には本社を山口に残しつつ、東京に本部を移した時期でもあった。また、2001年9月に英国に海外1号店を出店した年でもある。あの狂騒的ともいえるブームと、その後の落ち込み、そこからの復活、そしてグローバル化に体当たりで挑んだ、ユニクロイズム、DNAが色濃く残っている世代でもある。
赤井田氏の初配属先は地元・新潟の長岡店で、入社半年で店長試験に合格し、22歳で店長職に就いた。同期380人中、わずか7人という狭き門を通過。新人時代から頭角を現していた。群馬や北海道でも店長を務め、結果を残す。4年目にエリア統括のスーパーバイザーに昇格。スーパースター店長としても活躍し、銀座店店長、上海正大広場店店長などでも成果を上げる。2011年に人事・採用・教育部部長に就任。その後営業に戻り、九州・沖縄地区のブロックリーダー、全店舗を担当する営業部の責任者を経て、グローバルマーケティング部PR部長、FRMIC(ファーストリテイリングマネジメントイノベーションセンター)責任者などを歴任。能力アップとモチベーションアップによる成果の最大化に尽力し、人材育成と事業成長を陰で牽引してきた。10年ほど前には社内(グループ内)結婚もしている。直近は、2018年3月から2019年5月まで吉祥寺店で店長を務めた。同年5月、ファーストリテイリングのグループ執行役員に任ぜられ、直後の6月1日からユニクロの日本事業の最高経営責任者(CEO)に就任した。
銀座店、上海正大広場店、吉祥寺店の旗艦店店長を歴任。武勇伝も多数。人材育成・教育にも力入れる
同じ店長経験の中でも、銀座店、上海正大広場店、吉祥寺店には特別な意味がある。銀座店はユニクロ初の旗艦店であり、柳井正会長兼社長がたびたび足を運んで“ウォーキング・ミーティング”(店内を歩きながら現場をチェックし、改善を要求する)をする重要店舗である。柳井社長からのミッションをクリアする力やコミュニケーション力、顧客ニーズをくみ取り施策として具現化する力、現場スタッフを巻き込む力、人のやる気を出させるマネジメント力、そして、人柄などが評価されることになった。社員の間では、「柳井社長の指示に100%応える超優秀なソルジャー」と一目置かれることになった。ちなみに、彼女の座右の銘は「99%の敗北と1%の勝利」。柳井社長の著書「一勝九敗」ともうまく呼応している。
日本人スタッフが誰もいない上海正大広場店に店長として赴任し、中国事業の成功を支えた話は、まさに武勇伝だ。2010年、柳井社長は「民族大移動」の号令をかけた。「グローバル化展開に伴い、採用から育成までをグローバルで行う体制を整え、世界中で活躍できる店長を毎年1000人送り出したい」と宣言。これに対して赤井田CEOは中国への出向を自ら志願。英語には覚えがあるが、中国語の素養はまったくなかった。食事中に「忙しくて中国語を勉強する時間がない」と話した赤井田氏に、柳井社長が「じゃあ、あなたは今日から日本語を話さないでください」と命じたというエピソードもあるという。新人時代に店長試験に合格した際、何冊もある400ページの分厚いマニュアルを習得したのと同様、語学も猛勉強したのだろう。それ以上に、「100%、全人格でぶつかる」をモットーとする彼女の熱意や気概、創意工夫力、そして、人間力で問題を突破してきたように思える。
国内ユニクロは「個店経営」「地域密着」「ひと・まち・くらしとの共存共栄」でゆるやかな成長を目指す
今、ユニクロの国内売上高や店舗数は頭打ちといわれる状況にある。さらに売り上げを伸ばすためのキーワードが「個店経営」であり「ローカライズ」「地元密着型マーケティング」である。吉祥寺店はその全国初のモデル店舗として2014年10月にオープンしたもので、赤井田氏は昨年3月から「ひと・まち・くらしとの共存共栄」という店舗方針を掲げて同店を率いながら、グローバル標準化と個店経営のハイブリッドな店舗運営のあり方や、現場での成功体験の確立やその水平展開などにも力を注いだ。
営業会議をはじめとした社内での存在感も大きかったという。ちなみに、ファーストリテイリングは全国の店長、本部社員、各国・各ブランドの経営陣など世界中から約5000人が参加し、講演やディスカッションなどを通じて経営者の育成やブランド強化などを図る「FRコンベンション」を年2回開催している。赤井田氏は営業や人事・教育の立場で司会や施策の発表などを行うことも多かったが、「プレゼン力がとても高く、説得力も迫力もある」と評判だった。
ファストリは女性活躍を推進に向けてさまざまな施策を打っているが、象徴にとどまっているような人物ではない。明るく気さくで謙虚で、かつ、パワフルでエネルギッシュで人間力の高い赤井田CEOの手腕に期待したい。