三浦建太郎さん死去 マンガ好きを虜にした「ベルセルク」とは 「未完」の判断は尚早?
アニメ化もされた人気マンガ「ベルセルク」の作者・三浦建太郎さんが5月6日、急性大動脈解離のため54歳という若さで亡くなりました。ベルセルクを連載していた白泉社のホームページで20日に発表されました。
◇「ベルセルク」ってどんな作品?
大手メディアが一斉に報じ、ヤフートピックスに取り上げられたこともあり、同業のマンガ家や、アニメにかかわった声優、ファンが弔意を示しており、悲しみの大きさがうかがえます。特に「はじめの一歩」の森川ジョージさんのツイッターでは、三浦さんとの出会いについてのエピソードが明かされています。
「ベルセルク」のコミックス累計発行部数は、世界で5000万部以上(電子版含む)。米国や欧州(仏独伊露)、アジア(韓国・台湾・香港)はもちろん、アルゼンチンやブラジルなど約20カ国・地域でも読まれています。それゆえ、世界中から反応があるのです。
扱いの大きさに、「ベルセルク」や三浦さんをよく知らない人でも、「すごい人が亡くなった」のは分かるようですが、ピンとこない人が一定数いるのは仕方のないところです。サブカル好きであれば「ベルセルク」は「知っていて当然」ともいえる作品の一つで、影響を受けたクリエーターも少なくないはずです。
一言で説明すると、「ベルセルク」は、巨大な剣(ドラゴンころし)の使い手・ガッツが、異形の化け物を相手に戦うというダークファンタジーです。ガッツは、人を超越した“闇の歴史の支配者”である「ゴッド・ハンド」の5人を追い求め、その中でもグリフィスという人物に執着しています。
因縁は、ガッツの過去にさかのぼって語られます。ガッツは虐待を受けながら戦場を生き、敵意を向けたとはいえ育ての親を殺し、最強の傭兵団「鷹の団」を率いる団長で知勇兼備の天才・グリフィスと出会います。グリフィスとの一対一の勝負に敗れたガッツは、「鷹の団」に乞われる形で加入、中心的な存在になるとともにグリフィスに引かれていきます。ところがガッツは、グリフィスの“陰”になることを良しとせず、団を去ることを表明。グリフィスと一対一で再戦して圧勝。団を去ります。
しかしグリフィスは、ガッツを失ったことで心のバランスが崩れてしまい、王女と密通して王の怒りを買い、「鷹の団」は逆賊となります。1年後、ガッツに助けられたグリフィスは、拷問(ごうもん)で体を壊されてしまい、復活のため悪魔に魂を売るような行為をします。そしてグリフィスが「ゴッド・ハンド」のフェムトに転生したことで、2人は宿敵となるのです。ここまでで、物語は3分の1ぐらいでしょうか。
ガッツと戦う化け物以上に「人間のほうが怪物」と感じる考えさせるシーンがあるのです。そしてガッツとグリフィスがかけがえのない存在だっただけに、反目は痛いほど伝わってきます。未読の方は読んでみてはいかがでしょうか? ガッツの圧倒的存在感、重厚かつ緻密な画力、練られた設定と世界観、先の読めない展開、それでいて読者を試して、心に浸食してくるような魅力があります。
正直に申し上げれば、残酷で子供には見せられない表現もあり、万人向け作品ではありません。しかし、命を削るようなガッツの生き様に魅了され、読者を虜(とりこ)にしてしまうのですね。
◇ガッツの大剣が生まれた理由
三浦さんは生前のインタビューで、「ベルセルク」の作画を任せる構想を明かしています。裏返せば、作画への要求が高く、ほぼ自分で背負い込んだともいえます。一見矛盾するようなことですが、連載が遅れることの葛藤もあったでしょうし、作品への情熱だったのでしょう。
他にも三浦さんは、モチベーションを高めるためにアシスタントの名前が載せられるような仕事を作ること、正社員としての雇用を意識していることもインタビューでうかがわせています。
また三浦さんは、「スター・ウォーズ」について語りながら、「ベルセルク」のガッツの大剣が生まれた理由、創作について語った別のインタビューもあります。ライトセーバーをフックに、「聖闘士星矢」の聖衣(クロス)、「北斗の拳」の秘孔(ひこう)、「超時空要塞マクロス」の兵器「バルキリー」に話を広げています。インタビューの行間からも、三浦さんの知識、情熱がにじみ出ているようです。
創作活動は、命を削るような一面があります。休載が目立つ人気作品は、ネットで厳しい言葉を書かれますから、心労も大変だったのかもしれません。
◇出版社に聞く「未完?」 答えは…
気になるのは「ベルセルク」の今後です。三浦さんの死去の記事を受けて、「ベルセルクは未完」となっているものもありますが、判断は時期尚早かなと考えています。もちろん三浦さんの手で完結することはありません。しかし他の作品でもあるように、プロットがあって、遺志を継ぐ人の手によって、続きがある可能性はゼロでないからです。もちろん、このまま終わる可能性もあるわけですが……。
そこで白泉社に「ベルセルクは『未完』で終わるのか? 構想メモなどがあって、それを基に続くことはない?」とストレートに尋ねました。同社の答えは「いろいろな可能性はあるが、今、答えがあるものではない」でした。要するに「未完」「終わり」とは言いませんでした。
「ベルセルク」の価値を考えると、白泉社の立場からすれば、打ち切りにしたいはずがなく、現段階では何も言えないでしょう。そこで出版社の編集者・関係者に「ベルセルクの続く可能性があると思うか?」と聞いてみたところ、そろって「可能性だけいえばある」でした。その中で二つのユニークな指摘がありました。
一つは「三浦さんが、話の終わり方を周囲に明かしているかがポイント。そして編集者やアシスタントに話している可能性は十分ある。それがあればできる」という見立てでした。もう一つは「ベルセルクの著作権を継ぐ人の意向次第。出版社側としては『続けたい』と考えるのが自然」という見方です。 三浦さんの作画や物語のことを考えると不可能のように思えますが、「できる」「できない」でいえば、納得の有無はさておき、できてしまうのですね。
もちろんファンの中には「余計なことをしないで」という意見も、逆に「三浦さんのプロットがあるなら、ぜひ続きが見たい」という意見もあるでしょう。どちらも間違っていませんし、人の思いはそれぞれです。
ともあれ、連載誌に掲載された分のコミックス新刊が出て、それから先がどうなるのか……。なお9月に開催予定の「大ベルセルク展」ですが、三浦さんの死去発表後に「今のところ開催予定ではございますが、詳報までしばらくお待ちください」と公式からツイートされています。
「大ベルセルク展」への意気込みについて、三浦さんの生前のコメントがあります。ファンへの気持ち、イベントへの自信が感じられるだけに、残念でなりません。
三浦建太郎さんのご冥福を心からお祈りいたします。