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WEリーグを盛り上げる新星が台頭。リトルなでしこの司令塔・眞城美春が見せたデビュー戦の輝き

松原渓スポーツジャーナリスト
眞城美春(写真提供:WEリーグ)

【主力の穴を埋めた2人】

 ヒールターン、また抜き、ループパス。軽やかに身を翻し、東京NBの背番号14が初舞台で存在感を見せつけた。その身のこなしは、かつて同クラブで14番を象徴する存在だった長谷川唯(マンチェスター・シティ)のプレーと重なる。

 9月1日に行われたWEリーグカップ開幕戦。アウェーのNACK5スタジアム大宮に乗り込んだ東京NBのスターティングイレブンに、下部組織出身の眞城美春(しんじょう・みはる)が名を連ねた。トップチームでの公式戦はこれがデビュー戦となった。

 東京NBは、9月3日に開幕するU20女子ワールドカップに、主力の土方麻椰、柏村菜那、松永未夢ら5人が招集され、激戦区の中盤のポジションで出番が回ってきた。眞城はインサイドハーフで出場。また、この試合は16歳の青木夕菜(あおき・ゆな)も、右ウイングバックで初先発を飾った。2人はU-17女子代表(リトルなでしこ)の主力で、今年10月のワールドカップでも選出が濃厚。スタンドには、同代表を率いる白井貞義監督の姿もあった。

 攻撃面で多くの見せ場を作ったのは眞城だ。松田岳夫監督は、そのプレーを次のように評価している。

「360度視野が広い。ボールを受ける時にいい準備をして、駆け引きの中でボールの置きどころがよく、簡単に奪われない。相手を引き寄せて逆を取るプレーが得意で、背後に抜けるスルーパスを出せるのは良さだと思います」

 ソックスを膝の上まで上げ、長いポニーテールを揺らしながらピッチを縦横無尽に駆けた。前半20分、左サイドでスルーパスを受けるとカットインから挨拶がわりのファーストシュート。27分にも左サイドで細かい動き直しからボールを受け、絶妙なタッチで相手をかわしてフィニッシュ。そして、37分にはポストプレーから反転して左足ボレーを放った。いずれもスコアにはならなかったが、その鮮やかな身のこなしに、スタンドから歓声が上がった。

 会場のボルテージが最も上がったのは59分。ペナルティエリア左で山本柚月のフィードを受け、ダイレクトで相手DFの頭上を越すループパスを鈴木陽の頭にぴたりと合わせた。

 青木も、初舞台とは思えないプレーを披露。積極的なオーバーラップでチャンスを創出し、持ち前のフィジカルとスピードを見せつけた。

青木夕菜(写真提供:WEリーグ)
青木夕菜(写真提供:WEリーグ)

 最終的に東京NBは20本のシュートを放ったが、決定機を生かしきれずスコアレスドロー。課題の残る試合となったが、2人のプレーについて、松田監督は「ベレーザの大きな力になることを示してくれたと思います」と高く評価した。

 東京NBは今オフに、なでしこジャパンでも活躍する20歳の藤野あおばがマンチェスター・シティへの移籍を発表。攻撃の軸が抜けた穴は大きいが、台所事情が苦しくなることはない。育成型クラブとして、10代の若いタレントが次々に台頭してくるからだ。2人も、そのサイクルを象徴する存在となった。

【4年間で20cm増!スケールアップしたプレーに注目】

 眞城は15歳の時にU-17女子ワールドカップに飛び級で選出され、1学年上の谷川萌々子とともにボランチを組んで世界を驚かせた逸材だ。海外勢にも負けないフィジカルに両足の長距離砲を兼ね備えた谷川と、小柄ながらもテクニックと機動力に長けた眞城。日本はベスト16で王者スペインに敗れて敗退したが、ダブルボランチの総合力はどのチームにも劣っていなかったと思う。

 谷川の特別な才能は今夏のパリ五輪で全国区となったが、眞城も4月のU17女子アジアカップ時には「早く同じ(なでしこジャパンの)ステージに立ちたいと思います」と吐露していた。そのための努力は惜しまず、身長はこの2年で7cm伸び、体重も9kgアップ。動きのキレやシュートの威力も増している。

動きのキレが増してプレーがスケールアップした眞城(左)。右は落合依和(写真提供:WEリーグ)
動きのキレが増してプレーがスケールアップした眞城(左)。右は落合依和(写真提供:WEリーグ)

「中1の時からは(4年間で)身長が20cm伸びて、スピードも上がってきました。ここからはパワーをもっとつけられるようにしたいと思っています」

 その伸びしろに期待しないわけにはいかない。クラブが14番を眞城に託したのも、その期待の表れだろう。背中で見せるタイプだが、リトルなでしこの白井監督が期待する「言葉、行動でのリーダーシップ」も見せるようになった。

「14番は(長谷川)唯さんがつけていた番号でもありますし、その意味でもしっかり責任を持ってプレーしないといけない。この背番号をもらったからには、自分が結果を出さなければいけないと思っています」(眞城)

 眞城が目指すのは、「自分が点を取ってチームを勝たせる」存在になること。その言葉通り、今年4月のU17女子アジアカップでは5試合でチーム最多の4得点を挙げ、圧倒的な存在感で大会MVPを受賞。2005年大会の原菜摘子、2011年大会の成宮唯、2013年の杉田妃和、2019年の西尾葉音に次ぐ5人目のMVP受賞者になった。

 いずれフル代表入りを見据える新たなタレントの台頭も、リーグカップの見どころの一つ。眞城の活躍は、今季のリーグを沸かせるトピックの一つになるかもしれない。

 次の試合は9月7日にホームの味の素フィールド西が丘に長野を迎える。若きファンタジスタが初ゴールを決める日も、そう遠くないはずだ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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