北海道の致死の危険性がある寄生虫疾患【エキノコックス症】が愛知県でも発見...忍びよる恐怖

北海道には本州ではあまり知られていない致死的な寄生虫感染症である「エキノコックス症」があります。日本では北海道だけのものと思われていました。
ところが、近年、愛知県知多半島で継続的に見つかっており、8月の末からTwitterで話題になっています。
北海道の人はエキノコックスに対して、その怖さを理解しています。しかし、道外の人たちは、その危険性がよくわかっていないようです。筆者は北海道で大学時代を暮らしていました。キャンパス内にキタキツネがいましたが、道民の人たちに興味本位で触れてはいけないと強く言われていました。人も犬も感染する病気です。今日はエキノコックス症という寄生虫疾患の話をします。
愛知県の野犬からエキノコックスが発見

平成26(2014)年3月に愛知県の知多半島にある阿久比町で捕獲された野犬から、愛知県内では初のエキノコックスが検出されました。それを受けて、愛知県では県内のエキノコックス感染状況を把握するために、捕獲された野犬などのエキノコックスの調査を実施しました。
上記の表のように、愛知県でのエキノコックス陽性犬は、県が実施した遺伝子検査(※)で8例、他の施設の検査で1例、計9例確認されています
(※)愛知県では、糞便中におけるエキノコックス虫卵検査は、顕微鏡検査と遺伝子検査(PCR法)を実施しています。
なぜ、エキノコックスが知多半島に

詳しい理由はわかっていませんが、エキノコックス陽性だった野犬の捕獲地域は、全て知多半島です。愛知県全域ではありません。
北海道ではエキノコックスはキツネや犬など寄生していますが、それでお隣の青森でエキノコックスが発見されたのではなく、遠く離れた愛知県で捕獲された野犬において、犬のエキノコックス症が確認されました。なぜ、愛知県の知多半島なのかわかっていません。研究がすすむと理由がわかるかもしれません。
忍びよるエキノコックス症の恐怖とは?
人がエキノコックスに感染すると、治療しないと死にいたることがあり、早めの受診が必要です。しかし、この病気の怖いところは潜伏期がおよそ5~20年と非常に長いことなのです。たとえば、エキノコックスが入った沢の水を飲んでも5年もしないと症状が出ないのです。気がついたときには、死にいたる病になっていることなのです。それでは、詳しくエキノコックス症を見ていきましょう。
(人)
病原体
この病気は動物由来感染症の寄生虫疾患で、エキノコックス(Echinococcus)による感染症です。病原体のエキノコックスは、単包条虫(Echinococcus granulosus)と多包条虫(Echinococcus multilocularis)の2種類があります。
感染経路
経口感染です。以下のようにして体に入ります。
□キツネやイヌなどから排泄された虫卵に汚染された沢の水や井戸水を飲む
□山菜などを生で食べる
□キツネや野犬などを触る
□エキノコックス感染した犬の糞便処理のとき
臨床症状
日本でのエキノコックス症感染報告のほとんどは多包条虫によるものですので、ここでは多包条虫によるエキノコックス症をご紹介します。人が多包条虫に感染しますと、多包条虫の包虫が肝臓で増殖します。
愛知県衛生研究所の生物学部医動物研究室によりますと、以下の通りの症状です。
第1期(潜伏期):およそ5~20年無症状
第2期(進行期):肝腫大、腹痛、黄疸、肝機能障害、腹水貯留など
第3期(末期) :全身状態が強く侵され、肝不全などで死にいたる
治療法
外科手術が一般的です。
(犬)
症状
犬ほとんどの場合、感染していても症状が現れないいわゆる「不顕性感染」です。
犬は元気でもエキノコックスに感染した犬の糞便にはたくさんのエキノコックスの虫卵を排泄します。
まれにではありますが、糞便中に虫体(片節)が見つかる場合があります。犬の糞便中に、白色で長さ1~4mmの虫体や1mm以下で楕円形のものを見つけた場合は、エキノコックスの可能性があるので、動物病院で糞便検査をしてもらいましょう。
感染経路
経口感染です。
エキノコックスに感染した野ネズミを食べたり、口にくわえたりすることで虫卵が体内に入り感染します。
治療法
成虫に対しては、駆虫薬であるプラジクアンテルを投与しますと、ほぼ100%の効果があります。
エキノコックスの予防法

エキノコックスが多く発生しているので北海道への旅行などの際には、以下のような注意が必要です。
□キツネや犬などとの接触を避けましょう
北海道に行くと郊外でもキタキツネがいます。観光客にとっては珍しくかわいいので、触りたくなりますね。でも被毛にもエキノコックスの虫卵がついている可能性もあります。北海道でのキツネの感染率は40~60%という報告があります。
□川や井戸の水、野山の山菜などをそのまま摂取しない

コロナ禍でキャンプなどが流行っています。自然の水は綺麗に見えるのでそのまま飲んでしまう可能性があります。
エキノコックスの虫卵は、肉眼では見ることができないほど小さなものなので、エキノコックスの感染地域では川や井戸水に虫卵が含まれている可能性があります。しっかり煮沸してくださいね。
□犬を山に連れて行く人、エキノコックスの感染地域の人は、犬に野ネズミを食べさせない、接触させない
心配な場合は、定期的にエキノコックスの駆除薬を飲ませてください。
□猫を外に出さない
猫は、犬ほどにエキノコックスに感染することはありませんが、猫の報告もされています。
エキノコックス症の早期発見 早期診断について
(北海道の人)
北海度が委託している医療機関で精密検査を受けることができますので、詳しいことは、市町村又は最寄りの保健所に御相談ください。
(北海道以外にお住まいの方)
北海道HP エキノコックス症の知識と予防によりますと、以下のようなっています。
北海道に滞在したことのある方で、エキノコックス症の血液(血清)検査を希望される場合は、以下の検査機関において、血液(血清)を郵便等で受けて検査を実施していますが、最寄り(もしくはかかりつけ)の医療機関にて採血の実施と血液(血清)の郵送等をご相談いただく必要があります(詳細は以下の検査所でお尋ねください)。
社団法人北海道臨床衛生検査技師会立衛生検査所
〒065-0019 札幌市東区北19条東17丁目
TEL 011-786-7072
FAX 011-786-7073
北海道立衛生研究所
〒060-0819 札幌市北区北19条西12丁目
担当:感染病理科(直通 011-747-2768)
TEL(代表) 011-747-2711
FAX 011-736-9476
今後、本州でもエキノコックスの生息地域が拡大するのか?
愛知県の知多半島でエキノコックスが野犬から発見されたので、今後本州でもエキノコックスの生息地域が拡大するのか気になります。
それを考える上で北海道の事例が参考になります。国立感染症研究所の「北海道のエキノコックス症流行の歴史と行政の対策」によると実はエキノコックスは北海道には元々いませんでした。それでは、少し歴史を紐解いてみましょう。
最初の人の症例は1936年小樽市在住の女性で、北海道北部の礼文島の出身者でした。感染源は1924年からの3年間に中部千島の新知島(シムシル島)から礼文島へ移入されたキツネに寄生していたものと推測されていて、つまり人為的に持ち込まれた寄生虫です。キツネを導入した目的は、毛皮と野ネズミ駆除でした。
このようなことから、単にエキノコックス症を怖れるだけではなく、犬の飼い主は、野原などに連れていく場合は、定期的に駆虫薬を飲ませるなどの心掛けは大切です。山などに行く人はエキノコックスの虫卵が含まれているかもしれないので、生水を口にしないようにしましょう。
人と動物に共通する感染症ですが、科学的な知識を持ち適切に予防すれば人への感染の危険性はありません。