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【危険マダニ】散歩をすると予想ダニしないところに マダニの感染症をどうする?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

夏場にイヌを散歩に連れて行ったり、ネコを外に出したりすると、マダニをつけて家に帰ってくることがあります。

夏だから仕方がないと諦めていませんか。

その考えは命の危険を伴うこともあります。実は、ダニがウイルスや細菌などを保有している場合、刺されたヒトが病気を発症する「ダニ媒介感染症」というものがあります。もちろん、イヌやネコもダニに刺されると病気にかかることがあります。

今日は、マダニが媒介する病気について見ていきましょう。

マダニって?

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イメージ写真写真:イメージマート

まずは、マダニとはどんなものなのでしょうか。

マダニは、森林や草地など屋外に生息する比較的大型のダニです。大きさは吸血前で約3〜4mm、吸血後で約10~20mmで、イエダニの約8倍〜10倍の大きさです。

マダニの多くは、春から秋(3月〜11月)にかけて、活動が活発になります。

食品などに発生する「コナダニ」や、絨毯や寝具に発生する「ヒョウヒダニ」など家庭内に生息するダニとは違うのです。

マダニ類の多くは、ヒトやイヌやネコに取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日間以上)吸血しますが、刺されたことに気がつかない場合も多いといわれています。

ノミの場合は、マダニと違って動き回り、皮膚にしっかりついているということはないので、この点、マダニとノミとは違います。

主なヒトのダニ媒介感染症

まずは、ヒトの場合の病気です。

□重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

潜伏期間は6日〜2週間で、発症すると発熱や食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器系への悪影響などを引き起こします。

頭痛、筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血や下血といった出血症状などが起きることもあります。

2017年SFTSに感染していた野良猫にかまれて50代の女性が、亡くなっています。

SFTSに感染したイヌやネコにかまれたりすると、ヒトはこの病気に感染することもあるのです。

□ダニ媒介脳炎

ダニ媒介脳炎の潜伏期間は2日から28日です。日本では1993年以降、北海道において発生が確認されています。感染経路は主にマダニの刺咬ですが、ヤギの生乳の飲用による感染も報告されています。

症状は発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛から中枢神経系症状まで幅広く、致死率は1~20%、神経学的後遺症が10~40%みられることもあります。

□日本紅斑熱

日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチアという病原体を持つマダニにかまれると感染します。潜伏期間は2〜8日。高熱や発疹が現れ、重症化して死に至ることもあります。全国的に患者が発生しています。

□ライム病

潜伏期間は3日から約1カ月です。野生のマダ二によって媒介される人獣共通の感染症です。

マダニ刺咬後にインフルエンザに似た症状をしめすこともあります。他には、関節炎、および遊走性皮膚紅斑、良性リンパ球腫、慢性萎縮性肢端皮膚炎、髄膜炎、心筋炎などが、現在ではライム病の一症状であることが明らかになっています。

主なイヌのマダニによる感染症

イヌは散歩に行くので、マダニによる感染症になりやすいです。

□イヌバベシア症

イヌバベシア症とは、マダニが媒介するバベシアという原虫がイヌの体内に入り込み、血液中の赤血球に寄生して破壊することで、重度の貧血を引き起こすものです。

赤血球が破壊されるため、貧血症状や血色素尿(赤血球の中の赤い色素による赤い尿)がみられます。また、その他に発熱、粘膜蒼白などの症状も見られます。

重症の場合は、重度の貧血、黄疸、および多臓器不全が起こり、死に至る場合もある恐ろしい疾患です。

□重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

SFTSウイルスを運んでいるマダニにかまれることで感染する病気です。SFTSウイルスを原因とするヒトと動物の共通伝染病です。

症状は発熱、食欲不振などがみられます。イヌは感染しても無症状なことが多いのです。

□ライム病

ライム病とは、マダニが媒介する感染が原因で発症する疾患です。

この疾患に感染しても症状を表すのはごく一部のイヌで、後の95%は無症状です。

最もよく出る症状は関節炎で、複数の関節で腫れが生じます。また、発熱や倦怠感といった症状も見られます。

主な猫のダニによる感染症

完全室内飼いのネコは、マダニにかまれることはほとんどありません。しかし、外に出しているとマダニによる感染症があります。

□重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

SFTSウイルスを運んでいるマダニに咬まれることで感染する病気です。SFTSウイルスを原因とするヒトと動物の共通伝染病です。

発熱、食欲不振の症状がみられ、発症した猫の約70%が死亡しています。

□ライム病

感染してもほとんど症状が見られない猫も多いです。しかし、人間には重篤な症状を引き起こす可能性があります。猫から飼い主に感染することもあり、飼い主の命を脅かすリスクもあるため、注意が必要です。

□猫ヘモプラズマ症

ヘモプラズマがどのようにして猫に感染するのかは、まだはっきりとはわかっていませんが、ダニによる吸血が感染源になるといわれています。また、猫同士のけんかなどでも感染することも確認されています。

症状として、発熱が多く見られます。貧血が起こります。そのため、だるくなって元気がなくなったり、動きたがらなくなったりします。

マダニの予防

厚生労働省 マダニ媒介感染症 より
厚生労働省 マダニ媒介感染症 より

ヒトやイヌやネコは、やはりマダニにかまれないことが重要です。それはどのようにすればいいのかを見ていきましょう。

□ヒトの場合

散歩などで草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、肌を露出したものはひかえましょう。

長袖・長ズボンを着用して、足を完全に覆う靴(サンダルなどは避ける)にしましょう。帽子や手袋を着用し、首にタオルを巻くなどもいいですね。

服は、白っぽいものにすると、マダニを目視で確認しやすいです。

屋外活動後は入浴し、マダニに刺されていないか以下のところを確認してください。

・わきの下

・足の付け根

・手首

・膝の裏

・胸の下

・頭部

□イヌの場合

動物病院でマダニ予防薬を処方してもらえます。液体を体表に垂らす滴下タイプや錠剤などの内服タイプなどがあります。

□ネコの場合

完全室内飼いにすると、マダニにかまれることはあまりありません。しかし、なにかの機会にマダニにかまれると病気になることもあるので、滴下剤タイプの予防薬を用いります(ネコちゃんでは薬を飲ませることが困難なことが多いためです)。

まとめ

暑くなると、ヒトやイヌやネコがマダニによる感染症になることがあります。そのため、科学的な知識を持って、マダニにかまれないように注意しましょう。

参考サイト

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html

ダニ媒介性脳炎

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/434-tick-encephalitis-intro.html

日本紅斑熱

https://www.niid.go.jp/niid/ja/jsf-m/jsf-iasrtpc/9809-486t.html

ライム病

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/524-lyme.html

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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