脱おせち? ネオおせち? 2017年おせち料理の今
おせち料理
おせち料理はもう食べていますか。
日本で正月に食べる祝いの料理と言えば、やはりおせち料理です。
2016年のトレンドでは、「少人数」「ヘルシー志向」「洋食化」「冷凍おせち」といったキーワードが挙げられますが、2017年はどうなのでしょうか。
婦人画報(株式会社ハースト婦人画報社)のおせち料理に関する調査では、以下のようにまとめられています。
核家族化が進んで家族の人数が少なくなったり、おひとり様の需要が増えてきたりしたため、おせち料理のボリュームは少なくなりました。しかし、食文化が多様化したことにより、より多くの消費者の嗜好に応えるため、種類がバラエティに富んだと言えます。
ただ、この調査は婦人画報を読んでいる読者を対象にしたものです。婦人画報を購読している方は所得や社会的な地位が高い方が多いので、一般的な消費者を代表していると言うのは難しいかも知れません。
もっと一般的な消費者が利用するイオンについて見てみましょう。イオンは昨今のトレンドを分析し、以下のようなおせち料理を販売しました。
イオンでは、全くおせち料理を食べない「脱おせち」の人が、2015年度の3割から2015年度の4割に増えていることから、洋食のおせち料理を充実させたり、スイーツばかりのおせち料理(料理ではありませんが)やペットに食べさせるおせち料理といった変わり種を考案したり、特別感を求めていたりする人のために豪華な地域限定おせち料理を用意しています。
先の婦人画報のトレンドと比べても、少人数化や多様化しているという点では同じでしょう。
おせち料理のトレンド
ここ数年、市販のおせち料理は以下のようなトレンドを辿っています。
- ターゲットが広がる
- 商品が多様化する
おせち料理は、これまでと異なるターゲットに合わせ、さらに、商品もバラエティに富むようになっています。
ターゲットが広がる
おせち料理は、親類縁者が集まり、大人数で正月を祝って食べるものでしたが、近年ではそれが崩れてきたことにより、より広いターゲットにも食べやすいようになっています。
これはバレンタインデーに贈るチョコレートとよく似ている傾向でしょう。本来であれば、バレンタインデーは、女性が男性へチョコレートを贈るイベントでしたが、これではターゲットが固定化されてしまいます。特定の男性に関心がある女性が購入することに加えて、普段お世話になっている男性にもチョコレートを贈る雰囲気を作り上げ、義理チョコの市場を開拓しました。
さらなる裾野の拡大を求め、自分のために買って食べる自分用チョコやご褒美チョコ、女性から女性へと贈る同性へのチョコレートと、拡大解釈を広げています。
おせち料理も傾向を辿っており、少ない人数で食べられるようになったり、あるいは、友人同士などで集まって食べるパーティー仕様になったりしているのです。
北海道や東北地方では大晦日からおせち料理を食べ始めたりしますが、こういった地方独特の風習とは関係なく、おせち料理が届いたらすぐに開けて食べ始めるという、新しい食べ方もあります。
おせち料理を状況がだいぶ変わってきているのです。
商品が多様化する
縁起を担ぐ意味合いから、伊達巻、紅白なます、紅白かまぼこ、栗きんとん、数の子、田作りといった料理から、ちょろぎ、くわい、八ツ頭、黒豆、鯛、海老といった食材まで、おせち料理の品揃えはある程度決まっているものです。
しかし、最近ではこういった定番に加えて、ローストビーフやスペアリブ、スモークサーモンやサラダといった洋食や、酢豚や海老のチリソース煮、点心や豚の角煮といった中国料理まで、和食以外のメニューも増えてきました。また、和食の段と洋食の段というようにミックスしたものも人気となっています。
さらには、スイーツだけが詰められたスイーツのおせち料理(料理ではありませんが)が現れたり、人間ではなくペットのためのおせち料理まで出てきていますが、ここまでくると、重箱の段による区分けもなくなり、文化面だけではなく形式面でも、おせち料理の特性はほとんど失われたと言えるでしょう。
これは、サンドウィッチから春巻、カダイフやトルティーヤ、さらにはロールケーキやサイダーまでと、もはや太巻ですらない食べ物が、恵方巻として売られるようになった状況と似ています。
変わり種のおせち料理が現れた理由として、もちろん消費者の嗜好性が多様化したことも挙げられますが、インターネットでも購入できるのが当たり前となって、おせち料理の情報が増えてきた結果、他のおせち料理よりも目立つために、より印象的な方向へとシフトしていったことも挙げられるでしょう。
ネオおせち
1年以上前に行われたおせち料理に関する調査を2つ紹介しましょう。
イオンの調査では4割の人はおせちを食べないという結果を発表していますが、こちらの結果では、もっと多くの人がおせち料理を食べているとなっています。
この差はどこから生まれるのでしょうか。
私は、「脱おせち」の割合が増えているというイオンの説明を少し違う感覚で捉えています。それは、多くの人が、伝統的なおせち料理をあまり食べなくなっているものの、正月に普段とは異なる何か特別なものを食べることに変わりはないということです。
従って、「脱おせち」という表現では現状を正しく表現しておらず、それよりも、おせち料理の食べ方や内容が変わってきたことから、「ネオおせち」や「新おせち」と表現した方がより適切ではないかと考えています。
体験したことがないおせち料理
おせち料理のトレンドを追った考察には、産経ニュースの記事もあります。この記事でも、以下のように、従来とは全く異なるおせち料理の広がりに注目しています。
おせち料理には、長寿や健康、豊作や繁栄、出世や幸福を願った料理が詰められていますが、最近のおせち料理にはそういった縁起物はあまり重要視されず、その代わりに、どれだけ有名なお店が作ったのか、いかに有名な料理人が監修したのか、どれだけ好きなジャンルのおいしそうなご馳走が並べられているかに関心が持たれています。
これからのおせち料理には、これまでいかに体験したことがないものであるかということが重要になり、おせち料理の文化的な要素がより少なくなってくると、食べ慣れた伝統的なおせち料理を食べながら思うのです。