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史上最強候補・藤井聡太三冠(19)史上最強・羽生善治九段(51)を降し王将位挑戦に大きく前進!

松本博文将棋ライター

 11月9日。東京・将棋会館において第71期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ▲羽生善治九段(51歳)-△藤井聡太三冠(19歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は19時34分に終局。結果は106手で藤井三冠の勝ちとなりました。

 リーグ成績は藤井4勝0敗、羽生3勝2敗。天王山ともいうべき大一番を制し、初の王将位挑戦に大きく近づきました。

 羽生九段と藤井三冠の対戦成績は羽生1勝、藤井5勝となりました。

 藤井三冠の今年度成績は39勝7敗(勝率0.848)となりました。

 藤井三冠は年度内五冠獲得の可能性も残しています。

 なお本日おこなわれた▲永瀬拓矢王座-△広瀬章人八段戦は18時19分、111手で永瀬王座の勝ちとなりました。リーグ成績は永瀬2勝1敗、広瀬2勝4敗に。広瀬八段はリーグ陥落が決まりました。

藤井三冠、令和の名勝負を制す

 羽生九段先手で戦型は矢倉。藤井三冠が速攻を見せたのに対して羽生九段は慎重に対応します。角が交換され、相対的に羽生陣は堅さ、藤井陣はバランスに主張のある構えとなりました。

 昼食休憩明けの41手目。羽生九段は1八に遠見の角を据えました。幕末の棋聖・天野宗歩の昔から、この位置に打つ角は好手となることが多いものです。

 58手目。藤井三冠も自陣四段目に角を配置します。両者の角がどうはたらくかが、本局の大きなポイントとなりました。

 60手目。藤井三冠は自玉すぐ近くの歩を突き上げていきます。ぱっと見では危険がともなう構想に思われるところ。しかし成立しているのであれば、さすが藤井三冠ということになります。

 羽生九段は盤上を広く見て攻めていきます。対して68手目。藤井三冠が自玉から金が離れるモーションで歩を取ります。

「そっちー!?」

 解説の三枚堂達也七段もうなった意表の一手。しかし指されてみればバランスを保って好判断か。

 85手目。羽生九段はと金を払わず、飛車を回って相手玉に照準を合わせます。藤井三冠は取れる金を取らずに歩を突き出す。両対局者ともにその実力を遺憾なく発揮し、解説者、観戦者ともにうなり続ける、見応え十分のハイレベルな中終盤が続きました。

 終盤戦。羽生九段は藤井玉に厳しく迫ります。しかし藤井玉は危ないようで寄りません。一方、羽生玉はいつしか包囲網を築かれ、受けなしに追い込まれています。

 羽生九段にはっきりした失着はなさそうに見えました。しかしいつしか藤井三冠が抜け出し、優位に立っていました。

 残り5分の羽生九段。勝ちにつながる手段が見つからないまま、秒を読まれていきます。

記録係「羽生先生、これより一分将棋でお願いします」

 羽生九段は持ち時間4時間を使い、101手目からは一手60秒未満で指す一分将棋。少しうつむいたあと、藤井玉に迫って形を作りました。

 詰将棋を解かせたら、小学生の頃から世界一だった藤井三冠。羽生玉の長手数の詰みを読みきります。

 106手目。藤井三冠は桂を成って鮮やかな開き王手。

「負けました」

 羽生九段は静かに投了を告げ、令和の名勝負に終止符が打たれました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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