介護職員の給与が低いのは、政府だけの問題ではない
政府は今年度、介護職員の給与を増やす仕組みを導入しました。しかし月給が増えた職員が4人に1人にとどまっているそうです。全労連の調査で明らかになりました。政府は、「介護職員処遇改善加算」で介護職員1人当たり平均月1万2000円の賃上げにつながると説明していました。とはいえ当然のことながら、事業所の総収入が増えない限り給与の原資がありません。
私は企業の現場に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。目標を絶対達成させるために、まず最初に必要なことはマインドといつも教えています。経営者はもちろんのこと、従業員ひとりひとりの意識が「目標達成」に向かっているか、がとても重要なのです。
経営計画や戦略、マネジャーのスキルやスタッフの技能など、大切なことは山ほどあります。しかし、事業計画を確実に達成させようという気概がなければ、その通りにはなりません。もしそのような気持ちがなくても目標が達成するのであれば、外部環境に依存している証拠。自分の足で立脚した経営ができているとは言えません。
近年、私のオープンセミナーに、介護事業を営む経営者の方が多数来られます。その方々にいろいろな相談を受けますが、経営のやり方、目標を達成させる手法以前に、私は必ずマインドを確認するようにしています。
「政府のやり方に文句を言うのもいいですが、社長、まず今年度の事業計画を言ってください」
こう尋ねると、ほとんどの方がこのように返事をしてきます。
「横山さん、私は他の受講者と同じような社長なんかじゃありません。単なる福祉施設の代表をやらしてもらってるだけです。それに事業計画は手元にないので、即答はできないのですが……」
まず、自分自身のことを一般的な企業の「社長」とは違う、「企業経営者」ではなく、雇われ人なのだと主張すること自体、間違っています。”政府に雇われている”という認識があるからこそ、不満は内側にではなく外側に向くのです。
また、たとえ雇われ人であったとしても、ご自身があずかる組織の事業計画や目標ぐらいは何も見なくても数字で語ることができなければダメです。たとえイヤイヤであったとしても、「夕方の5時までには東京駅に到着しなければならない」と考えて歩いているのか、それとも「いつまでにどこへ行けばいいかは指示書を見ないとわからないが、とにかく今は南へ行かなきゃ」と言って歩いているのか。前者の人にはアドバイスできても、後者の人にはアドバイスしようがありません。そんなマインドで「時間通りに、指示された場所に着かなかった」と不平を言っても、誰も相手にしてくれないのです。
企業経営をするうえで、収益源を何かに依存していると、外部環境の変化に大きく左右されます。電力会社は業績が悪化すると、電気料金を上げようとします。一般の企業に勤めている人の感覚でいえば、あり得ない意思決定です。業績が不安定な自動車メーカーが、自動車の値段を上げたらどうなるでしょうか。そんなことをしたら、たちまち顧客離反を招きます。
電力会社もガス会社も、介護事業も同じ。経営に対するマインドが未熟なのです。そこで働く人たちと15分も会話をすれば「考えが甘い」と思うことが非常に多い。考える「幅」がとても狭い。経営の基本はリスク分散であり、収益バランスを整えることです。それができていないのです。
介護事業のみを収益の源泉にしていれば、政府の意向、そして競合の事業主などの登場によって、大きな影響を受けてしまいます。小舟で大海を進んでいるようなもの。ひとたび大きな波に襲われたら、ひとたまりもありません。
私の支援先でとてもうまく経営している広告会社があります。強みは「デザイン」。洗練したデザインを創り出すクリエイターを多く抱えているので、ずっと業績が伸びています。
その広告会社の社長は、元銀行マンです。社長はこう言います。「私はデザインのことはさっぱりわからない。さっぱりわからないからいいんだ」と。デザインのことはまるでわからないが、経営に関してはプロだ、とこの社長は言いたいのだと思います。
問題がどこにあるのか、それを正しく特定できないと、その問題の解決策もまた間違ったものになります。そして問題は見えるところだけにあるわけではなく、見えないところにも存在することを知りましょう。多くの場合、現場従事者には見えない問題が潜んでいるものなのです。だからこそ経営を正しく見るプロの存在が必要なのです。
介護業界が今後も伸張していくことは明らかであり、ここに膨大なビジネスチャンスがあることは多くの人が知っています。介護のプロが経営をするのではなく、経営のプロが介護事業を営むことが重要ではないか、と私は常々考えています。