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北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦基地を発見 次期米大統領は北の核・ミサイル開発を止められるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
北朝鮮の潜水艦基地(c)Google, DigitalGlobe(筆者加工)

北朝鮮は今月9日、東岸の咸鏡南道新浦(ハムギョンナムドシンポ)沖で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発の発射テストを行いました。軍事情報誌IHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーが22日、新浦造船所の南2.25キロで建設されている弾道ミサイル潜水艦用防空壕(修理ドッグ)の衛星写真の分析結果を発表しました。

8日には米韓両国が北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に備えるため、高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の在韓米軍への配備を最終決定したばかりです。北朝鮮によるSLBMの発射試験はこれに対抗するもので、水中発射には成功しましたが、10キロメートルの上空で空中爆発しました。

グーグルとデジタルグローブの撮影した衛星写真をIHSが分析しました。写真は著作権の問題があって残念ながら公開できません。

1枚は今年5月8日に撮影されたもので、2つの潜水艦用防空壕(修理ドック、赤色の矢印、全長150メートル)が土で覆われ始めていることが分かります。長さ137メートル、幅13メートルの桟橋が完成間近です。はしけ1隻が着岸しています。

弾道ミサイル潜水艦基地の建設は2009年8月から12年11月の間に始まったとみられます。09年に港湾部分(約6千平方メートル)の大半が囲い込まれ、12年11月までに埋め立てられています。グーグルマップに「北朝鮮 新浦」と入力して調べて見ると、素人にも簡単に確認できます。

グーグルマップの衛星写真で確認できる潜水艦基地(c)Google, DigitalGlobe
グーグルマップの衛星写真で確認できる潜水艦基地(c)Google, DigitalGlobe

衛星写真の左下の方に桟橋とはしけが確認できます。地図で場所を見ると、馬養島海軍基地の対岸にあり、北朝鮮が将来、核弾道ミサイルを搭載した潜水艦を日本海に展開する意図を持っていることが一目瞭然です。

グーグルマイマップで筆者作成
グーグルマイマップで筆者作成

IHSによると、この弾道ミサイル潜水艦基地建設は現在、北朝鮮で進行中の軍事施設計画の中でおそらく最大のものだそうです。

北朝鮮の通常動力型潜水艦(ロメオ型、全長77メートル)や小型通常動力型潜水艦(サンオ型、全長35メートル)より、むしろ開発が進む弾道ミサイル潜水艦(シンポ型またはGorae classと呼ばれている。全長67メートル)を攻撃から守るための軍事施設とみられています。

シンポ型には弾道ミサイルを発射するチューブが1つ設置され、潜水艦発射弾道ミサイルKN-11の発射試験に使用されています。シンポ型に弾道ミサイルを積むには建設中の防空壕では高さが十分ではないため、北朝鮮はシンポ型を踏み台にさらに大きな最新鋭の潜水艦を開発するつもりでは――という見方もあるそうです。

仮に米空軍の14トン大型貫通爆弾(GBU-57)の攻撃に耐えられたとしても地下壕から海に抜ける出入り口は破壊されているでしょう。潜水艦用地下壕を建設することで偵察衛星が弾道ミサイル潜水艦の居場所を捕捉するのを困難にし、戦略的抑止力を強調することになるだろうとIHSは指摘しています。

今年になって加速した北の核・ミサイル開発

また北朝鮮の核問題に詳しいシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所のマーク・フィッツパトリック所長は筆者に対し、次のように解説してくれました。

「大きな潜水艦用防空壕の新しい衛星写真は、北朝鮮の核攻撃能力を発展させる意思を示唆するものです。今年に入って1月に4度目の核実験を強行するなど、著しいエスカレーションが確認されています」

「弾道ミサイル技術を用いた人工衛星の打ち上げ、新しい固体燃料を使ったモーターの試験、小型化された核弾頭や移動式大陸間弾道ミサイル (ICBM)のディスプレイ、大気圏再突入を想定したノーズコーンのヒートシールドのシミュレーション試験、今年2度にわたる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試験、6回もの移動式中距離弾道ミサイル『ムスダン』のテスト」

「北朝鮮が第一ステージに2つのムスダンのエンジンを使うICBMのテストに成功するまでにそんなに時間はかからないかもしれません。すべて国際的な制裁に対する北朝鮮の挑発です。次の米大統領は北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることに高い優先順位を置く必要に迫られることになります」

昨年5 月、北朝鮮は SLBM 発射試験を行った際、金正恩第1書記は「潜水艦から弾道ミサイルを発射できるようになったのは人工衛星の打ち上げに劣らぬ成果だ」と述べています。

北朝鮮は移動式ICBMの能力も向上させています。将来、潜水艦技術や水中発射能力を向上させ、SLBMに核弾頭を搭載できるようになれば、北朝鮮の核戦力が一層強まるのは間違いありません。

(おわり)

参考:防衛省防衛研究所「東アジア戦略概観2016」第3章朝鮮半島-北朝鮮の核・ミサイル能力向上と韓国の対応

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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