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ブランジェリーナ離婚:11年前、ジェニファー・アニストンが受けた屈辱を世間は忘れていないという事実

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
本日発売の「New York Post」の表紙

セレブリティの離婚は、日常茶飯事。それでも、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの破局は、アメリカ中に衝撃を与えた。

この世で最も美しく、最もパワフルなふたりは、慈善活動にも熱心で、世界中を飛び回りながらも6人の子供を育てる、超越した、理想のカップルだった。その6人の子供も半分は養子で半分は血の繋がった子。子供たちにお願いされて2年前にようやく正式に結婚したものの、それまでは結婚という形式にこだわらないと言い続けた彼らの、リベラルでモダンな生き方も、人々を魅了した。

しかし、完璧に見えたカップルも、人間だったのである。

ジョリーの離婚申請が公になってまもなく、ふたりが子育てのやり方などをめぐってしょっちゅう言い争っていたことや、ピットの酒やマリファナにジョリーが不満をもっていたこと、離婚についての話し合いも何度か行われていたことなど、内情のいくつかが明らかになった。そんな記事にショックを受けた人々が次に考えたのは、「ジェニファー・アニストンは今、どんな反応をしているだろうか」ということだ。ツイッターは、アニストンが「良い気味だわ」と喜ぶ姿を想像するメッセージで、たちまち溢れかえった。

日本では、アニストンのことを「ブラッド・ピットと結婚した女優」として知った人が多いと思うが、最高の視聴率を誇る30分もののコメディ番組「フレンズ」でブレイクを果たしたアニストンは、ピットとつきあい始めた頃、アメリカで絶大の人気を誇るセレブだったのである(今もそうだ)。かわいくて近づきやすいイメージで、“アメリカのスイートハート”の肩書きを手に入れた彼女は、美しい髪とタンニングサロンで得た日焼け肌、ヘルシーに鍛えられたボディで、とりわけ同性からあこがれられる存在となっている。

そんな彼女が、超ハンサムな映画スター、ブラッド・ピットとつきあっているという噂が流れた時は、アメリカ中が浮き立った。結婚式でアニストンが誓いの言葉として言ったとされる「あなたの好きなバナナミルクシェイクを、これからも毎朝あなたに作ってあげます」という言葉に、みんなじんわりと感動し、現代のフェアリーテールの甘い香りに浸ったものである。

当然、次に騒がれたのは、「ベイビーはいつか?」だ。子供好きを明言していたピットが、「7人欲しい」というと、アニストンが「7人は無理よ。ふたり」と言ったりしていたのだが、妊娠のニュースは、なかなか出ない。そのうち、アニストンは、「『フレンズ』が放映終了してから」と言うようになった。しかし、「フレンズ」の共演者でアニストンの親友であるコートニー・コックスは、番組放映中に妊娠出産し、その間は工夫して撮影を行っているし、アニストンが演じるレイチェルは、ストーリー上、妊娠出産をすることになるので、やろうと思えばできたはずである。

そして、番組が大人気のまま惜しまれつつ終了した後、いや、終了が決まるや否や、アニストンは立て続けに映画を入れた。「フレンズ」は、その1年前に終了させるかどうかという話も出たのだが、キャストの中で早く終わらせることに賛成だったのもアニストンで、彼女としては、テレビは早く卒業して、本格的な映画女優として認められたいという思いが強かったのだろう。これでまた、ピットとアニストンのベイビーを見る夢は、遠のく。しかも、ピットをがっかりさせてまでアニストンが出た映画は、「Derailed (日本未公開)」「Along Came Polly(日本未公開)」「迷い婚-すべての迷える女性たちへ-」など、どうでもいい映画ばかりである。

そんな時、ピットの主演が決まっていた「Mr. & Mrs.スミス」の相手役女優ニコール・キッドマンが、別の撮影スケジュールが伸びたせいで降板し、代わりにアンジェリーナ・ジョリーが決まった。まさか夫を奪われることになるとは思いもしなかったアニストンは、撮影現場を訪ねて、ジョリーに「ブラッドはあなたとお仕事ができることをすごく喜んでいるわ」と挨拶をしたと報道されている。

ピットとジョリーは、すぐに意気投合した。この時、ジョリーは、ビリー・ボブ・ソーントンと離婚をしたばかりで、カンボジアから養子にとったマードックス君(当時2歳)をひとりで育てていた。映画の仕事も、国連親善大使としての活動もこなしつつ、しっかりと子育てもしているジョリーに、ピットが心を惹かれたのは、容易に想像できる。ピットにすっかりなついたマードックス君が、ある時、ピットに、「あなたは僕のパパ?」と聞いたというのも、有名な話だ。共演者という関係を超えた仲の良さに、当時、クルーは十分気づいていたという。エレベーターの中で手をつないでいたという目撃証言もあれば、ベッドシーンの撮影で、撮影用の下着を、ジョリーが「こんなもの面倒」と脱いでしまったというエピソードもある。しかし、当時、まだ噂でしかなかったピットとの関係について聞かれると、ジョリーは「私には愛人がたくさんいる。ブラッドなんて、いらないわ」と答えている。「父(俳優ジョン・ヴォイト)がいつも浮気をして母を泣かせていたから、私は結婚している人とはセックスをしないの」というのは、その前から彼女が常に語っていたことだ。撮影中、すでにジョリーに恋をしていたことを後になって認めたピットも、「その頃、肉体関係はなかった」と主張している。

そういった細かな情報がちらほらと流れてきても、メディアは、「ブラッド・ピットが不倫!」と大きく騒ぐことはしなかった。「フレンズ」終了パーティにピットが顔を出さずアニストンをがっかりさせるなど、ふたりの関係に陰りが出ている兆候はいくつもあったのだが、メディアにも、このフェアリーテールを守りたいという気持ちがあったのかもしれない。しかし、2005年1月、ピットとアニストンが別離宣言を出すと、ジョリーの存在は、たちまち話題の焦点となる。

「チーム・アニストン」「チーム・ジョリー」と書かれたTシャツが売り出されると、「チーム・アニストン」のほうが明らかに売れた。別離宣言からまもなく、アニストンが離婚申請に挑んだことは「威厳ある行動」、大勢のパパラッチに待ち伏せされてもしっかりと撮影現場に現れることは「プロフェッショナル」と褒め称えられる。だが、本当の屈辱が来るのは、それからだった。別離宣言からほとんど時間がたたない4月、ピットとジョリーがマードックス君を連れてケニヤのビーチにいるパパラッチ写真が広く出回る(こんなところに普段パパラッチがいるはずはないので、情報の触れ込みがあったのではないかとも想像されている)。さらに、「Mr. & Mrs.スミス」の北米公開直前、「W」誌は、ピットとジョリーが夫婦を装う美しい写真の数々を掲載した。ピットにとって、アニストンは、もう完全に過去の人になっていたということだろう。この「W」の写真について、後に、アニストンは、「(ピットには)思いやりの心が欠けている」と、批判している。ピットとジョリーの、血の繋がった初めての子供シャイロちゃんの命がジョリーの中に宿ったのが、アニストンとの離婚が正式に成立するより前だったことも、アニストンの気持ちをさらに逆なでした。そしてその後、ジョリーとピットは次々に子供を増やし、昔の夫が自分と夢見てきたことを、別の女性と実現していく様子を、見せつけられることになるのである。

ジョリーは、過去に、何度か、「ジェニファーが私と話したいのであれば、私はもちろん応じる」と、インタビューで語っているが、アニストンがそういった発言に反応することはなかった。ジョリーの離婚申請の報道についても、アニストンは、公に何のコメントもしていない。しかし「Us Weekly」が伝えるところによると、アニストンは友人に「カルマ(業)ね」と言ったという。また「New York Post」は、「この日が絶対来ると、彼女は最初からわかっていた。彼女に親しい人は、アンジェリーナが駆け引きの天才だと知っている」という、アニストンの身近な人のコメントを掲載している。

アニストンが親しい人のひとりに、ローラ・ダーンがいる。ダーンは、ビリー・ボブ・ソーントンと婚約していたが、ある日、ソーントンがジョリーとラスベガスで電撃結婚をしたという寝耳に水のニュースを聞かされるという体験をしている。今ごろ、アニストンの家では、楽しい女子会が開かれているだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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