Yahoo!ニュース

まるで内戦…トランプ派vs反警察派が衝突、極右派を「処刑」。この日何が起こったか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
アメリカ・ポートランドで極右団体と反対派が衝突した。(写真:ロイター/アフロ)

オレゴン州ポートランド市でも5月以来、BLM運動、警察の不当な暴力(および司法システム)に対してのデモが続いているが、多くは平和的に行われている。

しかし8月29日の夜、デモ隊とトランプ大統領の支持派グループが衝突し、男性が銃で撃たれて死亡する事件が起こった。

31日付のニューヨークタイムズ紙は、射殺されたアーロン・J・ダニエルソンさん(39歳)の最期の日、および犯人と見られる人物のその日の行動を時系列で映し出し、事件を検証した。

ダニエルソンさんは熱心な極右グループ、キリスト教保守派の「パトリオット・プレイヤー」(愛国者の祈りという意味)に属し、この日はトランプの支持運動「トランプ2020クルーズ・ラリー」に参加していた。

まず市内の治安はどうなのか、在住者に聞いてみたところ、ジョージ・フロイドさんが警官に殺された5月以降、毎晩行われるデモには200人弱が今でも集まっている状態というが、この3ヵ月でずいぶん縮小し「全体的にはとても静か」という。

しかしこの日だけは違ったようだ。

映像を見る限り、デモ同士の単なる衝突を超越し、まるで「内戦」状態だ。

まずその日のポートランドはこのような状況だった。

デモが行われるのは、市内ダウンタウン・エリア(街の中心地)だ。その場所から南東部に約16キロメートル離れた場所で、トランプ支持派グループが決起集会を開き、ダウンタウンに向けて車両隊(キャラバン)で行進を始めた。

トランプ大統領の支持派グループのキャラバンが出発準備をしているところ。

前述の記事に、この日の決起集会で別の参加者らと会話をしているダニエルソンさんが映っている。

迷彩柄のバックパックに、(警察擁護派の)ブルー・ライヴズ・マターの旗がついた短パン、「パトリオット・プレイヤー」であることを証明するキャップなどを身につけ、まるで軽装備の兵隊のようだ。腹周りには小さめの防弾チョッキをTシャツの内側に着用しているようにも見える。

またダニエルソンさんと話をしている別の男性のバックパックには、なぜか、デモ時に警官がつけているジップタイ(簡易手錠)が取りつけられている。

ダニエルソンさんらを含むキャラバンは、大きな星条旗やトランプ支持の旗を掲げ、ダウンタウンに向け出発した。警察は彼らの進入を妨ぐことができず、キャラバンが目抜き通りに進入してくると、トランプ反対派であるデモ隊と小競り合いになった。

デモ隊は、キャラバンに向かって通りから物を投げつけたり、トランプ支持の旗に火をつけて燃やしたりしている。それに対しトランプ支持派は、車両から通りのデモ隊に向け、ペイントボールガンや催涙スプレーで威嚇した。

ペイントボールガンや催眠スプレーをアグレッシブに使用している様子。

トランプ支持派のキャラバンの行進。

0:09で左下に現れる白いシャツの上にベストを着た男が、ダニエルソンさんを殺した犯人(アンティファ支持者)と見られている。

ダニエルソンさんが撃たれたのはこの夜だった。

【閲覧注意:以下2つの「映像」のリンク先は、銃撃事件の様子が音声と共に映し出されています】

射殺現場は、デモ集会場所から1ブロック南の通りで、すべてが一瞬の出来事だった。映像を観る限り、ダニエルソンさんは同行者らと道路を横切っていたようだ。男性数人が野次を飛ばし合い大きな罵声が聞こえてきたかと思うと、白いシャツを着た男がダニエルソンさんらに向け、2発発射した。胸部を撃たれたダニエルソンさんは2発目の発砲から4秒後に道路に倒れ込んだ。犯人とされる男は「ここで起こったぞ」などと叫びながら、映像の右手前側に向け逃走した。

別のアングルの映像からは、発砲が始まる直前にダニエルソンさんが吹き付けたとみられる、スプレーの噴射音も確認できる。

銃撃現場をFacebookでライヴ配信した男性はCNNに対してこのように語っている。「撃たれた人(ダニエルソンさん)は、犯人の正面から催涙スプレーを噴射していた」。またダニエルソンさんの同行者は、翌日のインタビューでこう語った。

「犯人は見知らぬ男。この日にいざこざがあったわけではない」「我々に対しての反対運動は長年行われてきたものだが、ここ最近(5月以降)は如実に表れてきた。昨夜はそれがエスカレートし、彼らはこのキャップを見て我々が何者であるかを知り、パートナー(ダニエルソンさん)を処刑した」。

9月1日の放送でCBSNニュースは、「民主党の州においての犯罪は、自分には責任はないと言った」とするトランプ大統領の談話を報じた。これに対して、アトランタ在住のリンカーン・タンブルさんはニューヨークタイムズ紙を通して、このようにコメントしている。

私が生きてきた50年以上の間で、紛争を鎮静化させ、国をまとめることを拒否した大統領はいなかった。それどころか、大統領は恐怖と怒りと暴力を煽っている。再選のチャンスのために暴力をエスカレートさせようとしている。また大統領は今日、ケノーシャ市に向かったが、警官に7発撃たれたジェイコブ・ブレークさんの家族に面会もしていない。

ほかにもさまざまな意見が寄せられている。

ケノーシャの銃撃犯(カイル・リッテンハウス)も同じことが言えるが、間違いは間違いだ。そして絶対的に言えるのは、これらの事件は「ドナルド・トランプのアメリカ」で起こっている。民主党は何十年もの間、これらの州を支配してきたが、この危機が民主党のせいなら、このような暴力は何十年も前から起きているはず。今になってこれらが起こっているのは、無能なトランプが大統領で、不道徳なリーダーシップが要因。

リッテンハウスもこの犯人も、冷酷に人を殺した。左翼、右翼、民主党、共和党は関係ない。欧米諸国で銃事件は日常茶飯事に起こらない。アメリカだけがなぜこのように恐ろしい国になったのか?すべてはあなたたちの大統領によって支持されているように見える。(シドニー在住者)

結束集会の写真にある同行の男性が、なぜジップタイを携帯していたのか?銃やペッパースプレーが自衛のためと言うのは百歩譲っても、人に手錠をかけるなんて明らかに自衛の権利を越えている。自警団としての権力妄想だ。

全米に広がった本来のBLM運動のデモは、武器など持っておらず平和的に行われている。しかし、白人至上主義者による最近の対立を見ているとその多くが武装し、暴動と混乱を煽っている。今こそ深呼吸して、平和的に警察改革をする時だ。

ニューヨークでも、今年は銃撃事件が多発している。筆者も、ニュージャージー出身でリベラル派を主張するアメリカ人の友人がどう思っているか、意見を聞いてみた。

「この国では誰かが銃を携帯していて、いきなり知らない人に撃たれるっておかしな話ではないのか」「17歳の子が護衛のためとは言え、ライフルを持って夜間外出するってどうなの?」。友人は「もちろん明らかにおかしい」「自分も理解できない」と即答した。ではなぜそんなことをする人が後を絶たないのかと尋ねたら、大きなため息をつきながらこのような答えが返ってきた。

「彼らは戦いたくて戦いたくてしょうがないとしか思えない」

Updated: ダニエルソンさんを殺害したとされるマイケル・フォレスト・レイノール容疑者(Michael Forest Reinoehl)は事件後、「ヴァイス」メディアで無実を主張していたが、3日警察に射殺された。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事