バルサに選手放出が必要な理由。ネイマール、スアレス、コウチーニョと分かれた明暗。
クラブレコードの移籍金で加入した選手が、3年後には余剰戦力になってしまった。
フィリップ・コウチーニョのアストン・ヴィラ移籍が決定した。今季終了時のレンタルで、コウチーニョはスティーブン・ジェラード監督の下で再スタートを切る運びとなった。
バルセロナは2018年1月の移籍市場でコウチーニョを獲得した。移籍金固定額1億2000万ユーロ(約156億円)+ボーナス4000万ユーロ(約52億円)でリヴァプールと合意。クラブ史上最高額で、ブラジル代表のアタッカーを引き入れた。
■ネイマールの代役
コウチーニョに求められていたのは、ネイマールの代役としての働きだった。
2017年夏にネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍して以降、バルセロナはその後釜を確保するために奔走してきた。コウチーニョ、ウスマン・デンベレ(移籍金1億500万ユーロ/約131億円)、アントワーヌ・グリーズマン(契約解除金1億2000万ユーロ/約156億円)を獲得したが、残っているのはデンベレのみ。そのデンベレも契約延長の問題で揺れており去就が定かではない。
ネイマールが残した穴は大きかった。大きかった、などという次元ではない。バルセロナは完全に崩壊への一途を辿っていった。
契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)という「置き土産」を残したネイマールだが、ジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長は早々とそのお金を使い切ってしまった。先に述べたデンベレ、コウチーニョ、グリーズマンの獲得費だけを見ても「赤字」である。最終的にはリオネル・メッシに愛想を尽かされ、ソシオによって不信任動議案を出されてバルトメウは辞職に追い込まれた。
だがバルトメウの負の遺産はバルセロナを苦しめることになる。そして、そのタイミングでパンデミックの襲来というアクシデントが直撃した。ジョアン・ラポルタ会長が就任したものの、2020−21シーズンにおいては4億8100万ユーロ(約624億円)の損失が避けられなかった。
■移籍とサラリーキャップの関係性
そう、コウチーニョの移籍はお金の問題に付随している。アストン・ヴィラはコウチーニョの年俸の65%を負担するという。
バルセロナは今冬の移籍市場でマンチェスター・シティからフェラン・トーレスを獲得している。しかしながら、現時点ではフェランの選手登録が可能になっていない。
バルセロナの今季開幕の段階でのサラリーキャップは9790万ユーロ(約127億円)に設定されていた。
今季、セルヒオ・アグエロの引退があり、コウチーニョの移籍が決まった。ただ、昨年11月に獲得したダニ・アウベスの選手登録があり、フェランの登録には、もう複数名の放出が必要だとされている。サミュエル・ウンティティやユスフ・デミルらその候補だ。
「彼が魔法使いと呼ばれているのには何かしら理由がある」とはジェラード監督のコウチーニョ評だ。
ネイマールの代役としてバルセロナに加入したコウチーニョだが、奇しくも、この2人は若い頃からブラジルの世代別代表でチームメートだった。ブラジルの期待の若手選手の一人だったコウチーニョは18歳でインテルに移籍。だがレギュラーポジションを奪取できず、エスパニョールへのレンタル移籍を経てリヴァプールに移籍した。そこでブレイクの時を迎えた。
当時のリヴァプールでは、ルイス・スアレスとダニエル・スタリッジという破壊的な2トップが攻撃を牽引していた。スアレスと共にプレミアリーグ制覇にあと一歩まで迫ったコウチーニョだが、両者のバルセロナでの運命は数奇なものだった。
どちらかと言えば獲得が疑問視されていたのはスアレスだった。典型的な“9番”であり、ストライカーのバルセロナでの適応は歴史的に見ても難しい。「噛みつき事件」に象徴された彼の強いキャラクターも、バルセロナでチームメートとファンに受け入れられるかは微妙なところだった。
一方、コウチーニョは、満を辞してのバルセロナ移籍だった。左サイドでボールを受け、カットインからパンチのあるミドルシュートでネットを揺らす。そのプレースタイルは、間違いなくバルセロナのそれに合致すると思われていた。
だが蓋を開けてみれば、「MSN」の一員として数多のタイトルを獲得したスアレスと、クラブ史上最高額で移籍しながらレンタルでたらい回しにされているコウチーニョと、明暗が分かれた。
近年のバルセロナの補強策は突っ込みどころが満載だ。それでも、補強が如何に難しいかはスアレスとコウチーニョの例から明らかだろう。
いま、バルセロナの補強候補に、アルバロ・モラタやアーリング・ハーランドが挙げられている。ただ、繰り返しになるが、補強というのは難しい。彼らに頼るより、カンテラーノを登用して既存のメンバーでプレーモデルを深める方がバルサ的だという気がするのは、筆者だけではないはずだ。