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K-POPトップアイドル 「熱愛で謝罪」の壮絶事態 現地メディアに頻出する「キーワード」

(写真:REX/アフロ)

2月27日、韓国の人気ガールズグループ「aespa」のメンバー、カリナと俳優イ・ジェウクの熱愛報道が明らかになった。両者は交際を認めたが、これに対しカリナのファンからは失望と怒りの声が殺到している。カリナの所属事務所前には、中国のファンが送った抗議のトラックまで登場する事態に。

アイドルは恋愛ができない。これは業界の規則です。
カリナ、ファンたちがあなたにお金を与え、あなたに愛を与えるのはあなたがシングルだという前提が基本です。
もしあなたに彼氏がいるというのなら、あなたはその全てを失うことになるでしょう。

結局、3月8日にカリナは自筆の謝罪文をSNSに掲載した。

「驚かせてしまい申し訳ありません」
「ファンの皆さまが傷ついた部分をしっかり埋めていきたいです」

なぜ、謝罪をしなければならないのか。この一連の騒動は、韓国の過熱したアイドルファン文化を浮き彫りにしている。BBCなど欧米メディアも「悪名高いK-POP文化」として批判的に報じるほどだ。そこには現代韓国の最新デジタル事情と、伝統的思想の入り混じった姿が見え隠れする。特に日本の視点から見ると特徴的なのが「お金の話がストレートに出てくること」だ。

大手紙が指摘する「5つの理由」

この件については、韓国の「中央日報」が「『カリナ、お前をどうやって育てたと思ってるんだ』…熱愛報道にファンが激怒した理由」という見出しの記事で詳しく報じている。この記事は、韓国最大のポータルサイト「NAVER」の9日のアクセスランキングで1位を獲得するほどの注目を集めた。

記事では、ファンがカリナに怒る理由を5つの観点から分析している。

「自分が育てた」というファンの心理: 韓国ジョージメイソン大学のイ・ギュタク教授のコメントを引用し、「最近のアイドルファンには『自分が一生懸命サポートして(週6回音楽ランキング番組で)1位にしてあげる』という養育の概念がある」と指摘。ファンはまるで親のような感覚でアイドルを支えているという。

約束の違反: 記事はまた、ファンの反応を通じて、彼らがカリナに裏切られたと感じている様子を伝えている。「ファンを失望させず、誇らしい歌手になると言っただろう?」というファンの声が紹介されている。

メディア技術の発達による親密感:国民大学のナ・ウンギョン教授は論文で、「メディアテクノロジーの発達によりメディア消費者とメディア人物たちの間の関係はますます複雑多岐になっている」と指摘。SNSなどを通じて、ファンとアイドルの距離が縮まっていることがうかがえる。

確かに近年、K-POPファンとアイドルをつなぐ有料プラットフォーム「Bubble」の登場で、両者の距離は一気に縮まった。特にカリナは、頻繁なメッセージ送信で知られる「孝行娘アイドル」と言われる存在だったが、熱愛発覚後は疎かになったとの指摘も。キム・ホンシク大衆文化評論家は「ファンの過熱した反応は、個人のプライバシーとガールズグループとしての活動を分離できない文化の遅れが原因」と指摘。その背景の一つとしてこのようなファンプラットフォームを挙げた。「一対一のサービス提供は、間違えるとその人と自分との関係をお金で買ったという誤解を与えかねない」と述べ「アーティストにも望ましくない」と批判した。

アイドルへの過度な献身:「中央日報」の記事は、ファンが送った抗議トラックの文句「How dare you?(よくも!)」を取り上げ、カリナが ファンたちの献身を裏切ったという恨みが込められていると分析している。

私生活とアイドル活動の分離ができない認識: 大衆文化評論家のキム・ホンシク氏は、「ファンの過熱した反応は、個人のプライバシーとガールズグループとしての活動を分離できない文化の遅れが原因」と指摘している。

つまりは、カリナを育て上げたという自負、理想のアイドル像からの逸脱、私的領域への過剰な興味があるという。

aespa
aespa写真:REX/アフロ

なぜ怒りが起きるのか? メディアが強調する「キーワード」

いっぽうで興味深いのは、この韓国語で1130文字の記事で4度「お金」の話が出てくることだ。

最初の3つは「中央日報」記者の見解。

「ファンたちは新曲が出れば数百枚のアルバムを購入し、人気ランキングを上げるために曲をストリーミングし、アイドルに尽くす」

「カリナの熱愛報道が伝えられた後、コアファン層から『お金はファンが使い、許すのは大衆』という嘲りがあった」

「アイドルに尽くす『コアファン』と軽く消費する『ライトファン』の間には、消費時間と金額の規模においても埋められない隔たりがある」

いっぽうで記事にコメントを寄せたイ・ギュタク教授はこう話している。

「コアファンのお金と時間を担保に人気を得る産業構造が変わらなければならない」

中・韓と日本の感覚の違い

お金のことにストレート。ファンが推しに対し、「かけたお金をどうしてくれるんだ」という文脈で不満を抱く。日本だったら「推しへの愛を裏切られた」という話ばかりが強調されそうだが。

筆者自身、日本の若いK-POPファンと言葉を交わすことも多いが、よく冗談交じりで彼女ら・彼らが言う言葉が「集金」だ。K-POPアーティストが来日する。日本のファンたちは高いお金をかけてチケットを買い、グッズを買う。ファンミーティングなどメンバーと交流できるイベントの場合、握手や写真撮影のためにアルバムをたくさん買って会いに行く。ファンも「日本が収益の上がる場」だと分かっている。だがそこの点にナーバスになる、という話しはあまり聞かない。

韓国文化と日本文化の違いだ。日本だとストレートにお金の話をすることが憚られる部分があるが、韓国では違う。それほど親しい関係ではなくともずばっと「給料いくらだ?」と聞くことはよくある。またお父さんの誕生日にかわいい子どもたちが「たくさんお金稼いでね」とメッセージを送ったり。別れ際の挨拶に「富者(お金持ち)になってください」というフレーズもある。

お金の話についてストレート。東アジアまで視点を広げると、じつのところ中韓に共通点があり(事務所前にトラックをよこしたのは中国のファンだった)、日本のほうが「例外」。

この違いが何故生まれたのかと言うと…渋沢栄一氏(今年7月から発行される新1万円札に肖像画が載る人物)が名著「論語と算盤」でかなりざっくり整理するとこういうことを言っている。「もともと中国から日本に伝わった教え(朱子学)では別に金銭を卑しいものと見る習慣はなかった」「しかし日本には間違って伝わった」「武士が金銭に直接関わらなない制度だった」「直接関わらず、自分の道を目指すものこそが尊いと考えられた」。

デジタル技術と昔からの思想。そういったものが入り混じった2024年の「事件」だ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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