始まりは1個のハンバーガーだった。30年以上の長きに渡って学童野球を支援するマクドナルド。
マクドナルドに浸透している地域貢献の理念
「マック」(関西圏では「マクド」)の愛称で、老若男女に広く親しまれているマクドナルド。日本に上陸したのはボウリングブームで沸いていた1971年だ。この年の7月、日本マクドナルドの第1号店が銀座にオープンした。以来マクドナルドは、ファストフードの文化を根付かせてきた。現在は全国津々浦々で、約2900店舗展開している。
そんなマクドナルドが、30年以上の長きに渡って、学童野球の支援をしているのをご存知だろうか。マクドナルドは1986年より「全日本学童軟式野球大会」のサポートを始め、1995年からは冠スポンサーになった。“小学生の甲子園”と呼ばれる「マクドナルド・トーナメント」は今年、第41回を迎える。
「きっかけは1個のハンバーガーだったようです」
教えてくれたのは、日本マクドナルドのコミュニケーション&CR本部 CSR部統括マネージャーの須藤順一氏。大学卒業後の1992年にマクドナルドに入社した須藤氏は、営業とマーケティングを経て、2016年より現在の部署に。ここではCSR(企業の社会的責任)活動の1つとして、全日本軟式野球連盟の大会運営を特別協賛社としてサポートしている。
須藤氏は続ける。
「ある店舗の店長が、試合に向かう野球少年に『試合で打ったらハンバーガーをサービスするよ。頑張って』と声をかけたら、『ホームランを打って勝ちました』と報告にやって来まして。店長は『おめでとう』とハンバーガーを1個プレゼントしたそうです。そこから、チーム、地域へと、サポートの輪が広がったという言い伝えがあります」
学童野球支援の原点はここにあった。
すると他の地域からも「自分たちも学童野球を応援したい」という声が。それを本部が吸い上げる形で全国大会のサポートをするようになった。マクドナルド・トーナメントは地域の発案だったわけだ。
マクドナルドは全店舗のおよそ7割がフランチャイズ店舗である(3割が直営店)。店舗は地元・地域に対する思いが強い。「学童野球をサポートしたいという声が出てきたのも、地域貢献に対する意識が高いからだと思います」(須藤氏)。
毎年8月に開催されるマクドナルド・トーナメントの前には、各都道府県代表チームが、地元店舗で「団結式」を行うのが恒例になっている。ただ、時期は7月中旬と、店舗によっては夏場の繁忙期のまっただ中である。そういう中で保護者や関係者も合わせると総勢約30人になるチームが来店する。それでも店舗は、地元チームを全国の舞台に送り出す団結式を大事にしているという。
こうした地域貢献活動の原点になっているものがある。創業者・レイ・A・クロックの言葉だ。
「私たちをいつも支えてくださっている地域の皆さまへお返しする義務がある」―。
須藤氏は「地域貢献活動の一環であるマクドナルド・トーナメントが、これだけ長く続いているのは、この理念が浸透しているからです」と言う。
マクドナルド・トーナメントの思い出を大切に成長してほしい
マクドナルド・トーナメントで、野球少年・少女のステータスになっているものがある。マクドナルドの「Mマーク」が入ったワッペンだ。種類は3つあり、「都道府県大会出場」、「全国大会出場」、「全国大会優勝」を果たしたチームに対し、その証として授与される。ユニフォームの袖にワッペンが躍る選手はどこか誇らしげだ。
だが一方で、「Mマーク」のワッペンがつけられるチームが限られている。そこで昨年から、全国の約12000チームに対し、「都道府県大会を前に敗れたチームにも、“マクドナルド・トーナメントを戦った”と思ってほしい」と、ヘルメットに貼れる大会ステッカーをプレゼントしているという。
昨年は、学童野球をもっと支援するために、マクドナルド・トーナメントのテーマソング「ダイヤモンド」を作った。一般公募でエピソードを募り、これをもとに、スポーツともつながりが深い人気の音楽グループ、ベリーグッドマンが作詞と作曲。今年から大会の公式テーマソングになっており、全国大会の入場行進でも使用する。全国大会の期間中は店舗でもこのテーマソングを流す予定だ。
「子供たちが大人になり、ふとこの曲を耳にした時に、マクドナルド・トーナメントに出たな、と思い返してくれれば…大会を通じて、当時一生懸命にボールを追った記憶などが、いつまでも心に残っているものにしてほしいのです」
マクドナルド・トーナメントでは、マクドナルドが支援している「ドナルド・マクドナルド・ハウス」(病気と闘う子供とその家族のための滞在施設)へのチャリティ活動も行っている。あくまでも任意であるが、ハウスへの募金に協力してくれたチームには、赤と白のシマのソックス(スマイルソックス)をプレゼント。選手たちはこれを身に着け、都道府県大会や全国大会で入場行進をしている。2019年はおよそ774万円の寄付が集まった。
「日本には重い病気と闘っている子供が約14万人もいると言われています。野球をしている子供たちは、野球ができるのが当たり前と思ってしまいがちですが、自分たちがいかに恵まれているか、チャリティ活動を通して、感謝の気持ちを持ってくれたらと思っています」
代替・独自大会にマクドナルド・トーナメントの名前を使いたいと要望が
昨年は新型コロナウィルスの影響で、マクドナルド・トーナメントも中止を余儀なくされた。
こうした中、須藤氏のもとに、全日本軟式野球連盟から問い合わせが入った。
マクドナルド・トーナメントの都道府県大会を8月末から実施できないか。
都道府県の連盟から多くの声があったとのことだった。最終的には43もの都道府県連盟が、マクドナルド・トーナメントとして代替・独自大会を実施。本来の全国大会に紐づけされた大会ではなかったが、優勝チームには「全国大会出場」のワッペンと優勝ペナントを贈呈した。
須藤氏は都道府県連盟からの要望が嬉しかったという。
「みなさんが、野球を精一杯頑張ってきた少年・少女のために動いてくれて。マクドナルドの支援の想いと通じるものがありましたし、30年以上の支援の歳月、連盟さんと一緒に子供たちを応援してきた積み重ねで、(特別協賛社であるマクドナルドが)認めてもらえたような気がしました」
学童野球人口減少を踏まえた取り組みも検討
学童野球人口の減少が叫ばれて久しい。マクドナルド・トーナメントも、2000年代前半はおよそ15000チームが参加していたが、近年は約12000チームである。プライベートでは学童野球指導者の顔を持つ須藤氏は、時代の流れを肌で感じている。
「一昔前は、スポーツと言えば野球でしたが、その後、Jリーグ誕生を機にサッカーも盛り上がり、今はもっと多様化しています。野球をする子が減ったのは、テニスでもバスケットボールでも、世界で戦う選手が出てきた影響もあるでしょう」
一方で、親の熱は高まりを見せている。都道府県大会を前にした大会でも、子供の雄姿をおさえようと、ネット裏には、脚立に据えられたビデオカメラがズラリと並ぶ。学童野球指導歴9年の須藤氏は「いろいろな選択肢がある中で野球を選んだ子は、たいてい野球経験を持つ、あるいは野球が好きな親の影響があります。親自身も野球に思い入れがあるので、応援のボルテージが上がるのでしょう」と話す。
時代に合った大会にしていくプランも検討中である。「野球を選んだ少年・少女が、マクドナルド・トーナメントを目指すことを通して、野球のスキルをはじめ、相手を思いやる気持ちや感謝する気持ちなど、たくさんのことを学び、成長できるといいなと。そう思っています」。
全国の学童野球全チームには、オリジナルの「野球選手ハンドブック」が届けられる。練習プログラムや、強い体になるための食事法などが盛り込まれているが、毎月1個ハンバーガーが無料で食べられるクーポン券も。
1個のハンバーガーに端を発したマクドナルド・トーナメント。その原点は今も引き継がれている―。