【チョコレートの歴史】甘き香り、遠き記憶に宿りて!日本チョコレート史、甘く苦きその道程
一説によれば、日本人が初めてチョコレートに出会ったのは、1617年にメキシコへ渡った支倉常長とされています。
その頃、薬用として供されたチョコレートは、当時の日本には未知の味覚であったことでしょう。
1797年には長崎でオランダ人を通じ、「しょくらとを」として紹介されましたが、それはまだ庶民の菓子ではなく、もっぱら薬としての利用が語られています。
明治維新後、日本はチョコレートという異国の甘味を積極的に取り入れました。
岩倉使節団が1871年にフランスのチョコレート工場を訪問し、「血液を滋養し、精神を補う」と賞賛されたその菓子は、しばしば贈答品として扱われたのです。
そして1878年、風月堂が「貯古齢糖」と銘打ち国産チョコレートを発売し、その香り高い一歩を記しました。
1918年には森永製菓が一貫生産を開始し、チョコレートはついに高級品から庶民の菓子へと変貌を遂げます。
しかし、戦争の波はこの甘い歴史にも影を落とします。
1940年、カカオ豆の輸入が止まり、代用チョコレートが開発されました。
その材料は何とも異色で、ユリの球根や大豆粉、さらには椰子油などを駆使していたのです。
また、南方占領地のプランテーションを利用し、軍需品としてのチョコレートも製造されました。
戦後、アメリカ進駐軍が大量に持ち込んだチョコレートが子供たちを熱狂させ、「ギブ・ミー・チョコレート!」の一言は焼け跡の風景を象徴しました。
1946年には代用チョコレートが生産され、やがて1960年にカカオ豆輸入の自由化が実現。
多様なチョコレートが市場を潤し、日本の甘味文化を豊かに彩ることとなったのです。
こうして日本に根を下ろしたチョコレート。
その甘さには、歴史の苦みが織り込まれているのかもしれません。
参考文献
ソフィー・D・コウ&マイケル・D・コウ著、樋口幸子訳(1999)『チョコレートの歴史』河出書房新社